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『宇治拾遺物語』絵仏師良秀01(古典ノベライズ後編)

(昨日から「古典ノベライズ」の続き)

 部活は美術部にした。
 真面目な部員には本当に失礼ながら、オレは「サボれる」と確信していた。
 顧問は「ハイ、これ」と美術室のカギを新1年生のオレに放って帰ってしまうくらいやる気がないおじいちゃん先生で、オレは放課後の部活時間(昔は強制的にどこかの部に所属するルールがあった)をまるまる自由に使える環境に置けることとなった。

 ただしさすがに、真面目にやっている他の先輩部員3人の目もある。
 とはいえ放課後を自由時間認定していたオレは、どうしてもパソコンを触り続ける環境に身を置いていきたかった。
 そうして出てきた苦肉の策が「オレ、パソコンで絵を描きたいっす」だ。
 いわゆるCGアートに興味があるのだと、オレは適当なウソをついて先輩たちの目を欺くことに成功した。

 ところが、自分も欺かれてしまった。
 猛烈に面白かったんだよ、CGで絵を描くのって。

 もともとのヲタク気質がエンジンとなった。
 やる気のない学校生活が一変したんだ。
 オレのパソコンの中には誰に見せるわけでもない風景画や人物画、並びに抽象画、果ては(これは黒歴史と言ってもいいが)ピカソをまねたキュビズム風の、しかも流行りのアニメキャラのCG画が、既に中1の秋ごろにはかなりのデータ量でみるみる溜まっていった。

 オレは絵の実力をめきめきとつけていく。
 もちろん美術部の先輩3人には、絵の基本を教えてくれるよう乞うた。
 最初は理解を示さなかった親や先生たちは、とある参加年齢不問の大きなCGアートコンテストで過去最年少の銀賞を受賞して以来、態度をころりと変えてくれた。

 そうして受験も迫った中3の年末。
 クリスマスも近いずいぶんと寒い日に、火災が起こった。


 起こった、と書くことを許してほしい。
 あれから四半世紀以上、オレは自分があの火災のまさしく火種だったのかもしれないという良心の呵責にさいなまれている。

(来週の「古典ノベライズ」へ続く)

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