見出し画像

LTADまとめ その12 第10章 競技会

第10章 競技会

中学生にとって最大の競技会である中学校総合体育大会(中総体)が目下開催中です。部活動に取り組む生徒たちにとって、この中総体の全国大会は憧れの場所であり、また、そこにつながるブロック大会、県大会、地区大会は今までの練習の成果を発揮する場として大きな教育効果を発揮してきました。

夏の中総体で負けると、3年生たちは部活動を「引退」し、受験勉強に励む…
というのが今までの中学生の一般的な姿でもありました。
しかし、中総体を中心としたそのような部活動生徒の姿は、教員の働き方改革や少子化による部活動登録数の減少、地域クラブの増加などにより近年少しずつ変化をしています。さらに、今後は一層の変化をしていくことでしょう。

そのような変化の中で、スポーツ庁の圧力により、日本中学校体育連盟は来年度から地域スポーツクラブが全国中学校体育大会に参加することを認めてしまいました。この件については、報道が先行するかたちでそのことが現場に降りてきたことにより、現場では(気付いていない人が大多数ですが)静かな大混乱が起きています。

さて、高校球児にとって甲子園が一つの大きな目標であるように、
部活に取り組む中学生にとって夏の中総体は大きな目標となる大会です。
生徒たちは、この最後の大会で自分の力を発揮するために日々の練習に取り組みます。当たり前すぎて、つい忘れてしまいがちですが、大会(競技会)のあり方が生徒たちの普段の練習のあり方、指導者の指導のあり方に影響を与えています。
日本の育成年代の競技会の形式は、基本的に大人の競技会を真似した形がほどんどですが、果たしてそれは育成年代のアスリートにとって良いことなのでしょうか?

LTADにおいても育成年代のアスリートにとっての競技会の重要性が説かれており、また、そのあり方についても具体的な方法論が提案されています。
それでは、その内容を見ていきましょう。

この章では、LTADの10個のキーファクターのうちの一つ、「競技会」についてまとめました。

※ここから先はLTAD第10章「競技会」を簡単にまとめた内容になります。

競技会のあり方とLTAD

スポーツシステムを包括的に見た時、その欠点の1つは、大人の競技会をそのまま真似した子供たちの競技会のあり方です。この問題は、2000年代半ばにカナディアン・スポーツ・フォー・ライフ(CS4L)が登場するよりもずっと前に、何十年も指摘されていました。

20年以上前、サッカー界では"技術やスキルの向上にスモールサイドゲームが有効であることは、世界中の学術研究によって裏付けられています。" (The Football Association, 2012, p. 4)として、様々な発達段階や年齢の子どもたちに適した競技会=ミニサッカーにその形式を変更し、伝統主義者を動揺させました。

しかし、多くのユーススポーツの競技会主催者が適切な時期に適切な競技会を開催して数十年経った今も、取り組むべき課題は残っています。カナダでは、ユーススポーツの運営方法として、毎年、地元の地区大会では保護者をボランティア役員として募集します。これらの保護者は、一般的に善意を持っていますが、スポーツに関する経験や理解はほとんどありません。彼らが持っている理解は、自分自身の経験やテレビで見たスポーツから得たものであることが多いのです。

このような保護者ボランティアが正しい判断基準を持つためには、継続的なLTADの教育が必要です。以下は重要なガイドラインです。
・コーチは、競技会の形式に基づいて子供たちに練習の指導をしていることを認識する。
・競技会が有意義であることを確認する。
・練習と競技会の比率を理解する。
・各ステージにおいて、練習と競技会の比率を最適化する。
・子供たちに大人と同じような競技会を実施することの問題点を認識する。
・LTADを使用して、施設の使用率を最大化する。
・勝利の役割は、各ステージで異なることを認識する。
・育成と勝利の違いを理解する。
・コーチを増やし、ゲームマネージャーを減らす必要性を認識する。
・競技前にコーチが握手をするようにする。
・スポーツが単なるスポーツ以上のものであることを確認する。

LTADの実施には、ハイパフォーマンスのコーチ、経験豊富なユーススポーツのオーガナイザー、プロのアスリートたちが欠かせません。自覚があろうとなかろうと、彼らはスポーツ界や地域社会におけるリーダーなのです。
彼らは、競技会がスポーツ参加者の長期的な成長に与える影響を理解することで、変化をもたらすことができる立場にあります。彼らはリーダーシップを発揮し、コーチ、保護者、そしてスポーツ行政や競技団体の人々に、子供たちを適切に育成するよう促すことができるのです。また、これから説明するように、競技会のあり方を設計する上で、重要な要素を考慮し、その実施に向け支援することができます。

では、競技会を設計する上で重要なそれぞれの要素を詳しく見ていきましょう。

1.コーチが競技会の形式に応じて選手を育成していることを認識する

競技会の核心は勝敗であり、コーチはどのような尺度であれ、その尺度に合わせてトレーニングや練習を行います。スキルベースの競争であれば、コーチはスキルを鍛え、フェアプレーにボーナスポイントが与えられるのであれば、コーチはフェアプレーを奨励します。これが、LTADのすべての段階において、適切な競技システムを設定することが非常に重要である理由です。

ノルウェーのスポーツ生理学者であるオーヤン・マドセンは、「民主主義社会において、変化を起こす唯一の方法は、行動を変えるために競技会の構造を修正することだ」と述べています(Sport Manitoba, 2007, p.2)。したがって、アスリートが置かれているステージに応じて能力を伸ばすような競技会の形式を作ることがコツとなります。

2. 競争が有意義であるを確認する

競争が有意義であることを確認しましょう。”有意義”という言葉は、成功するチャンス、さらには勝つチャンスが誰にでもあることを意味します (Rowing Canada LTAD Work Group, 2007; Speed Skating Canada LTAD Work Group, 2009)。結果が不確実であるからこそ、人々は胸を弾ませます。誰が勝つか、どのような順位になるかがほとんど予測できるような競技会は、意味がありません。意味のある競争とは、上達するチャンスがあることかもしれませんし、勝つチャンスがあることかもしれません。

例えば、個人競技の場合、タイムが分散している(選手間のタイム差が大きい)場合、選手は基本的に一人でレースをすることになります。このようなレースでは、選手は事前に結果を知ることができるため、競技会としての楽しさや価値がありません。このようなレースでは、チャレンジ精神が乏しく、学習意欲も乏しい。同様に、結果が決まっているチームスポーツでは、競技会の目的は限られ、両チームにとって多くの点で不利になります。スポーツの発展、興奮、そして楽しみは、結果の不確実性から生まれるものです。

