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マイナスをゼロにする気持ちよさ

広告の仕事はプラスをさらにプラスにする仕事だと感じている。もう既に、立派に経済を回している商品がさらに売れるように企画をする。それはそれで楽しいのだけれど、「マイナス」を「ゼロ〜ちょっとプラス」にする快感を超えることは難しいなあと思う。

例えば、汚部屋を普通に暮らせる程度の部屋にするのは楽しい。目に見える大きなゴミをビニール袋に詰め、ホコリまみれの床に掃除機をかける。ゴチャゴチャになった書類や本を分類して棚に並べ、服をハンガーにかける。混沌としていた世界に、徐々に秩序が生まれていく。

マイナスをゼロにしたり、一気にプラスにしてしまう物語も好き。小さい頃何度も読んだ絵本『ぼくのなまえはイラナイヨ』は、屋根裏部屋に置いてきぼりになったぬいぐるみが洗われ、縫われ、元の姿を取り戻していく。大学で読んだジャン・ジュネ『泥棒日記』では、ジュネが盗人の息子として世間で蔑まされていた自分自身を神格化している。世界にはたまに、ゼロをすっ飛ばしてプラスの極限に飛べる人がいる。

道に捨てられた家具を磨いて使うこと。汚れたワンちゃんをお風呂に入れること。路上で暮らす人にあたたかい毛布をあげること。学習環境がない子どもに勉強できる場所を設けること。想像するだけで、心がすっきりする。エゴだらけだけど、マイナスを払拭する活動を生活に取り入れたいと思う。

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