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『おくのほそ道』イントロ01(古典ノベライズ後編)

(昨日 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/nb33ae34d52f5

 それこそお昼過ぎには、馬がぐるぐる走るテレビを、寝っ転がりながら見ていた。
 でも、さすがに夕方になって、『夕焼け小焼け』が街に響いて、太陽が沈んで、お夕飯の時間になると、パパは「まずいな」と呟いていた。

「脳もしっかりしてるから、徘徊ってわけじゃねぇよな、きっと」
「でもあなた。お義父さんは、お医者様から『念のため』ってもしものときの心臓の薬を持たされているじゃない。心配よ」
「うむ、確かに……」

 ぼくには「はいかい」がどんな意味なのかがわからなかったけど、ママと顔を見合わせるパパが困った顔だというのはよくわかった。
 ママが聞いた話だと、毎週行っている習い事の俳句教室の帰りに、どこか行方不明になったみたいだった。

「俳句の帰りに行方不明? まさしくハイカイ老人だな!」

 ママやおばあちゃんの顔色を見る限り、パパはダジャレを言ったみたいだった。
 とにかく、パパとママは、おじいちゃんを捜しに夕食時の街へと出て行った。
 残された僕は、ちょっとした探検のような気分で――おじいちゃんの部屋に勝手に入った。
 昔、みんなでおじいちゃんを捜した結果、勉強机の下の掃除をしていて、隠れるみたいにそのまま寝ていたことがあったから。
 おじいちゃんの部屋に行ったぼくは、その勉強机の上に、おじいちゃんの字の書かれた紙を見つけた。
漢字ばかりで意味は分からないんだけど、そこにはとんでもないことが書いてあったんだ。

「月日は百……旅人なり。舟の上に……馬の口……。死せるあり……?」

 死、という文字が目に入って僕は一気に怖くなった。
 この紙は、まさか……遺書ってやつじゃないのかっ?

「死ぬのっ? おじいちゃん、死んじゃうのっ?」

ぼくはその遺書を手にしたまま、慌てておばあちゃんのところへ走っていった。


(来週に続く)

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