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【連続企画 #3】 なぜ好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し」に変わったのか? そのことで「スマホゲー×キャラゲー」はどのような影響を受けたのか? -「スマホゲー×キャラゲー」の現在地-

おつかれさまです。
スマホゲームのプランナー、プロデューサー、マーケティング担当などをやっているナカムラケンタロウです。

今日は連続企画「キャラゲー×スマホゲーの現在地」の3回目をお届けします。

オタク文化やネット文化では自分が好きなキャラクターを「嫁」と呼んできました。それが何年か前から好きなキャラクターのことを「推し」と呼ぶことが増えて、さらにオタク文化やネット文化の枠を超えて世間一般に「推し」や「推す」が広がっているように感じます。

この変化が「スマホゲー×キャラゲー」に大きな影響を与えていると考えていて、その詳細を深掘りしてみたいと思います。

というわけで、今回もどうぞよろしくお願いいたします!


連続企画「スマホゲー×キャラゲー」の現在地
【#1】アニメのサブスク配信やVTuberの登場は「スマホゲー × キャラゲー」にどのような影響を与えたのか?

【#2】アニメ〜美少女ゲーム〜スマホゲーム〜VTuber…各年代のキャラクターコンテンツにおける「主流」は、何が理由でどのように変化するのか?

【#3】なぜ好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し」に変わったのか? そのことで「スマホゲー×キャラゲー」はどのような影響を受けたのか?


最初に前提を説明させてください【注意点】

最初に定義的な部分や注意点について説明させてください。

ここで言う「キャラゲー」や「スマホゲー」というのは、
主なターゲットを男性に設定した、一定数の女性キャラクターが登場し、キャラクターの魅力を感じることが大きな楽しみとして設計されているゲーム
といったものをイメージしています。
「天華百剣 -斬-」がこのようなゲームであったため、その運営を通して経験できたことをベースにしています。

また、今回は「嫁」という言葉を多く使っているのですが、これはあくまで「オタク文化やネット文化での自分の好きなキャラクターの呼称としての嫁」のみを指しています。
ジェンダー論的な話をしたい意図は一切なく、ただただオタク文化やネット文化を分析的に論じているのみになります。
この部分の意図についてご理解いただけますと幸いです。


1. いつの頃からか「好きなキャラクターの呼び方」が「嫁(○○は俺の嫁)」から「推し(推しキャラ)」に変わっている?

自分の好きなキャラクターのことを「○○は俺の嫁」と呼ぶことは、ネット上やオタク界隈でよく見かけた言葉で、

俺の嫁とは、妻帯している男性が自分の配偶者を指す呼称の一つである。
これが転じて、ネット上やオタクの間では「お気に入りの二次元キャラ」に対して使われる。

ニコニコ大百科より引用 https://dic.nicovideo.jp/a/%E4%BF%BA%E3%81%AE%E5%AB%81

というのが、ニコニコ大百科での定義になります。

ただ、自分の体感では2010年代後半から「嫁」と読んでいる人を見かける機会が減っていったように感じていて、それに代わって「推し」という言葉を目にする機会が増えていったように思います。
「推し」という言葉の辞書的な定義は以下の通りです。

1. 人やモノを薦めること
2. 1から転じて、ファンが応援する対象を指す言葉

「推し」という言葉は、2000年代にアイドルの現場で生まれた用語である。一推しのアイドルグループのメンバーを意味する「推しのメンバー」を略し、「推しメン」それをさらに略した言葉が「推し」である。
(中略)
現在では、アイドルの現場に限らず、様々なサブカルチャーなどに波及し、スポーツなどのメインカルチャーとされる分野でも「推し球団」「推しチーム」などといった言葉が使われることもある。

ニコニコ大百科より引用 https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%8E%A8%E3%81%97

