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周りにロールモデルのいない時代を生きる学生のみなさんへ

外山滋比古さんの著書「思考の整理学」から
(1986年4月24日初版、株式会社筑摩書房)

#わたしの本棚

私の住む地方では、子どもから働き盛りの大人まで、未来に希望を持てないという人が多い。
そこで、新しい時代を担う学生のみなさんへ、私からのメッセージをお伝えしたいと思います。
それは、「失敗を恐れずに主体性を持って体当たりで学ぶ姿勢を生涯持ち続けてほしい」ということです。

日々、自分にとって大切なことは何かということを問い続けることはとても大切です。
人生の目的は人それぞれです。自分で見つけるよりほかありません。
実生活で失敗を繰り返しながら、挑戦を続けることで答えを見つけるしかない。
それには、先人の教えが役立ちます。

ここでは、外山滋比古さんの著書「思考の整理学」(1986年4月24日初版、株式会社筑摩書房)から、「グライダー人間」と「飛行機人間」という考え方を紹介し、新しい時代を生きる学生に向けた私の願いをお伝えします。

どうして希望を持てないのか

私は多くの人が希望を持てない理由の一つは、高度経済成長期の価値観を政府や社会全体が維持しながら、人口減少の中で伸び悩む経済成長に出口、ゴールが見えないということが原因ではないかと考えています。

バブル崩壊から約30年。
同じ社会の仕組みの中でがんばっても上がらない賃金、暮らしぶり。
それに対する閉塞感を大人が抱えてしまっている。
その大人に囲まれ、育つ子どもたちに希望を持てといっても無理です、というのが私の考えです。

日本の教育の問題点

私は団塊ジュニア世代に生まれ、1990年代に高校時代を過ごしました。
当時の18歳人口は200万人台。今の約2倍の人口です。高学歴を多くの人が目指した時代で受験者数も多く、「受験地獄」といわれるほど、競争の激しい時代でした。

高校は進学を目指す学校だったため、大学受験対応のための教育が中心でした。
いわゆる詰め込み教育です。
外山滋比古さんの著書「思考の整理学」(1986年4月24日初版、株式会社筑摩書房)では、学校は自力で飛ぶことができない「グライダー人間の訓練所である。飛行機人間はつくらない。グライダーの練習に、エンジンのついた飛行機などがまじっていては迷惑する。危険だ。学校では、ひっぱられるままに、どこへでもついて行く従順さが尊重される。勝手に飛び上がったりするのは規律違反。たちまちチェックされる。やがてそれぞれにグライダーらしくなって卒業する。」と説明しています。
今も選択肢は増えたとはいえ、義務教育では同じ教育が続いています。

私は当時、日本の高校での学習意欲を継続できなくなったため、3年生の7月から渡米し、高校交換留学プログラムに1年間参加しました。
選択した授業にもよると思いますが、アメリカの公立高校と日本の公立高校の授業の違いは特にないと思います。先生が教え、生徒が学び、テストなどで生徒の理解度を把握する。

大きな違いと言えば、生徒が能動的に学んでいることでした。
授業は必須科目のほかに豊富な選択制授業を自分で選び組む必要があります。
そこでは自分が何を学びたいのかを選ばなければならない。
そして、高校の授業でも生徒は発言の機会が多いため、自分の考えを伝えられることが求められます。
必然的に自分はどうしたいのか、どう思うのかをどの場面でも考える必要があるのです。

日本の問題は、教育に限らず、集団行動の中で規範を守ることが個人に求められているため、自由な発言が抑えられてしまう点にあると考えています。
私たちは生まれながらにそうなのか。そうでないなら、自由に考え、発言する力を失うのはいつなのか。

いつからグライダー人間になるのか

私は地域新聞の取材記者として活動していました。
その実体験からお伝えすると、小学校へ取材に行くと低学年の子どもたちは活発で自由な発言をするし、部外者である私に興味を持って近づいてきます。
ところが、中学年以上になると、集団の中で意見を自由に発言する子どもとそうでない子に分かれ、決まった子ばかりが発言している様子を目にするようになる。
小学校で概ねの子ども達が自由に発言することをやめて、日本型集団が完成してしまうのだろうと感じています。

本の中で外山さんは、「新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠である。それを学校教育はむしろ抑圧してきた。急にそれをのばそうとすれば、さまざまな困難がともなう」と言っています。

ここでいう「さまざまな困難」を想像すると、たとえば、新しい教育を受けた世代がそうでない世代とのギャップで、世代間の意思疎通が難しくなるなんてことも起きうる。

また、先生たちが日本型の教育で学んだ以上、違う教え方の方法を知らない。
その方法を学ぶ時間や手間が必要になる。
ただでさえ、教育現場も人手不足で大変だというのに、余計な時間を設けるのは難しいなんてことも想像できる。
教育現場の急激な改革は難しいと思います。

新しい時代を生きるために

こうした日本で、主体性を失わずに学び続けるにはどうしたらよいのか。

外山さんは著書の中で、「グライダー専業では安心していられないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力のもち主があらわれたからである。自分で翔べない人間はコンピューターに仕事をうばわれる」と警告を発しています。
現代では、「コンピューター」は「AI」に置き換えられるでしょうか。

学生のみなさんは今、テクノロジーの進歩と急速にかわりゆく世界情勢に影響を受ける現代社会に生きています。
皆さんの親や先生が経験しなかった時代です。
まわりにロールモデルの無い人生を自ら切り開かなければならない新しい時代です。

生きていると想定外のことに直面します。
想定外のことに対応するためには、日頃から想像力を養うことが必要です。
他人のこと、社会で起こる事、世界で起こる事を自分事として捉え、そこで見聞きすることに対し、自分はそれをどう考えるのか、実際に解決できなくとも、どのように解決できるのかを模索すること。
こうした想像力や自分の頭で考える力が想定外のことが実際に起きた時に役立ちます。
どんな時も必要なのは、能動的に生きる姿勢です。自分の人生を主人公として生き抜くのだという気概を持って、生きる。

それには、「疑問を持ち、探究すること。知っているだけでなくその知識を活かし、行動すること」。
こうしたことが、必ず身を結ぶはずです。
ちなみにこれは、江戸時代の陽明学の教えです。
「知行合一」
外山さんも著書の中で、「グライダー兼飛行機のような人間」となるには、どういうことを心掛ければよいのか。その生き方の方法論、実践法を説いてくださっています。
「温故知新」
新しい時代の生き方のヒントは必ず先人の教えの中にあります。

義務教育の中では、「グライダー人間」を育てることに重きをおいているという現状を知ったうえで、失敗を恐れずに主体性を持って体当たりで学ぶ姿勢を生涯持ち続けてほしい。
私の願いです。

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