歴史小説「Two of Us」第1章J‐1
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第1章 TAMAKO met TADAOKI @ the Crossroads
J‐1
母上が待つ〈次の間〉にあなたが戻って来ると、あなたの父上が床の間に背を向け、座敷で家臣と談笑しているのが、見えた。
左右両側には、まだ青年期の武将嫡男達が二手に分かれて座り込んでいて、上座正面に鎮座する父、明智十兵衛光秀の端正な顏が、急にクシャクシャに崩れるのを観た。
その満面の笑みの真っすぐ先を辿り、三女の姫、あなた珠子に目を止め、一斉に注目する。
あなたはハニカミながら、父上の家臣たちに会釈をし、母上煕子(ひろこ)のそばへ、近づく。
「珠子。また、オンモへ出てたのか❔」
父上の問いかけに返事をせず、あなたは早口で話し始めようとした。さえぎる様にかぶせて、父上が笑顔で尋ねる。
「珠子。鉄砲穴から覗いていたな❔硝煙の匂いが、ここまで漂うぞ」
図星だったあなたは、城下町のお祭りの様子を喋るのをあきらめ、詫びのお辞儀に代えた。
「先日の〈長篠城と三方ヶ原の戦い〉で健闘してくれた皆々だ。お前と姉妹たちに、お香の土産ももらったぞ❔」
「ありがたき幸せに、存じます」
十兵衛光秀の一番近くの左側に座を置く細川藤孝(幽斎)が、あなたに声をかける。
「このご時世。女人が火薬の匂いをまとうのもいたしかたないが、珠子殿のようなお美しいお嬢には、こちらの花の香がふさわしいかと存じます」
あなた珠子は何も言わず、ただただ微笑んだ。その途端に、座敷の空気が一変。
一瞬のうちに下座の全員が息をのむ音をたて、氷結したようにはりつめた空気の静寂が降りた。
下座両側の若い武将達は、ものも言えず、眼をそらすことも出来ず、ただただあなたをみつめていた。
その若衆たちの中には、まだ、 父上明智光秀の盟友細川藤孝の息子、与一郎忠興は、お目見えしていない。
1577年、天正5年、秋。
父上明智光秀とともに、あなたは領地に在る別の城、亀山城に滞在していた。
既に、城代を家臣に任せていたが、福知山城下の整備が完了しつつある今、織田家の配下としての戦略で、羽柴氏との融合協力体制を考えねばならないのだ。
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