3.トレーニングと競技会の比率を理解する

トレーニングと競技の比率を決定する際、コーチや競技団体の人々は、トレーニングと競技会の両方に関連する様々な要素を考慮する必要があります。より詳細な比率は、フィールド外でのトレーニング(身体、メンタル、教育)、フィールド内でのトレーニング(テクニック、戦術)、試合のシミュレーション(戦略)、そして実際の試合を含む必要があります。従来のトレーニングと競技会の比率よりも複雑ですが、これらの要素をすべて考慮した比率は、計画やピリオダイゼーションのより良い指針となり、結果として、アスリートにとってより良いプログラムになるのです。コーチ、保護者、競技団体の管理者は、それぞれのスポーツ種目のLTAD計画を確認し、各発達段階に適したトレーニング対競技会の比率を見つける必要があります。(そのスポーツのLTADを見つけるには、そのスポーツの名前とLTADと一緒にウェブ検索してください)。


4.各ステージにおけるトレーニング量と競技会の比率を最適化する

北米では一般的に、チームスポーツではトレーニング量と競技会の比率が低く、個人スポーツではその逆であることが多いようです。

○トレーニング量と競技の比率が低い種目
 サッカー/ホッケー/野球/ソフトボール
○トレーニング量と競技の比率が高い種目
 フィギュアスケート/ダンス/陸上競技/体操競技

種目別に分析すると、トレーニング量と競技会の比率が低いスポーツはボランティアコーチ、トレーニング量と競技会の比率が高いスポーツは初期段階で有償コーチという高い相関があることがわかります。これは、有償コーチの多い種目は、競技ではなくトレーニングから収益を得る財務体質であることが多く、ボランティアコーチの種目はその逆であることが多いため、当然といえば当然のことと言えます。したがって、選手の成長にとって何が良いかは別として、トレーニングと競技の比率を変えたいのであれば、財務モデルも考慮する必要があります。(Balyi, Cardinal, Higgs, Norris, & Way, 2005)。

まず、競技会の開催が少ないスポーツは、トーナメントからの収益に頼ることはできません。次に、コーチは、楽しく、興味深い練習を行うための研修を受ける必要があります。これは、コーチが試合をすることにしか価値を見出せない場合、大変な仕事です。さらに、トレーニングや練習でコーチとしての仕事を評価されるためには、相当な時間が必要となるため、これは大きな課題です。参加人数の多いチームスポーツには、質の高いコーチが多く必要であるため、これらのスポーツのコーチを育成するための創造的な解決策が必要とされているのです。

5.大人と同じような競技会を実施することの問題点を認識する

競技日程は、LTADの初期段階では保護者ボランティアによって、後期段階では国際連盟によって設定されます。前述の通り、保護者ボランティアは、選手の成長をを促進するための競技を計画する専門家ではありません。なぜなら、彼らの頭の中には、テレビで放映されるスポーツのイメージがあり、自分の子どもが活躍するのを楽しんでいることが多いからです。

そのような保護者は、子供がより良い進路に進むことができるよう、大会の追加や遠征によって選手を露出させることで収益を上げる「イベント屋」や、イベントを開催することで収益を上げる「スポーツ施設管理団体」の影響を受けることが多いものです。それに対して、LTADの後期段階は、世界的なイベントの開催を通じて収益を上げる国際的な組織が指揮を執ります。名声と富はイベントやコンテストで築かれるため、トレーニング、ひいては適切なLTADはしばしば損なわれてしまいます。

6.LTADの活用による施設利用の最大化

すべてのプレー経験の背景には、そのプレーがなされる実際の場所そのものがあります。施設の利用しやすさは、あらゆる年齢層、あらゆるスポーツのアスリートにとって、そのスポーツの行いやすさに直結します。多くの場合、施設は、種目、年齢層、階層間で均等に時間を共有するスケジュールを作成しません。最高の施設は、多くの場合、エリートチームや年齢層の高いチームに提供されます。そのため、環境の良くない施設は、子供の練習や末端の地域のチームに提供されている現状があります。あらゆる年齢や階層間での公平な施設利用スケジュールが重要です。(Canadian Lacrosse Association LTAD Work Group, 2011)

7.勝利の役割は各ステージで異なることを認識すること

勝つことと競争することは、全く異なることです。勝つということは、競技の結果を重視することで、競争的であるということは、競技中に最善を尽くそうと努力することです。勝つことの重要性は、各スポーツのLTADのステージごとに判断する必要があります。

よく「勝つことが全て」という表現があります。これは、Train to Winのステージにあるアスリートには当てはまるかもしれませんが、それ以前のステージの子どもたちには適切ではありません。しかし、コーチや保護者、リーグの主催者は、プロスポーツをモデルにした競技形式やルールの設計において、そのような情報を無視することを繰り返しています。

9歳の少女たちは、トーナメントの勝者を決めるために、激しい競争をしなければならないのでしょうか?両チームに優勝のステータスを与えることはできないのでしょうか?プロスポーツでは多くの場合、商品のエンターテインメント性を高めるために、同点勝利を排除しています。だからといって、子どもたちのスポーツにそれが正しいとは限りません。

8.育成と勝利の違いを理解する

次の試合に勝つこと、あるいは「金曜日までにピークを迎える」という言葉があるように、そのことがコーチの決断を左右することはよくあります。ステージによって勝利と育成の役割が異なるのは当然です。「金曜日までにピークを迎える」のアプローチで決断を下すと、育成が損なわれることがよくあります。以下にその例を挙げます。
育成重視
交代を利用する/多くのポジションを経験させる/プレーヤーに決断させる/技術を練習する/運動神経を鍛える/組織的戦術を使用しない/みんなでプレーする/ボールを分配する/練習重視/大きな子どもがどこにでもいる/楽しむこと成長することに誇りを持つ/身体にかかる負荷を制限する(例:投球数の制限)/成長をを追う

(短期的)勝利重視
限られた交代用員/ポジションの固定化/やらせっぱなし/怒鳴り散らす指導/戦術を教え込む/作戦を立てる/組織的戦術の利用(例:ゾーンディフェンス)/一番良い選手のみにプレーをさせる/早熟の選手に焦点を当てる/試合重視/大きな子どものポジションを固定する/勝ち負けの記録に誇りを持つ/身体にかかる負荷に目をつむる/成長から目を背ける

勝つことが悪いというわけではありませんが、勝つためにスポーツプログラムの質を落とすことは近視眼的であり、アスリートの潜在能力を最大限に引き出すことにはつながりません。

