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『古今著聞集』刑部卿敦兼と北の方01(古典ノベライズ前編)

 妻は勤労感謝の日の休みを使って、ママ友数人でオペラに行っていたんだけれど、どうもそこから様子がおかしい。
 浮気か? 不倫か?
 ……いやぁそれはないよ、ないない!
 たしかに妻は容姿端麗。
っていうかむしろ眉目秀麗と表現したくなるほどで、宝塚歌劇団に出られそうなほど見目麗しい、顔の小さい、大きな目の、スタイルの良い、凛々しく透き通ったよく通る声の……ダメだ、説明するだけでノロケになっちまう。

 そりゃあ一緒に外を歩けば、彼女が世の男どもの視線の焦点になることは間違いないから、2人が音大在学中に付き合い始めたころは俺も気が気じゃなかったさ。
 でもね、俺みたいな音楽しか能の無い太ったブ男を結婚相手に選ぶくらい、心根の優しい女性なんだから。

(ん? それはもしかして、世間は俺たちの「美女と野獣」ぶりに驚いていたのか?)

 いや、俺さぁ正直自分がブ男って自覚は微塵もなかったんだけどね。
 薄々気が付いたのは、フィアンセの紹介っつって方々を連れまわされたときかな。
 妻周辺のハイソな友人たちや、上流階級の親類縁者や、なにより大金持ちの義両親と話すうち、気づいちゃったんだわ。

「あっ。俺って、自分が思ってるよりブサイクなのかな?」

 でも気にしない!
 ぶはははははは!
 とはいえ、そんな能天気な俺だって、愛する妻の心変わりだけは非常に気になっているんだわ。

(明日へ続く)

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