見出し画像

『古今著聞集』刑部卿敦兼と北の方03(原文、単語、訳)

【原文】
 時の音に取り澄まして

 ませの内なる白菊も 移ろふ見るこそあはれなれ
 われらが通ひて見し人も かくしつつこそかれにしか

 と、繰り返し歌ひけるを、北の方聞きて、心はや直りにけり。
 それより殊(こと)に仲らひめでたくなりにけるとかや。
 優なる北の方の心なるべし。


【単語】
 ませ/竹垣を荒く編んだ低い垣根(漢字で「籬」)
 移ろふ/「花の色が変わる」と「心変わりする」と2つの意味を持たせている
 われら/今回は「私たち」ではなく「わたくしめ」くらいの少し卑屈な一人称単数
 通ひて見し人/結婚して妻になった人
 かれ/「枯れ」と「離(か)れ」の掛詞
 めでたく/良く、すばらしく
 優なる/素晴らしい、美しい


【訳】
 この時節にふさわしい澄んだ音色で

 垣根の内側の白菊も 色あせるのを見るのはしみじみと心打たれる
 私が通った結婚相手は こうしているうちに枯れるように私の心から離れてしまった

 と繰り返し歌うのを、夫人が聞いて、心がすぐに元通りになった。
 それからとりわけ夫婦仲がよくなったそうだ。
 すばらしい夫人の心のおかげなのだろう。

お読みいただきまして、どうもありがとうございます! スキも、フォローも、シェアも、サポートも、めちゃくちゃ喜びます!