現在では「自分の好きなキャラクター=推し(推しキャラ)」という言葉が「自分の好きなキャラクター=嫁」にほぼ完全にとって変わり、さらにニコニコ大百科にもあるように「推し」という言葉はオタク界隈だけでなく広く世間一般的に浸透した言葉になっているように感じます。

今回は、この「嫁」から「推し」への変化はなぜ起こったのか?ということについて考えてみたいと思います。
さらに「嫁」から「推し」変化したことで「スマホゲー×キャラゲー」はどのような影響を受けたかについても考えます。

それでは、まずは「なぜ「嫁」と呼ばれることになったのか?」について考えていきます。


2. なぜ好きなキャラクターが「嫁(◯◯はオレの嫁)」と呼ばれるようにになったのか?

自分の好きなキャラクターのことを「○○は俺の嫁」と呼ぶことは、ネット文化、オタク文化として長らく定着しています。
ここからは「なぜ「嫁」という呼称が使われるようになったのか?」ということについて考えていきたいと思います。

「嫁」という言葉のシンプルな解釈

「自分と結婚している人」という一般的なニュアンスとしての「嫁」
ニコニコ大百科での説明にもある通り、「嫁」という言葉は「結婚している人が自分の配偶者を指す時の呼び方」として使われることが多いです。
なので、素直に「結婚したいくらい好きな、いやむしろもう結婚していると言ってもいいレベルで好きなキャラクター」を呼ぶ言葉として「嫁」という言葉が使われている可能性があると思います。

ただ辞書的な意味での「嫁」は少し違って…

自分も改めて辞書で調べて初めて知ったのですが、「嫁」という言葉は辞書的な厳格な意味では「息子の妻」ということらしいです。
なので「嫁」という言葉は、本来的な日本語の意味としては「自分の妻」ではなく、親の立場から「息子の妻」を指す呼称ということになります。

ということは、辞書的な意味で「嫁」という場合「自分の配偶者ではない人」ということになります。
さらに民法的な関係値で言うと「配偶者は0親等、嫁は1親等の距離」という距離感になります。

なので「嫁」という言葉は、自分自身からは少し距離感がある言葉である、ということができます。

さらに辞書的な意味での「嫁」は、違った側面の意味もあり…

さらに「嫁」の辞書的な意味をいろいろ調べると「息子の妻として家に迎え入れた女性」といったニュアンスもありました。
オタク的な用語として「フィギュアやグッズをお迎えする」いったものがあると思うんですけど、ここを深読みすると「嫁を迎え入れる」みたいなニュアンスになるのかなと思いました(あくまで想像ですが…)

また「オタク」という言葉の語源が「お宅」と、辞書的には「家」を指す用語だったことから、同じ家ジャンルの用語(家に関する用語)の「嫁」がしっくりきたのかなと想像してみました。
ただ、これ以上のことを確証があるレベルで調べることは難しく、辞書的な定義や語源的な意味から「嫁」の起源を調べて検討するのはこのあたりが限界のようです。

ここまでをまとめると

好きなキャラクターを「嫁」と呼ぶことは、

  • 「結婚したいくらい好きな、いやむしろもう結婚していると言ってもいいレベルで好きなキャラクター」というストレートなニュアンス

  • 辞書的な意味である「息子の妻」というニュアンスに含まれる絶妙な距離感

  • 辞書的な意味の別バージョンである「家に迎え入れた女性」といったニュアンス

  • オタクの語源である「お宅」が家を指す言葉から、同じ家関係の用語である「嫁」と相性が良かった説

といった要素が複合的に絡まり合って、しっくりくると感じる人が多かったのかなと想像しています。

とここまで「嫁」について考えてきましたが、続いて「推し」とは何かということを簡単にまとめたいと思います。


3. 「推し」とは何か?「推す」とはどのようなことを指すのか?

