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LTADまとめ⑩第8章 上達までの時間の必要性

第8章 上達までの時間の必要性

「1万時間の法則」という言葉があります。
これは、「ある分野で一流になるためには、最低でも1万時間の練習が必要である」という法則です。

この法則については賛否両論ありますが、
個人的には「卓越した技術を身につけるには長い時間がかかる。」ということについては同感です。

具体的にそれが正確に1万時間であるかどうかは別として、
いかに効率的な練習を行い、最短の時間で技術の習得を図ったとしても、
やはり、一流になるにはそれ相応の時間がかかると思うのです。

余談ですが、私は保健体育の教師として、
既に1万時間以上の保健体育の授業を行なってきました。
これは気のせいかもしれませんが、私個人の感覚として、授業実施1万時間(教職経験約20年目)を超えたあたりから、授業の質が明らかに変化したように感じています。

育成年代の指導者として、効率的に選手の能力を向上させることは重要ですが、
やはり、いいものは時間をかけないと作れないということもまた事実ではないでしょうか。LTADにおいても、スポーツの成功において時間をかけることの重要性が説かれています。

この章では、LTADの10個のキーファクターのうちの一つ、「上達までの時間の必要性」についてまとめました。

※ここから先はLTAD第8章「上達までの時間の必要性」を簡単にまとめた内容になります。

はじめに

一夜にしてエリートアスリートになる人はいませんし、スポーツにおける卓越性は魔法のように得られるものではありません。また、オリンピックやウィンブルドンで金メダルを獲得するためには、生まれつきの運動神経だけでは不十分です。

このような成功は、選手、親、コーチの忍耐力を必要とする長時間の練習のたまものです。音楽家、コンピュータープログラマー、外科医、プロスポーツ選手など、専門的な技術を身につけるために必要な要素は数多くありますが、その中で最も重要なのは、練習に費やした時間であることは、研究により明らかになっています。

スポーツの世界では、水泳のマイケル・フェルプスやバスケットボールのスティーブ・ナッシュが、卓越した能力を身につけるために必要な時間を費やしている好例です。フェルプスは7歳で水泳を始め、12年後の2004年アテネオリンピックで19歳にして金メダル6個、銅メダル2個という驚異的な記録を打ち立てました。
一方で、少年時代は野球、サッカー、ラクロス、ゴルフに明け暮れたそうです。

ナッシュがバスケットボールを始めたのは、12歳か13歳の頃でした。しかし、高校のチームでの練習に加え、週末には友人たちと数え切れないほどの時間をかけてバスケットをプレーし、どんな天候でもシュート練習をし、家のガレージでドリブルの練習に励んでいたそうです。一方で、バスケットボールを始める前までは、サッカーとホッケーを行なっていました。彼は1996年に22歳でNBAにドラフトされ、2004-2005年と2005-2006年のシーズンにはNBAリーグのMVPを2年連続で獲得しました。

フェルプスもナッシュも、まず幼い頃の数年間は様々なスポーツを経験し、その後10年以上スポーツに特化したトレーニングを積み、そのスポーツのトップランクに躍り出ることができました。これは、アメリカのオリンピック選手の一般的な成長パターンに合致しています。

「上達には時間がかかる」という考え方は、長期的なアスリート育成のキーコンセプトの1つです。

上達における練習の重要性

世界的なアスリートは、生まれつき優秀であるという誤解があります。確かに、幼い頃から天性の運動神経を持つ子どもも存在します。このような才能のある子どもたちは、すぐに選別され、専門的な指導を受けながら、将来偉大な選手になることを期待されます。その結果、才能を早期に発見したことが報われたよう思えます。しかし、このようなサクセスストーリーは、スポーツにおける成功を正確には表していません。

研究結果によると、どの分野においても、単純な天賦の才能や遺伝的素因は、一流になるための決定的な要因ではありません。スポーツの世界では、遺伝的な潜在能力は、比較的小さな要因であると認識されつつあります(バスケットボールや体操など、身長などの遺伝的特性が重要なスポーツでは、やや大きな役割を果たすかもしれませんが)。

