naka satoshi/仲 悟志

劇団血パンダ団長。白玉古本店店主。富山県でひっそりと演劇の発生する瞬間を模索中。演劇を…

naka satoshi/仲 悟志

劇団血パンダ団長。白玉古本店店主。富山県でひっそりと演劇の発生する瞬間を模索中。演劇を見たのか実際の自分の経験か、夢でも見たのか。そんな風に記憶に入り込む演劇を作っています。 https://blood-panda.net/

マガジン

  • 世界の秘密

    世界の秘密についてをまとめた掌編集

  • 氷見の奇祭ブリスマスについて

    昭和40年代に廃れ、急速に忘れられた富山県氷見市の奇祭、ブリスマスについて、氷見市出身の歴史研究家、小説家の野坂利雄先生の草稿やメモを参照しつつ、調査を行う、フェイクドキュメンタリープロジェクト。

  • 怪談

    週に一本怪談をアップする試み

  • 血パンダはどうやって演劇を作っているか

    文化庁の文化芸術活動の継続支援事業をきっかけに、文化芸術活動の継続ってなんだよとイラッとした頭を冷やすべく演劇について何か書こうと思ったものの、切り口どうすんだよとなったところ、友人から「ゼロからどういう流れで作ってるの?演劇って」というお題をいただいたので、血パンダの場合について書いていきます。

  • しあわせのかおり前口上

    血パンダ公演『しあわせのかおり』の前口上です。

最近の記事

なにもしない演劇のなにもしない理由

意図的に見られるための身体、見せるための身体ではなく、ただ視界に入る身体がそこにある。 ただ視界に入って、フィクションの登場人物としてそこに居続けるためには、素材となる人そのものとして、一旦不要な記号を削り落とす必要がある。そして最後に残った素材そのものとして舞台上にある必要がある。 そうなれば、その状態はなにより作品に肯定され、作品に必要とされて存在することができる。 素材となる身体は、観客の目に入る瞬間の要請以上に時間を持たなくてはならない。戯曲が持つ時間を立ち上げ、

    • 公演のチケットの売れ行きががあまりにも悪いので、血パンダの作品を、どの程度の力加減で考えてもらえればいいのか……。手っ取り早く本や音楽と絡める試み。

      まもなくの公演『追走する円環』が、かなりストレートに不入りなので、ちょっと主題に沿ったスポイラー的な話でも書いて見られればと思いながら、何を書いたものか困っているところです。 今回の台本は、言葉が詩的になっていくのを止めないで一気に駆け抜けており、作中ではとにかくずっと、そうは思えなくても同じことを言っています。だから、わかるもわからないも、感じ取れるものはあろうから、きっと大丈夫。 「君が君なのはどうしてだい?」 『追走する円環』なんてタイトルが、そもそも『ゲーデル・

      • 演劇だ、演劇。演劇離れがあるのなら、新たに呼び込むんだよ。ということで。

        大阪で公演を打つ先輩が、客の入りが悪くてドキドキしているという。 次の週に富山県で公演を打つ我々も、客の入りが悪くてドキドキしている。 通り一遍の、コンテンツがどうのこうととかいう分析は念頭に置いておいてもらうとして、ここでは割愛する。様々なものから様々に人が離れているし、そもそも人がいなくなっている。 日本国民は貧乏になり、同時に無料の暇つぶしでも十分に時間を過ごすことができる様になっている。 現状、無料で時間を消費していること、消費しやすいものに乏しくなった金が流れてい

        • 公演がまもなくなので、ただのベタな宣伝。

          富山県で活動している劇団血パンダですが、『追走する円環』公演がまもなくです。 チケットが売れていない! 売れていないんだ!今回は100入って欲しい……。 もうね、田舎で10年劇団やってても、100入らないんですよ。無闇に関係者が多くて、各人10人連れてくるみたいな時代でなくなって久しくてですね……。友達の少ない人間が演劇をやっております。 しかも、役者の中には友達の精神生活を慮って気軽に呼べない……。とかどういうこっちゃねんという優しさを発揮してしまう者まで出る始末。優しさの