9.コーチを増やしゲームマネジャーを減らす必要性を認識する

コーチとゲームマネージャーの違いを認識することが重要です。コーチは十分な研修を受けており、その結果、子ども達が楽しみながら技術やライフスキルを学び、成長できるような素晴らしい練習を行う能力を持っています。コーチは練習を楽しみ、選手の能力を伸ばすために、もっと練習時したいと思うのが普通です。

それに対して、ゲームマネージャーは、ボランティアの「コーチ」であることが多く、練習よりも試合を好みます。なぜなら、よく組織された練習をするよりも、交代要員を考えたり、選手に大声で呼びかけたりすることの方が楽しいからです。さらに、ゲームマネージャーは、練習の大半をスクリメージに費やす傾向があります。個人スポーツ(チームスポーツに対して)には、ゲームマネージャーのメンタリティーはあまり浸透していないため、個人スポーツには訓練を受けた(そして給料をもらっている)コーチが多く存在することが多いのです。

10.競技前の握手

毎週日曜日、テレビでプロのコーチが試合後に握手をしているのを見かけます。これはユーススポーツでも真似されており、大人の行為が子供に重ねられている典型的な例の一つです。LTADの発達段階にある北米のコーチは、自分のチームであり、他のコーチと競争していると信じているようです。このことは、保護者にも波及し、保護者は他の保護者と競争していると考え、自分の子供が勝利すれば、より良い保護者であると考えます。
発達にとって有害なのは、コーチがチームや選手をクラブから隔離することを可能にする「チーム第一」の考え方です。このような態度は、選手とコーチの両方にとって、協力的な発展を阻害します。例えば、より高度な訓練を受けたコーチを擁するトップクラスのチームは、自分たちのチームに悪影響を及ぼすことを恐れて、下位層の選手やコーチを練習に招きません。この問題を解決するには、より質の高いスポーツを提供するという共通の目標に向かって、チームやコーチが共有し、共に学ぶことができるような、サポート、メンタリング、小規模な練習コミュニティーを構築することで協力し合う必要があります。

もし、ユースのコーチが大会前に握手をしたらどうでしょう?競技や対戦相手に対して、より敬意を払うようになるでしょうか?一部のコーチは、試合前に相手チームのコーチと挨拶したり、おしゃべりをすることを大切にしています。彼らの目標は、お互いに競争しているという壁を破り、その代わりに子供たちのために質の高いスポーツ体験を管理するパートナーであることを伝えることです。良い意味で、個人的な付き合いをしているのです。

11.スポーツが単なるスポーツでないことを確認する

子どもたちがスポーツに参加する理由はさまざまです。試合をするのが好きな子、運動能力を試すのが好きな子、社会性を身に付けるため参加する子など、さまざまです。コーチは、トレーニングや競技会を計画する前に、自分がこれから指導する子どもたちが様々な理由でスポーツに参加していることを考慮しなければなりません。そして、選手たちが参加者として、また人間として成長するために必要なことを明らかにし、それを練習に取り入れることで、試合を学び、楽しむことは当然として、すべての子ども達の期待に応じなければならないのです。
また、スポーツから得られるものも様々です。スポーツで生計を立てている人もいれば、大学の学費を負担してもらっている人もいます。しかし、ほとんどの人は、スポーツで健康的なライフスタイルを維持しながら、スポーツから人生における貴重な教訓を得て、教育、ビジネス、家庭生活などにおいて、将来、優れた意思決定者になるためにスポーツを利用しているのです。

スポーツのリーダーたちは、LTADのすべての段階において、質の高いスポーツを提供する重要な役割を担っていることを認識しなければなりません。「Train to Compete」と「Train to Win」の段階での選手の成功は、しばしば、その前の段階で受けたプログラムの質が前提となっています。才能開発の質は、環境に依存しますが、その環境は、スポーツの専門知識を持たない親によって決定されることが多いのも事実です。
より質の高いアスリートを育成し、Train to Competeの段階でより多くのアスリートが高い能力を身につけるために、スポーツのリーダーはLTADのすべての段階において適切な競技会を奨励する必要があります。

スポーツプログラムの成功は、しばしば登録参加者の数によって判断されます。スポーツでは、競技会が経験の主となることが多いため、コーチは、すべてのLTADステージで適切な競技会を奨励する必要があります。

競技会における問題点

競技会に関しては、様々な論点があります。ここでは、これらの問題のうち、ポイント争い、ランキング制、階級制の3つに焦点を当て、それぞれが意図しない結果をもたらすことを説明します。

ポイント争い

ある組織が、一連のレースにおける順位に基づいて選手を選抜することを決定したとします。このモデルは、ワールドカップなど多くのスポーツで使われています。この組織は、この決定が以下のような意図しない結果をもたらすことを理解していませんでした。
・経済的に余裕のある選手は、より多くの大会に参加することができるため、経済的に余裕のない選手より有利である。
・早期敗退を避けるために、試合でリスクを取ることやクリエイティブなプレーが限定的になり、子どもの成長を制限することになる。また、その結果として、その大会でのランキングポイントが少なくなってしまう。
・大会主催者が大会への参加を促すため、ランキングレースとして公認されることを目指す。
・競技者はランキングを維持するために、できるだけ多くの大会に参加する。その結果、大会に出過ぎることになる。
・イベント主催者は、アスリートが必要とするランキングを獲得するための試合数や資金を増やすように各種団体に圧力をかけ、イベントへの参加者を増やして収入を増やす。
・ランキングを獲得できる大会の開催地から遠いところに住んでいる選手は、近いところに住んでいる選手と比べて不利になる

この結果、必ずしも優秀な選手が選ばれるとは限らず、より多くの大会に参加できる資金がある選手が有利になります。しかしながら、そのような選手たちは多くのポイントを獲得するために、過度な競争を強いられ、成長が損なわれてしまうのです。

ランキング制

あるリーグが、メディアへの露出を増やしたいと考えました。そのために、リーグの運営者たちは、各ディビジョン内のチームのランキングを、毎週メディアに提供することにしました。さらに、このランキングに価値を見出すために、このランキングに基づいて、ランキング上位のチームをチャンピオンシップのかかる大会に招待することにしました。メディアは、読者の関心を引くために、シーズンの開幕と同時にランキングをスタートさせました。このリーグは、次のような結果がもたらされることなど考えてもいませんでした。
・すべての試合が重要であるため、コーチはエキシビションシーズン中でさえも勝利を目指した。
・勝利を確実にするために、交代するメンバーは最小限に抑えられた。
・点差を開けた勝利は、ランキングに反映されるため、喜ばれた。
・ターンオーバーの原因となるようなリスクの高いプレーは排除された。
・全ての試合が大切なので、コーチはその全てをコントロールしようとした。

