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#文学

ドストエフスキー『罪と罰』

『なんでおれは馬鹿な真似をしたもんだ』と彼は考えた。『彼らにはソーニャというものがいる。ところが、おれ自身困っているのじゃないか』けれど、今さら取り返すわけにも行かないし、またそんなことはともかくとして、けっきょくとり返しなどしやしないのだ――こう思って、彼はどうだっていいというように手を一振りし、自分の住まいへ足を向けた。『ソーニャだってポマードがいるっていうんだからな』彼は通りを歩きながら、毒

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ニーチェ『愉しい学問』

第二版への序文  四

 最後に、最も本質的なことを言わないままでいるわけにはいかない。ひとは、そのような数々の深淵から、そのような重い長患いから、ひいては重い疑惑の長患いから、新しく生まれてふたたび立ち戻ってくる。脱皮して、いっそう敏感になり、いっそう意地悪になり、悦びを好む趣味の上品さが増し、一切の慶事をより繊細に味わえるようになり、いっそう快活な感覚をそなえ、悦びにおけるいっそう危険な第二の

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W.ジェイムズ『宗教的経験の諸相』

原著序 もし私が光栄にもエディンバラ大学における自然宗教に関するギフォード講座の講師に指名されることがなかったら、この書物はけっして書かれなかったであろう。指名を受けて私はそれぞれ十回の講義からなる二課程の講義を果たす責任を負うことになったが、その講義の主題について思案をめぐらした結果、第一の課程は「人間の宗教的欲求」に関する記述的なもの、第二の課程は「哲学による宗教的欲求の満足」に関する形而上学

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