エリクソなどの研究者や、ベンジャミン・ブルーム などの先達が始めた研究により、一流になるための最大の要因は、技能獲得のために費やした時間数であることが明らかになっています。

長年にわたって、エリクソンらの研究は、どんな分野でも専門性は何時間も何年もかけてじっくりと練習した成果であるという事実を立証しました。エリクソンらの研究から、スポーツでエリートになるためには1万時間、つまり10年の練習が必要であることが分かります。

これは便利で大雑把な数字ですが、すべてを語っているわけではありません。スポーツによっては、練習時間よりも重要なスキルの反復練習の回数の方が重要な場合もあります。例えば…

- バイアスロンでトレーニングしている選手は、7,500時間のスキートレーニングを経てTrain to Winのステージに入ることができますが、これには30万発から38万発の弾丸を撃つ時間は含まれていません。

- 一流のゴルファーは、質の高いショットで評価されます。最も熟練したゴルファーは、150万から200万回の質の高いショットを打っています。このようなゴルファーは、300〜600大会以上の大会参加数をこなすことに2万〜3万時間を費やしています。

- 国際レベルのアーチェリーの選手になるには通常7年以上かかりますが、最も重要なのは質の高い矢を放った数で、少ない人で15万本、多い人で60万本以上と言われています。

- ボブスレー、スケルトン、リュージュは、訓練時間ではなく、コースを滑走した回数が重要視されます。ボブスレーとスケルトンのパイロットは通常、このスポーツのマスターとみなされるまでに、さまざまなコースで1,000回の滑走をしなければなりません。リュージュの場合、マスターには約2,000本の滑走が必要です。

アメリカのオリンピック委員会によると、1984年から1998年の間にオリンピックに出場したアメリカ代表選手は、代表に選ばれるまでに平均12~13年のトレーニングを受けており、メダル獲得者は表彰台に上がるまでにさらに平均2~3年かかっていることが分かっています。同様に、世界中の様々なスポーツのトップコーチは、国際的なレベルのアスリートを育てるには8〜12年、つまり2〜3回のオリンピック4年制が必要であることが分かっています。

しかし、優秀な選手を育成するためにどれだけの時間が必要なのか、そのおおよその時間を明確にする必要があります。専門知識と卓越性を身につけるには何千時間もの時間が必要であり、一般的には10年以上かかると考えれば十分でしょう。

また、トレーニングにおける時間の使い方や、コーチングの質も重要な要素です。さらに、他の研究により、練習に費やす時間や年数は、対象となるスポーツの体系的で正式なトレーニングに完全に充てられる必要はないことが示唆されています。

LTADは、LTADの初期ステージにおいては、構造化されていない遊びや他のスポーツへの参加を継続することを推奨しています。また、LTADは、アスリートが必要な年数のトレーニングを行う中で、すべての能力を開発するために、各個人の身体、思考、感情、道徳性の発達を考慮することを推進しています。
スポーツ団体や政府は、アスリートが何年もかけながら十分な練習時間を確保するために、必要な支援を準備する役割を担っています。

マルチスポーツへの参加と自由な遊びの重要性

LTADでは、幼い頃は1つのスポーツに完全に集中するべきではないと主張しています。マイケル・フェルプスやスティーブ・ナッシュのようなアスリートの逸話は、幼少期に様々なスポーツに挑戦することで、1つのスポーツでの最適なパフォーマンスが向上することを強く示唆しています。

多くのスポーツに参加したことで、一流のアスリートは、長期的に自分の選んだ専門分野に役立つ補完的なスキルを身につけ、同時にすべてのスポーツに共通する能力(例えば、有酸素性パワーと持久力、筋肉の発達、意思決定、精神力、俊敏性、バランス、調整力)をさらに高めることができるようです。

