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『古今著聞集』刑部卿敦兼と北の方01(原文、単語、訳)

【原文】
 刑部卿敦兼(ぎやうぶきやう あつかね)は、見目のよに憎さげなる人なりけり。
 その北の方ははなやかなる人なりけるが、五節(ごせち)を見侍りけるに、とりどりにはなやかなる人々のあるを見るにつけても、まづわが男の悪さ心うくおぼえけり。
 家に帰りて、すべてものをだにも言はず、目をも見合わせず、うちそばむきてあれば、しばしはなにごとの出で来たるぞやと、心も得ず思ひゐたるに、次第に厭(いと)ひまさりてかたはらいたきほどなり。
 さきざきのやうに一所にもゐず、方(かた)を変へて住み侍りけり。


【単語】
 刑部卿(ぎやうぶきやう)/刑罰を担当する部署の長官
             (発音は「ぎょうぶきょう」)
 見目/見た目、容姿
 憎さげなる/醜い
 北の方/身分の高い人の妻
 (寝殿造りの住居のなかで、北側にある建物に住んだことが由来。
  特定の誰かを指すわけではない、普通名詞)
 五節(ごせち)/舞楽の会
 心うく/嫌である(心憂く)
 だにも/さえも
 かたはらいたき/横から見ていて辛い(傍痛き)
 方(かた)を変へて/場所(部屋)を変えて


【訳】
 刑部卿(ぎょうぶきょう)の敦兼(あつかね)は、見た目が実に悪い人だった。
 その夫人は美人だったが、五節(の舞)をご覧になったときに、それぞれ(の夫人)に美しい人々がいるのを見るにつけても、まずは自分の夫の(見た目の)悪さを不愉快に感じていた。
 家に帰って、全く口さえもきかず、目もあわせず、そっぽを向いていたので、刑部卿はしばらくの間は何が起こったのか理解ができなかったが、次第に(刑部卿のことを)いやだとますます思うようになり、それは横から見ていられないほど辛かった。
 妻は以前のように刑部卿と同じ場所にいることもせず、部屋を変えて住んでいた。

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