元々はアイドルオタクの人たちの用語でした

「推し」「推す」という言葉は、アイドルの現場(ライブ会場やイベント会場)で生まれた言葉になります。

ニコニコ大百科によると以下のように説明されています。

「推し」という言葉は、2000年代にアイドルの現場で生まれた用語である。一推しのアイドルグループのメンバーを意味する「推しのメンバー」を略し、「推しメン」それをさらに略した言葉が「推し」である。
メンバーを応援する時は「推す」と使い、サ行変格活用で変化する。

ニコニコ大百科より引用 https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%8E%A8%E3%81%97

自分自身も長いこと推しているアイドルグループがいるのですが、そのグループの現場でオタクの先輩たちを見ていると「推す」ということがどのようなことか実感することができます。
たとえば、ライブの歌唱中にソロパートがあると、そのソロパートを歌っているメンバーを推している人たちが全力で推し色のペンライトを高く掲げて振りまくります。
逆にそういったソロパートの時は、歌っていない他のメンバーを推している人たちは、ペンライトを下の方で目立たずに振るのがマナーになっています。
また、ライブ会場の最前エリアには同じ顔ぶれのいわゆる「古参」と呼ばれる方たちがいることが多く、古参の方が多くいるエリアはコールやMIXやオタ芸が超完璧に統率が取れていて、その現場(ライブ会場)の雰囲気だけでなく、ライブそのものをフロアから支えている感が本当に頼もしい限りでした。

自分が推しているグループは握手会や人気投票はなかったのですが、他のグループを見てみると、2019年までは当たり前に頻繁に行われていた「握手会」の「握手券」を何十枚、何百枚と手に入れるためにCDを何十枚、何百枚と購入するのも「推す」という行為の1種です。
同様にメンバーの人気投票がある時には「推し」の順位を少しでも高いものにするため、これまたCDを何十枚、何百枚と買って大量に投票するといったことも「推す」という行為です。

このように、語源的な部分での「推す」はアイドル文化に紐づいています。
(このあたりのカルチャーを詳しく知りたい方は「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というアニメやマンガを見ることをオススメします!)

本質的な意味での「推す」とは、どのような概念なのか?
「ファン」や「好き」とは何が違うのか?

アイドルオタクの人たちの行動で、たとえば「何十枚、何百枚のCDを買って入手した投票券で「推し」に投票して、「推し」の順位を少しでも上げる」といった行動に、本質的なニュアンスが現れていると思っています。
「推す」という行為の本質的な意味は「自分が推しているメンバー(やキャラクターやコンテンツ)のサクセスストーリーを全力で支えること」といったものだと考えています。

そのように捉えると、「好き」や「ファン」といった概念とは一線を画していて、一方的に対象を眺めるだけではなく、「具体的な行動を伴って、推しメンと一蓮托生的にサクセスストーリーを現在進行形で歩んでいく」といったアクティブでインタラクティブな概念が「推す」だと言えます。

なぜアイドルグループのメンバーに対して
「具体的な行動を伴って、推しメンと一蓮托生的にサクセスストーリーを現在進行形で歩んでいく」
といった行為(=推す)が必要になるのか?

それは明確に「競争があるから」だと言えます。
アイドルグループにはポジションがあり、中でも曲の振り付けにおける「センター」は基本的に1人しかなれません。
さらには、その曲をメインで歌唱できるメンバーが限られていたり、大所帯のグループだとメディア等の前に出て目立った活動ができるのが「選抜されたメンバーのみ」といった状況もあります。

そのような競争原理に基づいて生まれるドラマをドキュメンタリー的に切り取って、エンタメコンテンツとして昇華したのがAKBグループで行われている「総選挙」でした。
2009〜2018年の11年間行われていて、そのうち全国放送のゴールデンタイムに生放送で総選挙の結果発表が行われていたのが第4回〜第10回だったそうです。
wikipediaによると、どの回の中継も視聴率は10%を超えていて、高い回では20%を超えています。
このように多くの人が注目していた総選挙の生中継によって「推し」という概念が一気に広まり、一般化したように感じています。


4. なぜ好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し(推しキャラ)」に変わったのか?