Cotéらは、意図的な遊びという形で一定の非構造的な練習や経験を子供に与えることが、専門性を高めるために有効であると示唆しました。
LTADはこの考え方に賛同しており、構造化されたトレーニングや競技が徐々に導入され、総参加時間において、そのことが顕著になり始めたとしても、LTADの初期のステージでは、非構造的な練習を奨励しています。

自由なプレーは、大人の介入をほとんど、あるいは全く受けずに、子どもたち自身が管理する自己管理型の遊びです。
ルールは子どもたちが話し合い、決定することが多いため、一般的にコーチや大人が指導する練習では一般的には許されない、創造性、実験的行動、意思決定、スキルやテクニックの探求が可能になるのです。

アスリートが必要とする何千時間ものトレーニングに、フリープレイで費やした時間は確実にカウントされます。LTADの初期段階であっても、自由遊びは身体的リテラシーの発達に寄与するため、自由遊びで過ごした時間はトレーニング時間の総計に含めることができるのです。

身体的、思考、感情、道徳性に関わる領域の重要性

アスリートが8年から12年もの間、継続的にトレーニングや競技を行うには、多大な献身とモチベーションが必要です。親やコーチもまた、献身と忍耐を必要とします。LTADは、アスリートが長期的なトレーニングを通して、身体的、思考、感情、道徳性に関わる領域を学習することができれば、アスリートの潜在能力を最大限に伸ばすことができると主張しています。

スポーツにおけるトレーニングのほとんどは、必要な特定の運動スキルを発達させることによって精神運動技能領域の目標達成には自然と対応しますが、それらのトレーニングが自動的に情意領域(人が感情的に反応する方法、他人の痛みや喜びを感じる能力)および認知領域(知識、理解、批判的思考)に対応すると考えることはできません。

アスリートが8~12年間のトレーニングを終えるためには、身体的、情意的、認知的な発達のあらゆる段階において、楽しく、十分に挑戦する意味を持ち、適切な指導を続けるトレーニング方法と哲学が必要です。

コーチやプログラム設計者は、身体運動技能領域と同様に、情意領域・認知領域についても熟考する必要があります。トレーニングプログラムや競技のシステムは、スポーツに対するポジティブな感情を育むものでしょうか?トレーニング方法は、栄養、傷害予防、回復技術など、アスリートが一流になるために必要なすべての情報を与えているでしょうか?

アスリートのトレーニングには、単に身体的な運動スキルを練習する以上のものがありますが、他の学習領域が軽視されることについては驚課されます。トレーニングや競技に対する7段階のLTADアプローチは、この目標を達成するために設計されており、怪我、燃え尽き症候群、または単に興味の喪失によるアスリートの脱落を防ぎます。

早すぎる選択の危険性

一流のアスリートが誕生するまでの時間を考えると、コーチやスポーツ団体はアスリートの早期育成には注意する必要があります。若すぎる年齢でアスリートの才能を見出すと、遺伝的に優れた可能性を持っていても、時間をかけてトレーニングしなければ才能を開花させることができない他のアスリートを見過ごしてしまう危険性があるからです。

成長期の終わり頃まで、同世代の中で最も年齢が高い子供たちは、身体的発達や運動協調性が他の子供たちよりも明らかに進んでいることがあり、彼らが最も優れた運動能力を持つ「生まれつきの」アスリートであるかのような錯覚に陥ります。
多くの場合、このような子供たちは、早くから選抜チームやトレーニングプログラムに組み込まれ、そこで専門的な指導を受け、トレーニング時間を増やし、競技経験を積み、同世代の子供たちよりも良い施設や設備を利用することになります。その結果、彼らはより早く熟練したアスリートに成長し、同級生よりも優れた運動能力を持っているという考えを持つようになるのです。

この年齢的な要素は、遺伝的に恵まれていても、同世代の中で最高齢ではない選手もいることを考えると、驚くべき結果をもたらします。たとえば、ある年に生まれた8歳児を対象に、12月31日を登録締切日とする野球プログラムを実施する場合、その年の最初の3カ月に生まれた子どもは、同じ年の最後の3カ月に生まれた子どもよりも、運動神経や筋力に優れているのが普通です。このような早生まれの子供たちは、特別なトレーニングや大会のチームに選ばれることがあり、能力の差がさらに誇張されます。その理由は、何よりもトレーニングの時間が長いからです。

