*小説《魂の織りなす旅路》 14才の少年
【14才の少年】
少年の目はどこも見ていない。隣室で寝ていた両親が土砂に巻き込まれた日、少年の時間は動きを止めた。
母親の遺影を持った少年の横に、父親の遺影を持った伯父が立つ。弔問客を前に挨拶する伯父の声は、少年の耳には届かない。少年は静寂に耳を傾け、暗闇に身を沈めていた。
以来、少年は伯父の家から学校に通っている。励まし寄り添ってくれていた友人たちは、無口で無表情になった少年からひとり、またひとりと離れていったが、少年はそれでいいと思った。それが僕には相応しい。
いちいちうるさいなと声を荒げ、これ見よがしに大きな音を立ててドアを閉めたあの夜、土砂が2人の命を奪い去ったあの夜を、少年は何度も何度も繰り返す。
母親は悲しそうな顔をし、父親はもういい放っておけとそっぽを向いた。両親が死んだのは僕のせいだ。少年は、あの日を思い起こすたびに自分を責める。
少年は自分の時間をあの日に止めたまま、周囲の時間に身を任せた。時計の針を伯父夫婦と学校の時間に合わせ、針の動きに忠実に過ごす。それはまるで、時計の針が少年を動かすネジ巻きであるかのようだった。
少年は机に向かい、黙々と勉強をする。時間の空白が怖かった。その空白を埋めるのは、決まってあの日の記憶だからだ。母親の悲しそうな顔と、父親の渋い顔。
両親との楽しい記憶は、あの日の記憶に上塗りされ、2人の笑顔はもう思い出せない。思い出そうとすると、ゴゴゴゴゴッという地響きが全身を揺さぶり、土砂が2人の姿を覆い隠してしまう。
少年は少年の内に深く深く沈み込むと、自らに蓋をした。
次章【7年分の涙】につづく↓
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