見出し画像

『宇治拾遺物語』絵仏師良秀02(古典ノベライズ前編)

(先週 から「古典ノベライズ」の続き)

 中3の年末に、学校で火災が起こった。

 あのときオレは、下校時間ギリギリになるまで美術室に籠って受験対策をしていた。
 受験対策と言っても、勉強ではない。
 絵だ。
 受験も近くなってきたこの時期に、オレはとある私立高校に進学したいと考えていた。
 そこはいわゆる芸術高で、例年の推薦入試では舞台演劇学科はなんでもいいから演技を、美術学科はなんでもいいから作品提出を求めていた。
 クリスマスも近く、オレは年内にはお得意のCGアート作品を仕上げておこうと、連日学校に残っては、美術室で創作を進めていたんだっけ。

 今年の受験のお題は、火。
 わりと抽象的なお題であり、美術室所蔵の資料に当たったり、やる気のない顧問にいちおう尋ねたりして、オレはパソコン上の筆を進めた。
 画題は「窯に向かう陶芸家」に決めていた。
 志願先が芸術高であることを考えて、年の割に高尚なものを描くことによって合格を露骨に狙いに行った結果だ。

 ところが、うまくいかなかった。
 オレは焼き物の職人や陶芸窯など、インターネットを駆使して目で見て確認したものは容易く描けたんだけど、受験のお題である肝心の「火」が、まるで描けなかったのだ。
 大人になって振り返れば理由はシンプルで、中3当時の絵のスキルが低かったオレは、静止画で見たものしか描く技術がなかったのだろう。

 当時はそんな原因わからかったし、なにより描けないものは描けない。
 そうやってパソコンを開くだけの時間ばかり過ぎ、焦りが募っていたある日。
 いつものように下校時刻ギリギリまでの居残りを終え、いつの間にか窓ガラスの向こうで真っ暗になったのを、不毛な努力で疲れきった体でぐいっと伸びをしながらそれとなく見とめた、そのときのことだった。
 1階にある窓ガラスの向こう側、植え込みのあたりに焚火ほどの炎が揺れていたのは。

(明日へ続く)

お読みいただきまして、どうもありがとうございます! スキも、フォローも、シェアも、サポートも、めちゃくちゃ喜びます!