一方、同じ年の11月に生まれた子どもは、実は早生まれの才能よりも優れた遺伝的可能性を持っているかもしれません(たとえば、長期的にはバスケットボールのために身長が高くなるなど)。時間と忍耐力、そして同等のトレーニングの機会があれば、11月生まれの子供は、最終的にそのスポーツでエリートパフォーマンスを発揮するために、はるかに優れた身体的、精神的特性を実現することができます。しかし、この遅生まれの子どもは、プログラムの早い段階で無視されたため、その可能性を伸ばすのに必要なトレーニング時間を受けることができず、スポーツから完全にドロップアウトしてしまうかもしれません。これは、子供、コーチ、両親、スポーツ協会など、関係者全員にとって明らかな損失です。

必要なトレーニンの時間を確保するためのポイント

アスリートの卓越性を実現するには、何千時間もの質の高いトレーニングと競技が必要だとしたら、その時間を確保するためにアスリートをどうサポートすればよいのでしょうか。

私たちは、早期育成や早すぎる才能の特定を避けなければならないことを知っています。したがって、課題は、できるだけ多くのアスリートが数千時間の蓄積に必要な年月、トレーニングと競技に従事し続け、障害に邪魔されることなくトレーニングと競技を追求できるよう必要なサポートを提供することではないでしょうか。

LTADの初期のステージでは、幼いアスリートは主に楽しさを強調することで参加します。アクティブ・スタートとファンダメンタルのステージでは、子どもたちは成熟段階に応じた認知的・感情的なニーズを持っています。もし、スポーツプログラムが、このような年齢の子どもたちが自然に求めている遊びの要素を取り去ってしまったら、子どもたちの参加レベルは下がり、その結果トレーニングによって得られる利益も下がってしまいます。Learn to Trainの段階でも、その前の2つの段階よりやや強調されることはあっても、トレーニングプログラムの中に楽しさは含まれなければなりません。

Learn to Trainに続く段階では、他のトレーニング要素がはるかに大きな比重を占めるようになります。子どもたちは、卓越性を追求する道を選んだ若者や青年になり、エリートトレーニングと競技に必要なモチベーションは、単なる楽しみや娯楽以上のものでなければならないことを、次第に理解するようになります。

2003 年の報告書「Reflections on Success」(Gibbons, McConnell, Forster, Tuffey, & Peterson, 2003)において、アメリカ・オリンピック委員会(USOC)は、アメリカのオリンピック選手が成功を支えるために最も重要であると答えた 10 の主要因を提示しました。それをランキング順に並べると、以下のようになります。

1.献身と根気
2.家族・友人のサポート
3.コーチの質
4.スポーツへの愛
5.トレーニングプログラム・施設の質
6.天賦の才能
7.競争力
8.集中力
9.努力に対する倫理観
10.経済的支援

これらの回答から、アスリートでさえも、天賦の才能は自分の業績にとって比較的小さな要因であると考えていることが明らかになりました。卓越性には時間がかかるというコンセプトのもと、献身と根気が上位を占め、他の上位10項目のうちいくつかは、この要素を直接的に支えていることが分かります。集中力、努力に対する倫理観、経済的支援、質の高いコーチング、家族や友人のサポートはすべて、アスリートがトレーニングや競技に専念し、根気強く取り組むための主要な要因となっています。

トレーニング時間のサポート

一流のアスリートになるまでの道のりは長く、USOCの報告書「Reflections on Success」が示すように、アスリートは何千時間ものトレーニング時間を積み重ねる中で多くの難題に直面することになります。

アスリートに対する身体的、情意的、認知的な要求は多大であり、時間、資源、財政的なコストも膨大です。スポーツ政策は、効果的かつ継続的な長期トレーニングに必要な外的要因や支援体制、すなわち財政支援、施設、設備、専門家の指導、科学的トレーニング、適切な競技に取り組むことで、アスリートを成功に導くことができます。