階級制

適切な階級制とは、すべての子供たちに最高のスポーツ体験を提供するために、同じような能力を持つ子供たちにグループ分けすることです。チームは、成績に基づいて階級分けされるべきで、希望すれば「上位でプレーする」ことが許されるべきです。アスリートは、オープンで透明性のある評価プロセス(例:保護者やコーチではなく、第三者を介して)を通じて階級を決められるべきで、一つの階級に固定されるべきではありません。

階級制を取り入れるのか、取り入れないのか?それが問題です。もし、階級制を取り入れることを決定した場合、いくつの階級が必要でしょうか。すべてのユースリーグのオーガナイザーは、若い年齢でアスリートの階級を分けることの利点と問題点を認識しておく必要があります。

階級分けがパフォーマンスや参加に与える影響についての研究はほとんどありませんが、アルバータ大学の研究によると、ユースホッケーにおける階級分けは、相対年齢に偏りを生じさせることが分かっています(Barns ley, Thompson, & Barnsley, 1985)。簡単に言えば、歳上の子供は「歳上だから優れている」という思い込みのもとに、より高い階級に配属される傾向があるのです。テキサス・クリスチャン大学の研究によると、コーチの選手に対する期待は、それが妥当かどうかにかかわらず、しばしば現実のものとなることが示されています(Solomon, 2010)。もし、コーチがある選手を優秀だと思えば、その選手は優秀になるし、その逆もまた然りなのです。

階級制は、若くて能力の低いプレーヤーに、自分は他のプレーヤーより劣っているというメッセージを送ることになるのでしょうか?特に、指導が行き届かず、練習や試合に参加する時間が少ない場合は、そうなる可能性が高いと言わざるを得ません。階級が設けられると、より高い階級の選手には、より多くのプレー時間、より良いコーチ、施設、関係者、用具、ユニフォームが与えられるという利点が生まれます。上位のアスリートが下位のアスリートより良い成績を収めるのは、当然のことです。すべては、彼らがより良くなるように構成されているのです。

根本的な問題は、アスリートが年齢で分類され、大人顔負けの競技形式を押し付けられていることです。それよりも、アスリートを能力別に分類する方が、はるかに効果的な戦略です。実際、"階級を上げる"の場合は、ある程度はそうなっているはずです。また、"階級を下げる "選手に対してもそれは行われるべきです。階級を上げるとは、少数のアスリートたちが、自分の能力を最大限に発揮できるようにすることです。

より高い能力を持つ少数の選手が次のレベルでプレーするために選ばれるー。この戦略が誤って使われるのは、才能のあるプレーヤーが、そのための能力をすべて備えていないにもかかわらず、階級を上げてしまう場合です。例えば、高い技術力を持つアスリートが上のレベルでプレーするよう選ばれた場合、肉体的にも精神的にもその準備が整っていないことがあります。このような選手は、対処能力を身につけ、その結果、悪い習慣(例えば、打たれるのを恐れてパスを早く出しすぎるなど)を持つようになります。さらに、FUNdamentalsやLearn to Trainの段階で4つまたは5つの階層を作ることは、その価値を証明する研究がないため、ほとんど意味がありません。

議論されているように、階級制には賛否両論があり、また、様々なレベルの階級制があります。1つの選択肢は、階級をなくし、自由なグループ分けの方針を打ち出すことです。この場合、正しい判断をするための知識を持つことが課題となります。階級制の短所は、練習のためにチームを階級分けしないことで軽減することができます。これは、若いコーチがしばしば次のような点に着目するため、文化的な転換が必要です。

階級制の短所は、練習のためにチームを階級分けしないことで軽減することができます。若いコーチは、しばしば自分のチームに集中し、他のチームを排除してしまうので、これは、文化的な変化を必要とします。この姿勢は変える必要があり、革新的な競技形式を用いれば、確実に変えることができます。
例えば、幅広い能力を持つアスリートで構成される大きな年齢層の協会では、競技に2つの層を設けることができますが、練習、構造、順位においてチームを結びつけることができます(つまり、2つの層のチームの順位を合算するのです)。このような形式でリーグの順位が維持されると、上位チームのコーチ(およびプレーヤー)は下位チームに投資することになります。このような革新的な大会形式は、階級制のマイナス影響を最小限に抑えます。

階級制については、各スポーツごとに異なる考慮が必要であることを念頭に置いてください。フットボール、ラクロス、リンゲットは、熟練した若いプレーヤーが、用具やルールにより非常に簡単に対象物をコントロールできるゲームです(例:プレーヤーはフットボールではボールを手で持ち、ラクロスではボールをネットで運び、リンゲットではスティックでリングを固定することができます)。ホッケー、サッカー、野球、バレーボール、バスケットボールなど他のスポーツでは、道具やルールによって対象物を完全にコントロールすることはできません(例:ボールはスティック、バット、足、手に当たるが、上記のスポーツと同様に完全に固定したりコントロールしたりできることはほとんどない)。ボールを容易にコントロールできるプレイヤー(サッカーやラクロスなどのスポーツ)は、より高度にプレーを支配することができます(つまり、一度ボールを持ったら、そのボールを保持することができる)。このような状況において、トッププレーヤーが挑戦し、より有意義な競争を経験するためには、階級制の導入が有効です。

以下は、階級制モデルのいくつかの例です。

純粋な階級制
 クラブ内のすべてのチームが異なる階層に配置される。
ハウスリーグと代表制システムの組合せ
 すべてのプレーヤーは、均等なハウスリーグシステムでバランスのとれたチームで戦い、トーナメントや州選手権では、階級制のチームで戦います。
ハウスリーグと代表制の分離型 
 
ハウスリーグと代表チームが別々で、代表チームに所属する選手はハウスリーグに参加しない。
ハウスリーグのみ
 
全選手が均等なハウスリーグ方式で競う。トーナメントや県大会がある場合とない場合がある。
・ミックスバッグ
 すべてのプレーヤーがハウスリーグに参加するが、その時々によってグループ分けが異なる(能力、生まれ月[年齢]、身長、体重、スピードなどの要素によってグループ分けやバランス調整が行われる)。そのため、異なる基準でチームを編成し、再編成する。(注:特にスキルを重視するアクティブスタートやファンダメンタルの段階では、チームを再編成することでコーチが戦術や戦略に過度に重きをおかないようにするため、この方法が適用される。)

良い決断をするために

競技会の設計と審査は、複雑なプロセスです。様々なスポーツの状況に適した競技会の形を作るためには、多くの決定を下さなければなりません。競技構造の設計や見直しの際に適切な判断を下すために、コーチやその他のスポーツ指導者は、以下の10個の質問に答える必要があります。
1.競技の目的(=全体像)は何か?
2.LTADステージはどのステージか?
3.競技の種類は何ですか?
4.誰がコンペティションを変える権限を持っているのか?
5.誰が権限を持っている人に影響を与えることができますか?
6.コンペティターの育成の重点は何ですか?
7.競技に設定されるパラメータは何か?
8.コスト面はどのように考慮されますか?
9.どのような形式が素晴らしい競技になるのか?
10.競技にふさわしい報酬と称号は何か?
これらの質問に答えることで、素晴らしい競技会の仕組みが出来あがります。競技会の主催者は、なぜ自分達が競技会を開催しているのかを理解しましょう。


1.競技の目的(=全体像)は何か?

