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八華のランサーを知るための資料本メモ③:『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』(星海社新書)【 #FGO 関係、読み出し無料】

0.まえがき

 本記事は、Fateシリーズに出てくる八華のランサーこと、長尾景虎(上杉謙信)を知るために読んだ資料本:

 ●今福匡『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』(星海社新書)星海社、2018年

のメモ書きで、2019年に記録したものを公開します。

*カバー画像出典元:



1.はじめに

 色々とあって、最近は八華のランサーこと、上杉謙信(FGOのプロフィールでは、彼の初期の名である「長尾景虎」が真名とされるが、以下、一般的によく知られた上杉謙信で呼ぶ)のことを学ぶため、本書は2019年9月中から私が読んでいた星海社新書の評伝(以下、本書もしくは新書評伝)です。

 前記事「八華のランサーを知るための資料本メモ②」のミネルヴァ書房の専門的な評伝は、「一般の人にはとっつきにくい堅さを持つ学術的な評伝」で、上杉謙信が「戦国期越後の権力構造の中にいた歴史人物の一人」だったことに重きを置いているものでした。一方、今回の新書評伝は、サブタイトルや帯の「怒り、苦しみ、喜び、そして時に嘲笑(あざわら)う」人間としての「戦国大名・上杉謙信」の実像に迫る本です。

 著者で歴史ライターの今福匡さんは、これまで何冊もの戦国時代の人物伝を手がけられており、歴史学分野のジャーナルに論文が掲載されている方。謙信の人間性を浮かび上がらせるにも、上杉家の文書や他の研究者の著書や文献を引用しながら、謙信が生きたその時々の状況を丁寧に分析した上で、彼の心情を推測しています。喜怒哀楽の現れた時の1つ1つに対し証左を出して謙信の気持ちを書き出したり、詳細が不明なところは今後の研究進展を望むと述べたりして、スタンスはほぼ歴史学者のそれでした。

 本書の文体は、ミネルヴァ書房の評伝より柔らかく、語彙はネット民にもお馴染みのものが使われ(腹筋崩壊といった今風の語句での説明など)、読みやすい印象です。ただし、登場する起請文や書簡などの文献史料、それに使われた印判の図などが豊富に引用されており、内容は非常に濃く感じられました。全体で280ページ程度で、一般的な文芸作品の文庫本と同じくらいの長さ(文字数にして約10万字)。中身が濃厚なだけに、ミネルヴァ書房の評伝とは別の意味で読むのに時間を必要としたように思います。

 今回は、謙信の人間像に迫った新書評伝について、主に資料本メモ②では読み取れなかった情報を中心に、その一部を整理した上で記述しておこうと思います。



2.今福匡『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』(星海社新書)の内容とコメント

 2-1.生い立ちから守護代長尾家の頭領になるまで 

 資料本②の評伝では省かれていましたが、本書では、謙信の出自、守護代長尾家の頭領に彼が就任するまでの背景や経緯が詳しく書かれています。具体的には、序章を中心に、甲信越地方の地理的な説明、および各地域にいた国衆のルーツの話がありました。このあたりは事前知識が読者の頭に入る導入部分で、親切な構成になっていると感じます。

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