1990年代後半以降、アメリカやカナダのロングトラック・スピードスケーターが国際大会で活躍するようになったことは、施設がいかに選手の何千時間ものトレーニングの達成を助けるかを完璧に証明しています。

1990年代後半以前、スピードスケートにおいてアメリカは国際的な競争力がなく、カナダも事実上存在しないような状況でした。メダル獲得数の上位は、ノルウェー、オランダ、ドイツ、ソビエト連邦(ロシア)といった国々が占めるのが一般的でした。1987年、1988年のカルガリー冬季オリンピックに向けて、世界初の屋内ロングトラックオーバルが同市に完成しました。1988年の大会ではカナダのスピードスケート選手はメダルを獲得できませんでしたが、ナショナルチームの練習拠点として一流の施設を手に入れることができましたた。

カルガリー・オリンピックから11年後、カナダのロングトラック・スピードスケートの選手は、1998年長野大会で金メダル1個、銀メダル2個、銅メダル2個の合計5個のメダルを獲得しました。その後、2002年のソルトレイクシティ大会で3個、2006年のトリノ大会で8個、2010年のヴァンクーバー大会で5個のメダルを獲得しています。

長期的な卓越性を支える施設の役割と、卓越性には時間がかかるという法則を示す、これ以上ない例と言えるでしょう。カナダは、ドイツやオランダと並んでスピードスケートの世界的な強国となり、ノルウェーやロシアは衰退していきました。

カナダのスピードスケーターがメダル獲得数を伸ばすと同時に、アメリカもメダル獲得数を伸ばしていきました。アメリカチームは、カナダチームから間もなくカルガリー・オーバルでトレーニングを開始し、2002年のソルトレークシティ大会の直前には屋内のユタ・オリンピック・オーバルが使えるようになりました。1988年から1998年まで、各オリンピックで平均3個だったメダルは、2002年のソルトレークシティー大会で8個、2006年のトリノ大会で7個、2010年のバンクーバー大会で4個と、突如として獲得することになったのです。

もちろん、アメリカとカナダのスケーターたちの成功は、何も突然のことではありません。彼らは、世界トップクラスの施設を利用し、質の高いトレーニングを行うことができたからこそ、そのスポーツで世界的なアスリートになるために必要な何千時間、何年ものトレーニングを行うことができたのです。

また、これらの施設は、北米のTrain to Winステージのアスリートが自国でのレースに出場できるようなハイレベルな競技会を誘致し、地元のTrain to Competeのアスリートにも国際レースへの出場機会を提供しました。スポーツ団体、クラブ、レクリエーション部門、保健所、そして政府にとっての教訓は、次のようなものです。「トップアスリートを輩出するためには、アスリートが長期にわたって効果的なトレーニングを行うために必要なサポートを提供し、支援する準備が必要である。」

上達にかかる時間の必要性ToDoリスト

アスリートが何千時間ものトレーニング時間を達成できるよう、コーチ、保護者、スポーツ管理者には以下の活動を推奨しています。

- 忍耐を実践する。勝利にこだわるあまり、短期的なトレーニングや育成の長期的な側面を無視しがちであるが、これを改める。偉大なるものには時間がかかることを忘れない。

- 天候に左右されることなく、毎日、友達と体を動かす遊びをするよう、子どもたちを励ます。学校での自由な遊びも、何千時間ものアスリート・トレーニングに貢献している。

- シーズンごとにマイナースポーツのプログラムに参加させ、さまざまなスポーツ、ポジション、競技を経験させる。子どもたちの好みを考慮しながら、1つのスポーツに早急に特化することは避ける。

- 学校では、体育の授業や校内リーグ、学校のチームなどで、さまざまなスポーツを行い、「じっくりと練習」するよう、子どもたちを励ます。

- 特に10代前半は、スポーツや身体活動を楽しく続る。

結論

ある活動で専門的な知識を得るには、人はおよそ10年間に何千時間もの練習をする必要があります。必要な時間の正確な長さは、活動や指導の質などの要因によって異なりますが、生まれつきの能力は、かつて考えられていたよりもはるかに小さなものと考えられるようになりました。

