見出し画像

コロナ禍からの復活なるか?決算から読み解く「エン・ジャパン社」の戦略。HRのIR

元リクのなまリクです。HR領域のIRについて書いています。今回はエン・ジャパン社のIR分析です。
※この回は、エン・ジャパン社「2022年3月期 第1四半期(2021年4月〜6月)」決算発表をもとに解説しています。

気になる1Qアップデート。堅調に推移か?

エン・ジャパン社。「エン転職」を中心に人材紹介、海外事業そしてHRテック事業を手掛けるHR大手企業。HR領域を中心に様々な事業を展開していますが、昨期はコロナ禍により大きな事業影響を受けました。

2021年3月期は減収減益。かなり厳しい状況でYoYで売上およそ△24%、営業利益でおよそ△40%落としています。一方で、2022年3月期通期予想は、売上510億、営業利益は100億の増収増益。YoYでそれぞれ+20%、+25%の回復を見込んでいますが、ビフォーコロナの2019年度比ではおよそ△90%と戻しきらないという予測です。

画像1

エン・ジャパン社 2022年3月期 第1四半期 決算資料より。なまリク作成。

さて今回の1Q(2021年4月〜6月)決算ですが、YoYで売上およそ+15%、営業利益でおよそ+85%と想定を上回る堅調な推移でした。主に「エン転職」がIT・製造派遣 の大口客の需要増により売上高の回復をけん引 。 昨期のコストダウン効果により利益は大幅に回復しています。 広告宣伝費・販売促進費 もYoYで9億ほど増加していますが、売上対広告宣伝費率はおよそ16%と普段のエン・ジャパンとしてはまだ余力がある域です。

画像2

エン・ジャパン社 2022年3月期 第1四半期 決算資料より引用

セグメント別に見ると、看板のエン転職の「国内求人サイト」と額はまだまだですがengageの「HR-Tech 」が1Q決算を牽引。尚、「HR-Tech 」の成長率+185%はセグメント変更の影響を受けており、旧基準に照らすと+30%とのことです。

また、engageは総利用社数は35万社を超えました。

画像3

コロナ禍により課題が明確になった事業ポートフォリオ。

エン・ジャパン社にとって、新型コロナウィルスにより新しいアジェンダが突きつけられた格好となったという意見は前回お伝えした通りです。

これまでだと利益率の高いエン転職を中心とした「国内求人サイト」セグメントで売上・利益を稼いで、engageを中心とした「HR-Tech」セグメントへ投資をするというサイクルで行われていた投資アロケーションですが、 コロナ禍により景気のボラティリティに大きく左右される「国内求人サイト」依存のビジネスモデルのモロさが垣間見れる形になりました。 大手HR企業の中でもエン・ジャパン社は特に求人サイトの依存が高く、旧来型の「求人広告メディア」からの脱却が急務になったという印象を受けます。

「国内求人サイト」の次点となるセグメントは「国内人材紹介」であり、その次は「海外事業」で、ともに100億が目指せる事業サイズです。このような事業ポートフォリオの中で、 大注目だが売上12億程度の「HR-Tech」セグメントが一足飛びで事業の柱になるということは考えにくく、 次の事業の柱とすべき事業アジェンダが多すぎて、選択と集中が難しいフェーズに突入しているのではないかとも思われます。

画像4

エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用

「engage」をどう成長させるのか?

エンゲージを抱える「HR-Techセグメント」は昨期+50%成長、今回1Qも+30%成長しています(旧基準)

一方で、売上10億の大台に乗ったとはいえ非連続的成長の兆しはまだありません。しかしながら今期の試みはちょっと斬新で、採用HP制作SaaSの「engage」で作成した求人を集約したサイト「エンゲージ」をロンチさせました。ややこしいですが、無料の「engage」をタネとした、アグリゲーション求人サイト「エンゲージ」をあらたにロンチさせたというわけです。

画像5

エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用

基本無料のアグリゲーション求人サイト「エンゲージ」の求人は、有料の求人広告媒体である「エン転職」と競合する可能性がありますが、自社内に自らディスラプター(破壊者)を飼ったという見方もできます。このような判断をしたのはHR-Techの成長に既存キャッシュカウ事業の毀損も辞さずでコミットする意思決定があったのではないでしょうか。

一方で、有料「エン転職」の劣化版である無料「エンゲージ」が、ドル箱の有料「エン転職」を駆逐してしまうということも考えられなくありません。「engage」で拡大した顧客基盤をどのように活かすかが問われているのではないかと思います。HR-Techは未だ戦略が不透明と言わざるえなく、今後の展開に期待がかかります。

戦略不透明であるものの、「エンゲージ」はHR テック領域のプロダクトとしては非常にユニークな立ち位置です。求人集客HR テックと言えばIndeed や求人ボックスのような求人検索エンジン型の開発が主流です。一方、求人制作・応募管理系のHR テックであるATSは、indeedやLINEキャリアのような他の求人プラットフォームと接続し求人を流通させることで ATSの価値を高めるのが一般的です。ところが「engage」は求人情報を束ねることで自らが「エンゲージ」という集客プラットフォーム化するという手法をとっておりこの点は斬新です。上手くいけば、群雄割拠でレッドオーシャンながらもマネタイズの兆しが見つからないATS領域のひとつの成長モデルになるかもしれません。

画像6

エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用

今期より 「HR-Tech」はセグメント変更を行い、派遣領域ATSの子会社ゼクウや、定着支援SaaSの「HR Onboard」がジョインします。HR-Techセグメントは30億規模になる見込みですが、 既存のエンゲージ事業の成長率は+30%と見込んでおり大きな非連続的な成長を見込んでいるわけではなさそうです。

依然としてHR-Techセグメントの売上シェアが決算の注目ポイントになるでしょう。また、ゼクウとの取り組み強化や「エンゲージ」サイトの出現による非連続的な ATS のイノベーションが起こせるかに注目したいと思います。

今回の記事はお楽しみいただけましたでしょうか。また次回の記事でお会いしましょう。なまリクでした🐶🐶🐶

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?