競技会の主催者がまず問わなければならないのは、次のようなことです。その競技会の一次、二次、三次的な優先順位は何でしょうか?競技会のフォーマットを作るために一緒に働く人々や組織が、同じ優先順位を共有することが重要です。以下は、競技会の優先順位の例です。
・国づくり
・エンターテインメント
・ビジネス
・生涯の健康
・アスリート育成
・アスリート選抜
・賞の獲得
大会には複数の目的があることが多いため、ほとんどの場合、上記の優先順位は1つ以上あります。しかし、最適な競技形式を決定するために、主催者は、関係者全員が理解できるように、その主要な目的を明確にする必要があります。


2.LTADステージはどのステージか?

競技会に参加する子どもたちのLTADにおけるステージを明らかにする必要があります。もし、そのステージの目的が競技会の優先順位と一致しない場合は、その優先順位を変更する必要があるかもしれません。LTADの各ステージにおける考慮すべき事項は、本書の第13章から第19章を参照してください。子ども達に最も適した競技会の形式を決定するために、LTADにおけるステージを明確にしておく必要があります。


3.競技会はどのタイプか?

競技会は4つのタイプに分けることができます。コーチの年間計画にとってそれぞれ適合するものが異なります。一つ目のタイプは、スクリメージ型で、チーム内での練習において競技会の疑似体験を行うものです。二つ目は、準備競技(コントロール競技)で、他のチームとの対戦はトレーニングとみなされ、特定のスキルの練習やアスリートの準備状態をテストするために使用されます。三つ目はは、パフォーマンス重視の競技であり、アスリートは特別に準備され、全体的な成功を目指します。四つ目は、決定的な大会で、数ヶ月または数年にわたる準備の集大成となる主要な、またはピークとなるイベントです。

4.誰が競技形式を変更する権限を持っているか?

競技形式を変更する権限を実際に持っているのは誰なのか?かつ、変更を生み出すための方法を決定することが重要です。各組織の中で誰が意思決定をしているのかでしょうか?最終的に、その組織の文化を理解することが重要になります。その組織は、アスリートの技術的な成長に敏感でしょうか?それとも、純粋に最大の利益を生み出すことを目的としているのでしょうか?

5.権限を持つ人に影響を与えることができるのは誰か?

スポーツにおけるリーダーは、誰が変化を起こす権限を持っているかを知ることに加え、誰が権限ある立場の人に影響を与えることができるかを知る必要があります。最終的には、権威ある立場の人たちが「インフルエンサー」によって説得されたときに、変化が起きます。インフルエンサーは、LTAD に関する情報を権威ある人物に提示し、その人物が変化を起こすのを助けるかもしれません。
状況によっては、さまざまな立場の人が変化に影響を与えることができる可能性があります。現在、育成年代のスポーツでは、保護者が多大な影響力を持っています。しかし、残念なことに、保護者は最も情報弱者であることが多く、質の高い競技を作る上での課題となっています。

6.競技者の育成に重点を置いているか?

金メダルのかかったような大規模な決勝戦を除いて、競技会は常に育成を重視しています。なぜなら、選手やチームは常にパフォーマンスを向上させようとしているからです。異なるステージでは、長期的に選手の能力を向上させるために、育成の重点が変わります。競技会は、選手のステージに応じた育成がうまくいくように構成されるべきです。以下は、競技会におけるさまざまな育成の重点項目です。

フィジカル
選手のステージに基づいた身体的な発達の重点は、あらゆる競技会の設計において考慮されなければなりません。アジリティ、バランス、コーディネーション、スタミナ、筋力、スピード、柔軟性など、多かれ少なかれ競技会に組み込まれる必要があります。

・ファンダメンタル
ファンダメンタルとは、すべてのプレーヤーが学ばなければならない基礎的な技術や原則のことです。ファンダメンタルを通して、プレーヤーは、そのスポーツの「やり方」と「なぜやるのか」という基本を学びます。例えば、ドリブルのやり方とその理由を知っているバスケットボール選手は、ドリブルの基本的なファンダメンタルスキルを習得していることになります。単純な技術でも、何重もの複雑さがあることを心に留めておいてください。例えば、サッカーにおけるパスという単純な技術にも、複数のバリエーションがあります。体のどの部分を使ってパスするのか(頭、胸、膝、足)。その部位のどの部分を使うのか(内足、外足、上足、つま先、かかと)。パスの距離と重さは?複雑で重要なファンダメンタル・スキルだからこそ、すべてのステージでトレーニングが必要なのです。

・テクニック
 テクニックは、ファンダメンタルスキルよりも具体的で、意思決定に関わるものです。テクニックは、どのように実行するかではなく、いつ実行するかに焦点を当てます。テクニックの習得には、多くの反復練習が必要です。例えば、プレーヤーがディフェンダーを避けるために方向を変えるとき、そのプレーヤーは、方向転換ドリブルの技術的なスキルを持っていなければなりません。また、サッカーボールのパスには、味方に対する自分のスピードや方向の選択、味方の動きを見てボールの行方を決めることなど、次の動作に最適な位置で味方がボールを受けられるようにパスを出すことなど、多くの技術的判断が必要です。テクニックは非常に多様であるため、開発・改良に長い年月を要します。

戦略
戦略とは、長期的なプランのことです。ここでは、ゲーム的な条件に触れることで学習が行われます。チームスポーツの選手は、チームのプレースタイルを作る上で何をすべきかを学び、個人スポーツの選手は、コーチの助けを借りて、どのように競争するかを決定します。チームの攻撃に参加するために、プレーヤーは簡単なパターンを学んだり、役割やコンセプトを与えられて、決まった方法でディフェンスを攻撃するのです。

・戦術
戦術とは、長期的な戦略に対して行われる短期的な戦術行動です。戦術は非常に具体的で、特定の試合の前日や試合中に使用されます。例えば、試合の前日、スカウティングレポートで相手が右からの攻撃で成功していることがわかったので、左から攻撃させるように仕向けるなど。個人競技では、相手がペースを上げてきたら、途中でアプローチを変えるなど、監督と選手が相手に合わせて調整するものです。