「推す」という行為が持つエンターテインメント性

アイドルグループ内に存在する「競争原理に基づいて生まれるドラマ性」を、最も深く楽しめる方法が「メンバーを全力で推すこと」だと思っています。

単純にアイドルの楽曲やパフォーマンスをエンタメコンテンツとして楽しむだけでなく、「推しているメンバーのサクセスストーリーに登場する人物の一人になれる」そして「自分が登場人物の一人として、現在進行形のサクセスストーリーをリアルタイムで体感できる」という楽しみ方ができる。そのことが「推す」という概念に含まれる最も重要な部分なのではないかと考えています。

そして、アイドルだけでなく様々なキャラクターやコンテンツに対して「推す」という言葉が使われている現在の状況は、「多種多様なエンタメコンテンツが競争に晒されている」という状況が「アイドルグループにおける競争原理」と酷似していることを指しています。

この連続企画の「第1回」で見てきたように「様々なコンテンツがスマホの画面を奪い合っている状況=様々なコンテンツが競争に晒されている状況」になります。

そのような状況は「競争に負ける=そのコンテンツが終わってしまう」となるため「自分が好きなコンテンツのサクセスストーリー(=コンテンツが大きくなること、コンテンツが継続すること)を全力で支える」ということが必要になってくる状況だと言えます。

といった形で、アイドルだけでなく、様々なコンテンツで「推す」という概念が使われるようになりました。
おそらく、この頃から好きなキャラクターの呼び方が「嫁」から「推し」へと変化していったんだと思います。

「推す」という行為が持つ「双方向性」

この連続企画の「第2回」では、キャラクターコンテンツの「主流」がアニメから美少女ゲーム、深夜アニメ、スマホゲーム、VTuberへと変化していったことを説明しました。
その中の重要な要素として、新しく主流となったコンテンツには「それまでになかった新しい体験や価値観」があったと紹介しました。
そして、主流の変化を決定づけている要素に「キャラクターとのコミュニケーションがより双方向な形になる」ことがあると説明しました。

例えば、深夜アニメはキャラクターを眺めるだけだったのに対し、美少女ゲームでは「ヒロインを攻略できる」という双方向的なコミュニケーション要素が加わっています。
さらにスマホゲームでは「キャラクターを自分のものとして所有できる」という、より双方向なコミュニケーションを満たす要素が加わり、VTuberに至っては「(生配信のチャットを通して)キャラクターとリアルタイムでコミュニケーションが取れる」という状況になっています。

このような形で「キャラクターとのコミュニケーションにおける双方向性の高まり」が時代の変化の特徴だとすると、その変化に合わせて「好きなキャラクターの呼び方」が「嫁」から双方向のコミュニケーションが内包された「推し」に変化したことは自然な流れのように感じます。

上のアイドルの例で説明した通り、「推す」とは「具体的な行動を伴って、推しているメンバーと一蓮托生的に、現在進行形のサクセスストーリーを共に歩んでいく」といったニュアンスがあります。

それは図式化すると

アイドルオタクが全力であるメンバーを推す
(そのメンバーのサクセスストーリーを全力で支える)
 ↓
推されたのメンバーの人気が出る
 ↓
オタクとして喜びや誇らしさを感じながら、さらにそのメンバーを推す
 ↓
推されたのメンバーの人気がさらに高まる

といった形で「推す」という行為を通じて、双方向のやりとりが発生しています。

この「推す」という行為に含まれる「双方向性」が「キャラクターコンテンツの主流の変化」に上手くマッチしたという考え方ができると思います。

ここまでの要素を簡単まとめると

  • 現在は様々なエンタメコンテンツが「競争に晒されている状況」にあり、自分が好きなコンテンツのサクセスストーリー(コンテンツの拡大や継続)を全力で支える(=推す)必要が生じた

