見出し画像

『おくのほそ道』イントロ02(古典ノベライズ後編)

(昨日 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/n39a8d0d86bb6


 しばらくしてパパとママが帰ってきた。
 いろいろ探し回ったんだけど、おじいちゃんはいなかった。
 でも、近所の人や駅員さんの話から、おじいちゃんはどうやら東京の「千住」という場所に向かっていることが分かった。

「ほらね、そら君。千住という場所はね、さっき言った『おくのほそ道』という本の、旅のスタートの場所なのよ」
 おばあちゃんはそう言ってから、パパとママに、さっきぼくに話した事情を告げた。
 これでみんなが安心して「さぁやっと遅い夕ご飯だ」というときに、家族みんなの顔色が、さあっと青くなっちゃった。

「「「「あ」」」」

 なんと食卓テーブルの上には、おじいちゃんが「万が一」のとき用に渡されている、心臓の薬が置きっぱなしになっていたのだ。
 おじいちゃんに、この薬を渡さなきゃ!
 再びおじいちゃんの「死」に怖くなってしまったぼくは、その薬をつかみ取ると、パパやママの声も無視して、すぐに家から飛び出していた。
 夜の道を走り、公園を抜けて、地元の駅までまっしぐらだ。

「待ってて、おじいちゃん。大事なお薬を、『せんじゅ』っていう場所まで持って行ってあげるからね!」

 このとき、ぼくはまったく分かっていなかったけど――。
 おじいちゃんを追いかけて東北地方を150日くらい駆け巡るぼくの旅は、いままさに始まったばかりだったんだ。


お読みいただきまして、どうもありがとうございます! スキも、フォローも、シェアも、サポートも、めちゃくちゃ喜びます!