・メンタル
集中力、リラックス、視覚化、目標設定などのメンタルテクニックの構成要素は、あらゆる競技会の実施において考慮しなければなりません。LTADの初期段階では、競技会は楽しいものであるべきです。プレッシャーの中でパフォーマンスを発揮するような、アスリートとしての能力が発達するまで、楽しみは残されるべきです。

・人間的な成長
競技会は、フェアプレーからエチケット、楽しさに至るまで、人間的な成長を目的として設計することができます。例えば、チームが遠征し、一定期間滞在してトレーニングや試合を行うような形式の競技会は、アスリートがチームの一員として働くことを学ぶのに役立ちます。

・ライフスタイル
競技会は、時間管理、栄養補給、水分補給、休息、回復などの分野で、アスリートの基本的なライフスタイルのスキルを向上させるよう設計することもできます。コーチやアスリートが前もって計画を立て、自己管理する必要があるため、競技会の設計によって、これらのスキルが多少なりとも試されることになります。例えば、遠隔地での競技を考えてみましょう。このような状況では、コーチやアスリートは、競技会の前に栄養と水分の補給を計画し、必要な栄養が満たされるようにする必要があります。

7.競技会にような制限が設定されているか?

競技会の主催者が、競技会の実施方法について全権を委任していることはほとんどありません。ほとんどの場合、競技会には制限が設定されています。

・時間
何日間、どレくらいの期間で行われるのか。

・施設
施設はいつ利用可能か、どのような用具や付帯設備が提供されているか。

・人的資源
資格のあるコーチ、役員、イベント運営者、ボランティアはいるか?これらはすべて、大会の設計において考慮されなければなりません。

・修正されたルール
LTADの各ステージにおいて、修正されたルールを競技会で使用することは非常に重要です。なぜなら、これらのルールは、アスリートの成長を助けるからです。
ご存知のように、競技会の構造もアスリートの成長に影響を及ぼします。例えば、U11サッカーチームは、7対7で行い(登録人数は9人から12人まで)、1試合25分ハーフ、ボールサイズは4号球であるべきです。フィールドのサイズは、幅30~36メートル、長さ40~55メートル、ゴールサイズは1.83 x 4.88 m以下でなければなりません (Canadian Soccer Association LTPD Work Group、2009)。修正版のU11サッカールールでは、大会開催に必要な時間、施設、設備、人材に関するガイドラインが示されています。

8.コスト面について考慮されているか?

大会のコストには、大会を主催したり、参加者に提供するためのコストと、参加者にかかるコストという2つの側面があります。多くの国で、国は施設の運営費を利用者に払わせていま。トレーニングも競技会もコストが上がれば、経済力のない人が排除され、参加できる人がすくなくなります。中には、アルペンスキー、馬術、ヨットなど、参加コストが高いために、参加者の多くを排除してしまう競技構造になっているものもあります。

サッカーやバスケットボールのように、伝統的に低コストのスポーツでは、高価で排除的な競技構造が作られ、参加者数を減らしています。このため、競技を設計する際には、基本的な財政的コストを考慮する必要があります。これは、単純に競技に関わるすべての経費を合計することで行われます。さらに、時間的なコストも考えなければなりません。

発達段階にある子どもたちにとって、車で何時間もかけて大会に参加することの費用対効果はわずかです。むしろ、その時間をトレーニングに充てれば、より低コストで有意義なプログラムになるはずです。保護者は、LTADの最初の3つの段階において、遠征に頻繁に出かけるチームの利点をじっくりと検討する必要があります。過度な競争をするアスリートは、生活とスポーツのバランスをとる時間がなく、その結果、健康的な社会生活を送れなくなることがよくあります。さらに、バランスが取れていないと、燃え尽き症候群が起こり、その結果、アスリートは自分の可能性を発揮できないまま、早期にスポーツから離れることになります。

競技会の設計や企画は、例えば、大会プログラムに社会的活動を組み込むことで、ライフバランスの問題に対処することができます。そのためには、イベントプランナーは、シーズン終了後のダンスや催しものといった典型的な出し物を超えて、地元の博物館への遠足など、シーズン中の教育的活動を含める必要があります。

9.素晴らしい競技会にするためのフォーマットとは?

競技形式は、スポーツ科学に芸術的要素が加わる分野です。様々な状況、様々な解決策があるため、標準的なデザイン、つまり、簡単な答えはありません。
その目的として、子どもたちがスポーツを楽しむことを第一に考えながら、グループ分けを成功させるための原則を考慮した競技会をデザインすることです。なぜなら、スポーツを楽しめなくなった人は、スポーツをやめてしまい、将来の技能向上や長期的な健康効果を失うことが分かっているからです。

競技設計の最初の課題は、参加者のグループ分けです。一般的に、参加者のグループ分けは、管理者の立場から最も簡単な方法であるため、年代を基準に行われます。しかし、子供の成長スピードは様々であるため、このようなグループ分けは大きな格差を生むことになります。この章の前半で述べたように、スキルによって階級分けされたグループを作ることで、有意義な競争を実現することができます。こうすることで、一人の選手をあるときは上位に、またあるときは下位のグループに配置することができます。

年齢によるグループ分けの弱点は、経験が考慮されないことです(例えば、9歳のサッカー選手2人のうち、1人は7年の経験があり、もう1人は2年しかないなど)。さらに、このようなグループ分けをすると、切り口が固定され、相対年齢効果が生じます(5章参照)。
個人競技の場合、大会開催日の年齢を基準にすることで、相対年齢効果に対処することができます(例えば、2005年生まれの子同士ではなく、9歳の子同士で競い合うことができます)。そして、1月1日などの区切りの日を設けず、特定の誕生年の子どもたち全員が、日にちに関係なく競い合うのです。特定の日付の年齢を使うことで、その時点での同年代の子どもたちと競い合うことができるのです。このようにして、子供たちは時期によって最年長にも最年少にもなることができるのです。チームスポーツの場合は、1年半ごとに年齢を区切るという方法もあります。同様に、3年間で、最年長、最年少、中間の年齢グループになる機会があり、誕生日によって常に最年長、中間、最年少になる誕生月によるバイアスを排除することができます。

リーグやトーナメントなど大会の形式は、実にさまざまです。すべての決定は、その段階での子ども達にとって何がベストであるかに基づいて行われるべきです。しかし、子ども達がTrain to Trainの段階に入ると、子ども達は限られた数のスポーツに集中するため、1シーズンが長くなります。同様に、初期の段階では、陸上競技やスピードスケートのような個人競技の大会は、数日ではなく、数時間で行われるべきです。後期段階になって初めて、複数日にわたる競技を検討すべきです。リーグや大会のフォーマットを変更することは、すべてのステージで行われ、ステージに適した、参加者にとって楽しいものにしなければなりません。