        なにもしない演劇のなにもしない理由

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        記事

          変化はどうやって起こるか。

          アイルランドに逃げるのがよさそうだと聞いて、とりあえずDuolingoを始めてうっかり117日目になる。英語が使える様になりそうな気配は感じないのだけれど、昨夜見た『マルホランド・ドライブ』が意外とぐいぐい耳に入ってきたので、微細な手応えとして数えておこうと思う。 同時に始めた筈のポール・オースターの書写はあまり芳しく進んでいない。これをなにか話し言葉に切り替えようと思って、谷川俊太郎の訳が隣に書かれているスヌーピーを何冊か手元に引っ張り込んで、セリフを写すことにした。とりあ

          変化はどうやって起こるか。

          先日、がんばっているのに、ダメと言われるから、それは凹むので、ダメというのはやめてと言われて、そこだったか……。と思った。

          失敗やエラーに対して、「気をつける」「がんばる」はなんにもならないし、それでまた失敗やエラーが起こると「気をつけていたけど……」「がんばっているんだけど……」になって、疲弊するだけで全くいいことがない。 俺がそんな事を教えられたのは、30歳になってからだった。 それまでは、「気をつける」「がんばる」でもどうにかなっていたので、世の中には一生「気をつける」「がんばる」で、そのまま暮らしていける人も居るのだろうと思う。 昔、入院した時に、食いもんの蓋をあけたら小蝿が出ていき、

          先日、がんばっているのに、ダメと言われるから、それは凹むので、ダメというのはやめてと言われて、そこだったか……。と思った。

          実際、常に痛かったりなんだりしないと、結局のところ結構どうでもいいという話。

          演劇のことを考えていたときに、何気なく健康の話になってそこから考えたことなので、最終的には演劇の話に戻る予定。 血圧の高い一族で、集まれば血圧の話によくなる。 先日、祖父の弟が100歳で亡くなったのだけれど、その葬式でも血圧の話になった。 祖父の兄弟でついに最後に残された大叔父が、そういえば、祖父はなんでもない時には血圧が200を超えていて、さすがに大丈夫なのかということになっていたということだ。 だが、大叔父の話はつづく。 「ある日、アニキが俺の目の前でダンプに轢かれたこ

          実際、常に痛かったりなんだりしないと、結局のところ結構どうでもいいという話。

          「セリフを言ったら負け」の次だ!

          前回の公演で「セリフを言ったら負け」ということになった劇団血パンダで、今回からは「なんかしたら負け」の模索を始めている。 稽古場で初めて「こうじゃね?」と問うてみたら、みんな結構戸惑ったので、ドキュメントを起こして共有した。 舞台上には反応しか存在しない。必然的に、セリフも自発的に言うのではなく、なにかの反応として、「結果のひとつとして言葉を発する場合がある」「反応の流れのなかで言葉が発される」そんな形になっていた方が、妥当な印象が得られる選択肢を増やすことができる。 演劇

          「セリフを言ったら負け」の次だ!

          どうせ稽古を垂れ流しているし、これも外に垂れ流してみる。

          富山県で人知れず活動している劇団血パンダ。 本番直前前だというのに、役者たちと技法そのものについて再確認をしたもので、テキストにまとめてみんなと共有しました。 以下は、そのテキストに、さらに少し手を加えたもの。 この前のエントリーの中身を、さらに具体的にどうしようかとまとめたものです。 上演用に仕上げているんだか、基礎練をやっているんだかわからない感じになっていて、それはそれで面白いというか、そもそも田舎で気ままに演劇活動ができるのをいいことに、演劇の発生する瞬間をずっと掘