また、特定のスポーツの専門性を高めるためには、そのスポーツの体系的なトレーニングにのみ数千時間を費やす必要はなく、体系的でない練習や他の活動での自由な遊びも専門性を高めるために有効なのです。

幼少期からマルチスポーツを行うことで、子どもたちは身体的リテラシーを身につけることができます。そして、スポーツの世界では、身体能力が高いほど、高いレベルに達することができます。様々なスポーツやアクティビティを通して様々なスキルを身につけることで、後に一つのスポーツでより優れた能力を発揮できるようになることが多いのです。

卓越性には時間がかかるという考え方は、LTADの哲学の重要な要素です。LTADは、アスリートの身体的、思考、感情、道徳性に適切に対処することができれば、10年間で数千時間、あるいはそれ以上のトレーニングによって、アスリートの潜在能力を最大限に引き出すことができると考えています。

若いアスリート、特に遅生まれのアスリートは、完全に成長するまでスポーツを続けるために、平等なトレーニングの機会とサポートを必要としています。早すぎる選抜は、一部の若者から、卓越した成績を収めるために必要な何千時間もの時間を追求する機会を奪ってしまいます。

成功するために時間をかけることは重要な要素です。アスリートが何千時間ものトレーニングを積むには、友人や家族、優秀なコーチ、適切な器具や施設、そして経済的支援といったサポートが必要です。オリンピックで表彰台に上がるアスリートの裏には、数え切れないほどの人々や組織が関わっているのです。練習を重ねなければ一人前になれないし、その練習も周いの支援なしにはできません。

まとめ

今回の章は「上達にかかる時間の必要性」について書かれたものでした。

これを中学校の部活に応用するための視点としては
①生徒の競技開始時期を把握し、競技を始めてからの年数を確認する。
②早生まれ、遅生まれの生徒に対し、トレーニング機会を平等に与える。
③中学校での短期的な結果にフォーカスしすぎない。高校でも競技を続けるモチベーションを保つことができる指導を心がける。
ことがあげられます。

① 生徒の競技開始時期を把握し、競技を始めてからの年数を確認する。

これは、大事なことだけど結構見落とされていることではないでしょうか?中学校の部活動現場では、ミニ経験者、ミニ未経験者くらいの情報は指導者の頭に入っているとは思いますが、何年生から始めたかまでは確認できていないことが多いのではないでしょうか?
小学校2年生から始めたAくんと、小学校6年生から始めたBくんではすでに4年間の差があります。AくんとBくんの技能の差は、経験年数の差で、思いのほか才能の差ではないかもしれません。
また、競技を開始して間もない選手達が不必要に自信を無くさないで良いように配慮する必要もあると考えています。

②早生まれ、遅生まれの生徒に対し、トレーニング機会を平等に与える。

私の独自調査からも分かる通り、育成年代のチームにおいて早生まれの選手がスタメンになる可能性は低い傾向にあります。このことからも、早生まれの選手はゲームの出場機会が少ないことは明らかであり、それは練習場面でのトレーニングが少ないことも明らかと言えるでしょう。
部活動においても、早生まれの生徒にも遅生まれの選手と同様のトレーニング機会を与えることが必要と考えています。

③中学校での短期的な結果にフォーカスしすぎない。高校でも競技を続けるモチベーションを保つことができる指導を心がける。

ミニや中学で培ってきた技能をさらに磨くためには、高校でも競技を続ける必要があります。上達には時間がかかるのであるなら、ミニや中学校の結果で自分の競技力に見切りをつけるのではなく、高校でも競技を続け、その競技力を磨く必要があります。また、そのためにはその競技を続けたいというモチベーションが必要になります。
中学校の部活動が競技人生の終わりではく、これからの競技人生の土台となるような経験を積ませることができればと考えています。

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