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『古今著聞集』刑部卿敦兼と北の方01(ゆるい解説 & 雑記)

 読んだことのある古典の中で、1行目のパンチがとりわけ強烈だったのがこの話。なにせ「主人公はブサイクです」と始まるんですから。
 いまでも一部の高校の教科書には載っているんでしょうか? 時代の移り変わりによって、扱いの難しくなった話のひとつでしょう。

 出典は『古今著聞集』。鎌倉時代の説話集で、日本三大説話集のひとつです。
 過去掲載分の『老僧の水練』 も、『古今著聞集』に入っています。

 あっちがずいぶんと人を食ったファンタジーなのに対し、こちらは1行目から現代にも通じる露骨なルッキズムで幕を開けます。
 刑部卿(ぎょうぶきょう)ってのは刑罰を担当する省の長官ですから、敦兼(あつかね)もちろん超エリート。舞台となった平安時代後期と安易に比べるのは難しいけれども、今だと最高裁の長官クラスって感じ。

 対するこの北の方(=名前ではなくて、、を指す普通名詞)の詳細を。
 父親はおそらく歌人の藤原顕季(ふじわらの あきすえ)。もとは中流貴族だったんだけど、さっさと昇進して財産をたんまりこしらえたり、家格を上げるべく自らが藤原実季(ふじわらの さねすえ)の養子になったりと、個人的にはこの父親はなかなかのやり手といった印象。
 平安時代には、結婚は女性の家の財力がモノを言いましたから、娘のためにも必死だったのかもしれません。
 そういう上流貴族の感覚を知る家の(しかも歌人の!)娘だという背景が、オチにつながる部分も多少ありますので、念のため明記しておきますね。


 あと触れておくべきは五節(ごせち)かな。
 着飾った女性たちが踊る舞踊の会。美の競演! 一大イベント!
 まぁ実は踊る方の女性たちにとっては、衣装が信じられないくらい重かったり緊張のあまり気絶したりと、華やかさの裏側には並々ならぬ責任感や労苦があったようですが。
 女性たちの美しい舞を、北の方は見に行ったということになります。そこに来る女性のダンナが、自分のダンナよりイケメンだったことがこの話のキッカケなんです。
 ちなみに「五節(の舞)」っていうと、いまでは俳句の冬の季語です。


 社会的地位のある醜男(しこお)に嫁いだセレブが、心変わりかその醜さを許せなくなる。現代であれば愛憎ドロドロの不倫劇になりそうですが、さて、平安の世ではどうでしょうか?

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