トーナメント、マルチスポーツゲーム、プレーオフは、多くの参加者にとってエキサイティングな大会です。競技会の構成方法は、試合の指導方法にも影響します(表1参照)。

表1:様々な大会の形式に対するコーチの行動
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』p.150 TABLE10.1修正

また、競技の採点方法もコーチングの戦略に影響を与えます。コーチは要求された尺度でコーチングを行いますが、多くの参加者はスコアのみで成功を決定することを忘れてはいけません。スコアをつける方法とスコアをつけるのをやめるタイミングはたくさんあります(例:野球のマーシールールなど)。一般的に、FUNdamentalsの段階では、スコアをつける必要はありません。初期のLearn to Trainの大会でも、参加者とその保護者はとにかくプレーすることが目的ですので、主催者は公式スコアをつける必要はありません。得点を導入する段階ですが、一方が他方を劇的にリードしている場合、スコアを最大限の数字で表示することがベストです。たとえば、5点差でリードしているときは、負けているチームが1点取るまで、それ以上はスコアボードに表示されないようにするなど、思いやりのあるルールがない限り、得点は得点板ではなく、スコアシートに記録するようにします。

革新的な採点方法も競技会に影響を与えます。ケベック州のあるサッカーリーグでは、試合での得点は、勝ち3点、引き分け2点、負け1点、フェアプレー1点、さらに運営上のコンプライアンス(得点が正しく、時間通りに地域に報告されていること)1点となっています。ブリティッシュコロンビア州のラクロス大会では、各ピリオドに勝利するとポイントが与えられますが、反則が多ければポイントが減点されます。多くのラグビーリーグでは、一定数のトライを取ると追加点が与えられます。繰り返しますが、大人の使用している得点方法を、育成段階において使用する必要はないのです。

10.競技会にふさわしい報酬と称号とは?

11歳で世界チャンピオンに!?14歳でオリンピック(ユース)チャンピオン! 何が残っているのか?人生のピークはいつでしょうか?そんなアスリートが、なぜまた世界チャンピオンになるためだけに10年もプレーしようと思うでしょうか?それぞれのステージに応じた報酬や称号が必要なのは明らかです。

選手や保護者が報酬や称号をどう考えるかは、それを獲得した大会の名称と大きく関係しています。権威のある大会には権威のある報酬が与えられ、より意欲的なアスリートが集まるので、主催者は宣伝のために長い、魅力的な響きの大会名を使用することが多いのです。しかし、ほとんどの親は、自分の子供が州や県や地域のタイトルよりも全国大会で優勝するのを見たいのですが、特に初期の段階では、競技会の名称や誇大広告に騙されないようにしなければなりません。大陸を横断するのはエキゾチックでエキサイティングに聞こえますが、費用は高額です。多くの場合、近くのイベントも同じように発達に役立ち、同じように楽しく、費用もはるかに少なくて済みます。

また、国の組織は、イベントの名称によって生じる誇大広告をコントロールすることができます。アメリカ、ロシア、中国、カナダなどの国の課題は、国土が広大なため、一つの国別選手権を開催すると、旅費や宿泊費がかさむことです。そのため、参加者が限られてしまうのです。そこで、全米大会を複数開催することも一つの方法です。例えば、アメリカBMX協会は、カナダで5つの国内選手権を開催しており、国中に分散しています。営利団体であるAmerican BMXは、レーサーを惹きつけるために、イベントを「全国規模」としてブランディングすることに価値を見出したのです。これは、自分の子どもを一流のイベントに参加させながら、より低い費用で参加させることで、親たちのプライドを満たすものです。

賞や表彰は、誰にとっても素晴らしいものです。努力が報われたときに、「よくやった」と言われることは決して悪いことではありません。課題は、報酬や表彰が適切なステージであることを確認することです。上位入賞の表彰台やメダルは、いつ用意すべきでしょうか。全員にリボンやメダルを渡すのはいつがいいのでしょうかか?以下は、そのようなイベントの一例です。

ある小さな町で開催されるクロスカントリーの大会は、複数の小学校との連携に成功し、最初の大会では1カテゴリーあたり約80人のランナーが参加しましたが、回を重ねるごとに減少していきました。子どもたちの体力レベルはまちまちですが、彼らは自分たちの参加に誇りを持っているのです。このレースでは、上位40位までにリボンが渡されます。しかし、41位から80位までの子供たちにこそ、社会は継続的な参加を促したいと考えています。

では、41位から80位までの子供たちはどうすればいいのでしょうか?40位以内の選手にはかなわないけれども、自分自身と自尊心を賭けてレースに参加していることは素晴らしいことです。前述したように、賞や表彰を正しく行うために、主催者はLTADの各ステージの目的と一致させる必要があります。例えば、「train to win」のステージでは、チャンピオンを決めるのが目的なら、3つのメダルが適切でしょう。もしステージが「Learn to Train」で、スキルの向上と参加者の増加が目的であれば、一人一人に報酬を与えることが適切でしょう。品物、契約、現金、奨学金などの賞品は、そのステージの目的に合ったものでなければならず、その結果、選手の成長が促されます。また、仲間や親、メディアからの評価も同様です。

以上のような判断のもと、コーチや管理者は、すべての人に質の高いスポーツ体験を保証するために、素晴らしい競技を構築することができます。そこから、適切なトレーニングの計画を立てることができるのです(第9章参照)。

各ステージにおけるトレーニングと競技の比率

以下のトレーニング対競技の比率は大まかな一般論であり、各ステージの年間計画において何を重視するによって変化します。表2は、一般的なトレーニングとスポーツに特化したトレーニング、そして、競技に特化したトレーニングの比率に関して推奨される一般的事項の概要を示しています。年間計画が進むにつれ、トレーニングや競技プログラムの量と質がどのように変化するかを考慮しましょう。

表2:トレーニングと競技会の割合
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』p.152 TABLE10.2参照

結論

今こそ、発達によるさまざまなステージにおける競技会のあり方や運営方法を見直すべ時です。子供たちは、ハイパフォーマンスの大人と同じような競技会の形式を必要としません。子供達が勝敗に対するプレッシャーに対処するスキルや能力がないうちに、プレッシャーのかかる競技状況に子供をさらすことは、子供のスポーツ観に悪い影響を与え、早期のドロップアウトを引き起こす可能性があります。プレッシャーは子ども自身が進んで受け入れるものかもしれませんが、多くの場合は、勝ち負けで成功を計る親やコーチから発せられるものなのです。

