『古今著聞集』刑部卿敦兼と北の方02(古典ノベライズ前編)
(先週 ↓ から続き)
そんなある日、結婚式2次会でのピアノ生演奏の仕事を終えて、21時ころ帰宅したが、妻は家に電気もつけずに自室にこもっているようだった。
いつもであれば、結婚式やコンサートのような格式ばったイベント後には、眠い目をこする小5の長男が決まってタキシードやワイシャツへの物珍しさから着替えを手伝ってくれるのだが、来ない。
妻からの目配せや指示でもあったのだろうか。
真っ暗な部屋の中に妻はもちろん、息子が現れることもなかった。
「2人とも、もう寝ちゃったんだろうな」
無理やり自分を納得させる物言いで、俺は着替えて、リビングの窓を開けた。
名月の照る下で、秋の夜風はもうだいぶ冷たい。
ソファに沈み、いただきもので普段は触りもしない強めのウイスキーを飲みながら、ひとり物思いに耽っていた。
「なにが、いけなかったんだろうな」
妻から避けられている理由が、俺にはまったくわからなかった。
学生時代に音大で出会ってからずっと、こんなこと一度もなかったのだが。
妻の態度が急変した理由を、俺は頭の中でさがし始めた。
妻のひときわ美しい顔を思い浮かべながら、その原因が俺の容姿の劣悪さであるならば、解決しようがないよなぁと、美しい中秋の名月を仰ぎながら、ひそやかにため息をついた。
さすがに能天気な俺だけれども、大事なことほど、心に堪えた。
(明日へ続く)
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