  • キャラクターコンテンツの主流の変化は「コミュニケーション要素の拡大」によってもたらされているため、好きなキャラクターの呼び方も「双方向のコミュニケーション」に適合した「推し」という呼び方に変わった

といった2つになり、この2つの理由によって好きなキャラクターの呼び方が「嫁」から「推し」に変わったのではないかと考えています。


5. 好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し(推しキャラ)」に変わった裏側の面について

ここからは少し今までと趣を変えて、キャラクターコンテンツが背負っている「原罪的な悲しみのようなもの」について考えてみたいと思います。

というのも、ここまで長きにわたって「自分が好きなキャラクターの呼び方」について考えてきました。
それは言い換えると、理論や解釈を振り回して、すごく長々と「好きなキャラクターのことを素直に好きといえない理由」について言い訳してきた形でもあります。

そして、この「素直に好きと言えない理由」が「キャラクターコンテンツの原罪的な悲しみのようなもの」なのかなとも思っています。

これまでの3回で紹介してきた「キャラクターコンテンツ」に登場するキャラクターに対して「好き」という感情を抱く時、その「好き」という感情は「Like」ではなく「Love」的なニュアンスも多分に含んでいると思います。

そのようなLove的なニュアンスでの「好き」という言葉には、次の2つの要素が含まれていると思います。

①相手のことを好ましく思う気持ち
②相手との心理的な距離を縮めたい、その相手からも同様に好きと思われたい気持ち

キャラクターに対して「好き」という言葉を使う場合、この「②のニュアンス」が見えないボディーブローとして心にダメージを蓄積させます。
それは言わなくてもわかる通り、またできれば言葉にしたくないのですが「基本的にキャラクターから好きと思われることがない」からです。

なので「好きなキャラクターの呼び方」に「嫁」や「推し」という言葉を使って、絶妙に②を意識することを避けてきたのではないかと思うわけです。
また、②の感情を前面に出すことを「ガチ恋」といって明確に「推す」とは区別しています。

ただ、この「②のニュアンス」を何とかしたい、という気持ちがあったからこそ、キャラクターコンテンツの主流が「より双方向のコミュニケーションが可能なコンテンツ」へと移り変わってきたんだろうなとも思っています。

好きなキャラクターと「嫁」としてではなく「推し」として関わる、という現在の状況は、オタクの先人たちの努力が受け継がれたことで掴み取った「現時点で最もキャラクターとコミュニケーションが取れる形」なのかと考えると、「嫁」から「推し」の変化は非常に感慨深いものに感じます。


6. 好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し(推しキャラ)」になって「スマホゲー×キャラゲー」はどんな影響を受けたのか?

「嫁」から「推し」に変わってガチャが売れなくなった?

最後に、好きなキャラクターの呼び方が「嫁」から「推し」変わったことで「スマホゲー×キャラゲー」がどのような変化を受けたかについて考えてみたいと思います。

これは誤解を恐れずに端的に言うと「売上が下がった」ということになり、もう少し詳しく言うと「ガチャというマネタイズ手法の効果が下がった」ということになります。

前回、キャラクターコンテンツにおける「主流」の変遷で、スマホゲームが主流となったのは「キャラクターを所有できること」が新たな体験や価値として大きな力を持っていたと説明しました。
その「キャラクターを所有できること」という体験に最適化され、さらに「キャラクターを所有できること」の価値を最大化するようなマネタイズ手法が「ガチャ」だったと考えています。

なぜなら、好きなキャラクターを「嫁」と呼ぶ人が多かった時は「ガチャ=嫁をお迎えする手段」でした。
自分の「嫁」と認識しているキャラクターがいるのに、その「嫁」を入手できていない状況は、オタク的には耐え難い状況です。

SNSの大きな影響

それに加えて当時はガチャで嫁を引いた時のスクショをTwitterにアップする人が今よりも圧倒的に多かったように思います。
このSNSで自慢できる/自慢される状況が、多くの人をガチャへと駆り立てていたと言えます。

