見出し画像

一生懸命さは、時に人を傷付けてしまう【眠れない夜に】

「僕に歩幅を合わせるって、非効率だと思ってる?」

ギンが、今にも消えそうな声でマツ子に言った。

飛べない鳥、ペンギンに産まれたギン。

ある時、久しぶりに遠くまで移動して来たギンは、

美しく飛び回る、ツバメのマツ子に一目惚れした。

二羽は、寄り添い合って五年目の夫婦。

マツ子は、いつも優しい笑顔のギンに癒されていた。

お互いに、大好きで仲良しだった。

すばしっこく飛び回るツバメと、早く移動するのが苦手なペンギン。

凸凹だと言われれば、それまでだ。

マツ子は、いつも一生懸命に家事をこなしていた。

「そんなに、頑張らなくても良いよ。

僕も、頑張らないといけなくなるからね。」

一緒に暮らし始めた時、ギンがそう声を掛けてくれた。

マツ子は、若くして父親を亡くし、

「自分が、母親を支えなければいけない。」

そう思って、突っ走って来た。

その癖がまだ抜けきらないのか、

それとも、

もともと、キビキビした性格だったのか。


一生懸命さは、時に人を傷付けてしまう。


「そんなこと、思ってないよ。

ギンはたくさん歩いて来て疲れているから、

ゆっくりしてくれて良いんだから。」

普段のマツ子なら、そう言えたのかもしれない。

でも今日のマツ子には、余裕が無かった。

ツバメ村のお盆の時期で、

たくさん気を回さなければならなかった。

ペンギン村とツバメ村は、

お盆の時期が少しずれている。

「何で、もっと早く行動出来ないの?」

そう、ギンに言ってしまった。


ギンは、汗をぬぐいながら答えた。

「僕は、空を飛べないから、これでも必死で歩いているんだ。

君みたいに早く行動するのは苦手なんだよ。」

そう言って、出て行ってしまった。

マツ子はイライラしていた自分にハッと気が付いた。

このところ、忙しく飛び回っていたから、笑顔も忘れてしまっていた。

「どうして、一番大事な人を傷付けてしまうんだろう。」

ギンに完璧を求めすぎていた自分と、

大変さを分かって欲しかった自分に気が付いた。

マツ子は、ギンの優しさに甘えていたのかもしれない。

ペンギン村の両親の事も、一生懸命お世話していたのは、

ギンをこんなに優しく育ててくれた、家族だからだ。

ギンが大好きだから。

だから頑張っていたはずなのに、

どうして、ギンを傷付けてしまったんだろう…


-------------------


翌朝、

ポストにツバメ仲間が運んでくれる、

緑色の葉っぱにメッセージが書かれた、ツバメ便が届いていた。

ギンから連絡が来た。

「今日は、自分の足で歩いてペンギン村に向かいます。

君に、援助してもらわなくても大丈夫です。

ゆっくり過ごしていてください。」

自分に気を遣わせまいと、

悲しさを押し殺して、連絡してくれたのだろう。

消して、周りに敵をつくらず、

仲間に慕われているギン。

マツ子は、そんなギンに嫉妬する時もあった。

そんなギンの事を尊敬しているし、

自分が守りたいとも思っていた。

顔をクシャクシャにして声を潜めて泣いた。

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,357件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?