子どもや若者にとって、スポーツは勝つことがすべてではないはずです。子どもたちは、スコアボードに結果を表示させなくても、十分に競争しています。重要なのは、成長、思いやり、そしてポジティブな経験です。そのため、大人の競技形式と育成年代の競技形式とを重ねてしまわないように、様々な競技形式を工夫する必要があります。これには、施設、試合の採点方法、スポーツ全体のリーグ構成、さらには同点の取り扱いに至るまで、あらゆるものが含まれます。子どもたちが正しく成長し、競技を続けたいと思うためには、競技会の多くの側面を考慮し、工夫する必要があります。

しかし、子どもや若者に合うように競技を工夫すべきと同様に、過度な競争を避けるための配慮も必要です。「lern to train」「train to train」のステージでは、過度の競争は体力の低下や基礎技術の欠如を招きます。その時点でのトレーニングは子ども達が必要なスキルを学び、その後のLTADのステージを乗り切るための基礎体力レベルを確立する場所であるため、この時期には十分な練習が重要になります。適切な競技会は、技術的、戦術的、そして精神的な発達を高めるものでなくてはなりません。

以下は、育成年代の競技会を工夫する際に考慮すべき点です。
・LTADのすべての段階において、スポーツに応じた最適な競技会とトレーニングの比率が必要であす。
・競技シーズンのレベルと長さは、LTADのステージを登る子ども達のニーズに合わせて調整する必要があります。
・Learn to TrainとTrain to Trainの段階での過度な競争と過小なトレーニングは、基本的なスキルとフィットネスの欠如をもたらします。
・適切なレベルでの競技は、すべての段階において、技術的、戦術的、そして精神的な能力の発達に不可欠です。
・チームスポーツのスケジュールは、多くの場合、リーグや組織によって設定されるものであり、チームによって設定されるものではありません。そのため、ピリオダイゼーションに基づいた最適なトレーニングは困難です。
・個人スポーツでは、コーチとアスリートがアスリートの発達の必要性に基づいて競技スケジュールを選択することができます。
・現在の競技会のあり方の多くは、伝統に基づいています。アスリートのLTADステージに基づいてトレーニング行ったり、パフォーマンスを向上させたりするために、これらのシステムを変更する必要があります。
・大会は、戦略的な計画を考慮し、アスリートの最適なパフォーマンスとテーパリングおよびピーキングの必要性を十分に考慮して、作成およびスケジュールされなければなりません。
・種目それぞれにおける最適なトレーニングと競技会の比率は大きく異なるため、種目ごとにその比率を決定する必要があります。
・国際的なカレンダーと国内のカレンダーは通常よく統合されていますが、すべての競技会を体系的に見直す必要があります。これはチームスポーツにとって最大の課題の一つであり、LTADを導入している個人スポーツにとっても大きな課題です。
・過度な競争を避け、適切な競技形式を提供するための1つの方法は、適切なトレーニングと競技会の比率を使用することです。すべての種目が同じ比率を必要とするわけではなく、アスリートが各ステージに進むにつれて、トレーニングと競技会の比率も変化していきます。一般的に、ステージが上がれば上がるほど、競技会の量も増えるはずです。最初の数ステージでは、トレーニングに重点を置き、競技会に費やす時間はほとんどありません。この方法でも、子どもたちが将来スポーツに参加するために必要なスキルと体力の基礎を築くことができ、かつ活動を楽しく続けることができます。

まとめ

今回の章は競技会(大会や試合のあり方)の詳細について説明したものでした。
この観点から、中学校の部活にLTADを応用するための視点として、
①自チームに必要な競技会のあり方を計画し、実施する。
②地域のリーダーとして、大会運営に権限を持つ団体(中体連や協会など)が行動を変容させるように影響を与え続ける。
③保護者に情報提供を行う。
ことなどが考えられると思います。

①自チームに必要な競技会のあり方を計画し、実施する。

私たち中体連に登録しているチームは、中総体が最も大きな競技会であり、そこから大きな影響を受けます。

しかしながら、中総体は70年以上続く伝統的な競技会であり、基本的に大人の競技形式をそのまま利用した競技会と言えます。そのため、登録メンバー以外(いわゆる補欠)は出場することができない。上位数チームが次のトーナメントに進むため、スタメン以外が試合に出場しにくいなどの諸問題があります。
ここに、さらにクラブチームを参加させるという、育成年代の競技形式の本質から大きく離れたセンスのない形式変更をスポーツ庁は命令しましたので、その問題点はさらに拡大していくことでしょう。ここではそのことに触れるのは控えて、私たちができることに目を向けていきたいと思います。

これまで、私が部活動に関わってきた中で、一番の問題点は「技能の高い生徒のみが優先的に試合に参加(つまり指導を受ける)ことができる環境が作られている」ということです。これは競技会が3年生を頂点とした形式になっていることが大きな要因と考えられます。また、ここで言われる「技能の高い生徒」とは、実は「早熟傾向の生徒」であったり「相対年齢の高い生徒」であったり「競技開始年齢の早い生徒」であったりするわけで、そのことにチームメイトや指導者、保護者も気づいていない(あるいは気づいていないふりをしている)こともしばしばあるのが実情です。

そこで、私は競技開始年齢によってグループ分けをしたチームによるリーグ戦を徒歩で移動できる圏内の近隣校と行う。という競技会を考案しました。今年度、実際に実施する予定です。詳細は別の記事で書きたいと考えています。

②地域のリーダーとして、大会運営に権限を持つ団体(中体連や協会など)が行動を変容させるように影響を与え続ける。

私が地域のリーダーにふさわしい人間かどうかは別として、実際の役職として県中体連の専門部長ならびに県協会のU15部会長を兼任しているという立場にあります。
私自身に地域で開催される大きな競技会の形式を変更する権限はありませんが、その権限を持つ団体に、影響を与えることはできるはずです。そのため、県中体連や県協会の会議では、育成年代における競技会のあり方として、私自身が正しいと考えることを発信して影響を与えて行かなければと考えています。これは、微々たる努力であると同時に、今回のスポーツ庁の暴挙により踏みにじられてはいますが、挫けずに努力していくしかありません。

③保護者に情報提供を行う。

質の高い競技会を実施するには、保護者の理解が欠かせません。ただ、試合に勝つことだけに焦点を当てるのではなく、多様なスポーツの楽しみ方があることを保護者にも理解していただき、より良い競技会の実施に繋げる必要があります。
そのため、保護者会や部活通信でそのような情報共有をこまめに行おうと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?