さらに、このTwitterで嫁自慢できることは、顕示欲や承認欲求を満たせることにも繋がります。

このように「嫁」と呼ぶ存在ゆえに何としてでも手に入れたくなる状況があり、手に入れたらTwitterで自慢して顕示欲や承認欲求を満たせて、手に入れられなかったらTwitterの自慢を見て絶望的な気分になる(から何としてでも手に入れたくなる状況になる)という無限の欲望ループが、「スマホゲー×キャラゲー」のガチャの売上を押し上げていたんだと思います。

好きなキャラクターのことを「推し」と呼ぶ人が増えた現在の状況

ガチャというマネタイズが最大効果を発揮していた状況から時が進み(体感的には2017〜2018年あたりがピークだったように思います)、好きなキャラクターを「推し」と呼ぶ人が増えると「好きなキャラクターを推したい」という欲求に対してガチャというシステムがそもそも合致しない状況になったと感じています。

なので、上で言ったように「ガチャが売れなくなる」という状況が現在進行形で今も続いているように感じています。

ガチャは「悪い文明」なのか?
「スマホゲー×キャラゲー」に明るい未来はあるのか?

自分はスマホゲームを作る側にいるので「ガチャは絶対的な悪」とは言い切りたくはない、気持ちです。。。
ただ、かつてのようにガチャに頼ったマネタイズを設計してビジネスを成立させるのが難しくなっているのは間違いないので、今後スマホゲームでどのようなマネタイズがベターなのかは模索し続けないといけません。
さらに、この先スマホゲームを作るなら、次の3点を踏まえた上で作らないとより厳しい状況になると考えています。

  1. この連続企画の第1回で説明した「スマホ画面を奪い合う熾烈な競争」が激化していること

  2. 第2回で説明した「新しい体験や価値を提供したコンテンツが次の主流となる」というメカニズムでスマホゲームは主流を奪われていること

  3. この第3回で説明した「好きなキャラクターの呼び方が「嫁」から「推し」に変わった」という状況でガチャによるマネタイズの効果が下がっていること

と、このように書くと、かなり厳しそうな状況です。
とはいえ、最も大きな落とし穴3つが明らかになっている状況とポジティブに捉えることもできるので「落とし穴に気をつけながら素晴らしいコンテンツを作れば、きっと上手くいくに違いない」と思って「考え続けるしかない!」と決意を新たにしています。


さいごに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

今回は大きなポイントとしては1つだけだったので、もう少しライトにまとめられるかなと思っていたのですが、今までで一番時間がかかりました。。。

とはいえ「言われてみればそうだよね」くらいの「嫁」から「推し」の好きなキャラクターの呼び方の変化が、「スマホゲー×キャラゲー」に大きな影響を与えていたことを何となくイメージしていただけたのではないかと思います。

またこの「推す」という言葉は、キャラクターだけでなく「コンテンツそのもの」にも適用される概念で、ゲームのタイトルとしても「コンテンツそのものを推していただく」ということが非常に重要になっていると感じています。

最後に次回予告になるのですが、次は別のテーマを2〜3回に分けて考えてみたいなと思っています。
読めば「なぜ異世界転生ものがこんなに流行っているのか?」みたいなことに対する1つの解が得られるような内容になるよう、準備を進めていますのでしばらくお待ちください。

それでは引き続きよろしくお願いいたします!


連続企画「スマホゲー×キャラゲー」の現在地
【#1】アニメのサブスク配信やVTuberの登場は「スマホゲー × キャラゲー」にどのような影響を与えたのか?

【#2】アニメ〜美少女ゲーム〜スマホゲーム〜VTuber…各年代のキャラクターコンテンツにおける「主流」は、何が理由でどのように変化するのか?

【#3】なぜ好きなキャラの呼び方が「嫁」から「推し」に変わったのか? そのことで「スマホゲー×キャラゲー」はどのような影響を受けたのか?


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