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【中編②】開拓して、出会い、ともに耕される

2019年4月に弘前に再度戻ってきた時、私はなぜかブリーチをかけ、アッシュグレーに髪を染めていました。その後すぐに色が落ち、1年ほど金髪で過ごしました。自分が思っている以上に弘前での生活が楽しみだったのかもしれません。それが髪色に出るというのは、なんだか分かりやすくてちょっと恥ずかしい気持ちにもなりました。

地域おこし協力隊のよくないところは、「地域を助けるべき存在」のように扱っているところだと、任期を終えた今、そう思います。地域おこし協力隊が担うべきことは、もともといる地域住民と変わらないと思います。その地域から、自分自身が何を受け取り、何を残していくのか、伝えていくのかを考え、実行する。それが、地域に関わった人のするべきことであり、そこに中の人、外の人もありません。この本の言葉を借りると、タスキをつなぎ、「かけがえのない一選手」にそれぞれがそれぞれの距離感で、力加減で行う、ということだと思います。
しかし、1年目の私はそんなよくない地域おこし協力隊員だったと思います。そのお話からしていきます。

地域おこし協力隊の1年目、私は「りんご産業の課題は後継者不足にある」と信じきっていました。着任してすぐの私とお話した地域の皆さんは、「また、勘違いしたワカモノが来ちゃったよ。」と思っていたのではないかと思います。青森を、弘前を、自分のわずかな経験からでもなんとかいい方向へ持っていきたいと、大変偉そうな立場からものを考えていました。
そんな中、少し課題設定に疑問を持ち始めます。最初に疑問を抱いたのは、データをあらためて確認した時です。実は青森県のりんご産業は、生産者は減少しているのですが、生産量はほぼ横ばいで、販売額は近年増加傾向にあるのです。「りんご産業の未来は暗い」というのは、そのデータからはあまり読み取れないなと思いました。なんでネガティブな印象を私は持っていたのだろうと、疑問をいだき、それ以降、“農業の常識”のような物を疑うようになりました。


そんな私は、2年目にりんご畑を借り、運営し始めます。本当の課題がなんであるかを、自分でりんごを育てることで明らかにしたいと考えたのです。40aの畑を1年間管理しました。1年で十分課題を洗い出せる方もいるのでしょうが、私は1年畑を管理しても、自分が納得する課題を見つけることができませんでした。その代わり、「りんごに成長させてもらっている。」ということを実感します。畑の経験がほとんどない私が管理をしても、りんごの木は成長し、実をつけ、収穫できる状態まで持って行ってくれるのです。この実感は私にとって大変大きな経験で、「りんごや地域は助ける存在である」という見方から脱することができるようになったような気がします。


そして3年目、畑の規模を拡大し、周りからは心配されまくりな私は、2021年8月に会社を設立しました。1期目を終えた今、今後もりんご畑を運営し続けたいなぁと思っているのですが、そういう風に思えたのは、りんごの師匠のおかげだと思っています。りんご農家になるために必要なものとしてよく言われているのが「技術」なのですが、私の師匠は「技術」という言葉を使いませんでした。「技術」ではなく、「怪我をしないこと」を最優先事項に据えていました。私はそれを聞いた瞬間、大変腑に落ち、この師匠は何が重要なのかを自分自身で考えられる方なのだと思いました。そんな師匠のような生産者を、私も目指してみたい。そう思い、弟子入りしました。師匠からの「怪我をしないこと」を忠実に守るべく、うちの会社は週休3日です。毎日畑に出ていた昨年の初め、気づいたら私は突発性難聴になってしまっていました。10日間、点滴のために通院していたのですが、点滴中の病院内で「こんなことを繰り返していたら、畑を続けることができない。」と反省しました。
ですので今は週4勤務で、しかも9時から16時までしか作業をしない、大変ぐうたらな畑となっています。ただ、進捗は去年よりも良いのでこのまま行きたいと思います。

さて、3年目にもなると、やっと課題の再設定ができるようになりました。私が考えるりんご産業の課題は、「規格」にあると考えています。りんごの農作業において、大きな労力となっている作業の1つに「着色管理」というものがあります。これは、赤いりんごを栽培する際に必要な作業で、色づきを良くするため、見た目を良くするための作業です。主に3つあり、りんごの実の周りにある葉っぱを取る「葉取り」という作業、日光を木の下からもあてるための「反射シート敷き」、満遍なく陽の光をあてるための「ツル回し」です。これら「着色管理」の作業で認識すべきこととして、「味には全く関係がない作業である」ということがあります。わたしは、「実が落ちるリスクを犯してまでやっているのに、本当に味には関係がないの?」と疑問でした。しかし、誰に聞いても、味には関係がないと言います。それでも、見た目が良い方が高値で取引されるので、やらざるを得ないのです。その上、生産者の数は減少傾向であり、栽培面積は横ばいというデータから、生産者ひとりあたりの栽培面積は大きくなっていくであろうという仮説が立てられます。手をかけなければならないりんごの数が増えると、栽培の工程で真っ先に切り捨てられるのは「着色管理」です。そうなった場合、見た目の良くないりんごの割合が増えていく可能性があります。見た目重視で「規格」を定めている限り、青森のりんご産業は、自分達で自分達の首を絞めていく可能性があると考えています。そして、「規格」を新しくすることは、生産者だけで取り組めるものではありません。生産者、りんご屋、流通、加工業者、行政、消費者、弘大などの研究機関も含めて考えていかなければならない問題だと思います。
とはいえ、私はなにか大きな権限を持っているわけではないですし、そういう力を持っている方へアクセスしたいとも考えていません。それよりは、まずは会社でできることからやっていきたいと思っています。

私のりんごについての活動は、りんごそのものに成長させてもらい、りんごの師匠に大事なことを教えていただいたからこそできたことです。加えて、地域と自分との関係性みたいなものを、単なる「助け、助けられる」というシンプルすぎる見方から脱することができた要因となったものがもうひとつあります。
それが「津軽あかつきの会」です。


この記事は、2022年11月10日(木)に依頼を受けた、弘前大学人文社会科学部、キャリア形成の基礎、働く人を知る②講演内容をリライトして掲載したものです。
後編①へ続きます。


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