          どうせ稽古を垂れ流しているし、これも外に垂れ流してみる。

          世界の秘密について

          あらすじ これは、ある日インターネットで発見された「世界の秘密」について記しているとされる一連のテキストの現代日本語訳である。 ギリシア語、ラテン語、英語を始めとした世界各地の言語や、エスペラントなどで書かれた一貫性の無いテキストがなぜ「世界の秘密」について書かれた一連のものと言えるのか合理的な理由は定かではないが、これらの話のもとになる歴史的事実や伝説、説話などの調査は、世界各地の有志の手で進んでいる。 ネット上のフォーラムでの議論は世界規模で行われており、オフラインの報

          世界の秘密について

          第65話『魔法の杖と亀』

           全ての夢が叶った後、真夜中にサーカスの天幕の下に行くと、魔法の杖と亀のどちらかを選ぶ最後の選択が待っているといいます。  しかし、どんなに今に満足している人が天幕を訪れても、実際にこの選択に至ったという話しを聞くことはありません。  満足を得た後も、ただ正しく満足をし続けられる人というのは少なく、人が地上に幾つか存在する、最後の場所に至るのは、極めて稀なことです。

          第65話『魔法の杖と亀』

          第64話『小さな小さな劇団』

           スカラベの甲羅で作った小さな仮面が、今も大英博物館に収蔵されています。  この仮面つけて歌劇を行う劇団が幾つも存在して、ヨーロッパのあらゆる王城を巡っていたのです。  最初の頃、劇団は大層な人気でしたが、人気はながく続きませんでした。  この興行を行っていた一座の座長たちは、概ね普通の劇団も持っていたので、あっさりとこの色物から手を引いてしまったのです。

          第64話『小さな小さな劇団』

          第63話『大親分の手並』

           ある時、盗賊の大親分が手下に裏切られていると気がつきました。  自分に慢心があったとは思いませんでしたが、手下に裏切られることなど、実は初めてのことです。  大親分は、盗賊を続けていくために何事も謙虚で慎重に、やり過ぎないことを心掛けいます。  大親分は、ゆっくりと手下の様子を見ることにしました。  手下は確かに大親分に取って代わろうとしていて、その分、自分の力量を過信している様子がありました。  大親分はある時、大きな押し込み強盗の先をわざと諦めて見せ、皆にしばらく姿を消

          第63話『大親分の手並』

          第62話『弾丸が正しく心臓を貫く以前』

           運命を強固に決められてしまう以前、弾丸は花粉が飛ぶように飛ぶこともできました。  その頃はまだ、撃ち抜くものと撃ち抜かれるものの関係もはっきりはしておらず、まだまだ互いの信念や誠実さが様々に作用していました。  弾丸の軌道が全てを圧倒したとしても、それに服従することがなければ、当たるということはありません。  神も悪魔も、最初は弾丸について全く注目していなかったこともありますが、弾丸が当たるか当たらないかは、全く縁や大義といったものの要素が大きかったことは確かです。

          第62話『弾丸が正しく心臓を貫く以前』

          第61話『長雨と税吏』

           長く雨が続き、その地方のあらゆる土地が数年に渡って水浸しになることがありました。  しかし、その地方を担当している融通の効かない税吏は、極力例年と同じ様に徴税するために、あれやこれやと手を尽くしていました。  太守は税吏を諌めましたが、手を緩めておくことが良い結果になるとは思えないと、税吏はあまり良い顔をしません。  もう、どこ向かおうにも、道は水浸しになっており、場所によっては船を使わなければ移動できなくなってしまいました。  しかし、税吏は視察先の段取りを決め、いそいそ

          第61話『長雨と税吏』

          第60話『猿の目的』

           晴れ渡った空の下、かつて繁栄を極めた都市の瓦礫を背にした海辺で、磁石を持った猿が佇んでいました。  十分に機械化された猿は、自らの蒸気機関を動かし、更に多くの猿を製造するための歯車の材料になる金属を探しているのでした。  今は平常に戻っていますが、少し前までは、機械の排斥が盛んに行われ、人は再び自分たちの手仕事を全ての産業の中核に据える闘争を実行したのでした。  猿が仕事をしていた場所はさながら墓所の様で、まだ完全に動くことのできない猿たちが、いつされるとも知れない修理を待

          第60話『猿の目的』