BABEL 1910.3.28 初出 モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 三月一日の朝七時頃、操舵手が横手に陸地を指し示した。霧が濃いせいでその陸地は見えず、われわれは帆を揚げて…
LE REGARD 1906.5.4 初出 モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 薪の火は消えかかっていた。低すぎるランプの発するぼんやりした光が、大きめの食器棚とどっしりした椅子のい…
LA COMPAGNE 1912.8.29初出 モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 かつてはあんなに楽しげだったこの家が、朝の太陽にもかかわらず、わたしには悲しげに見えた。子供の頃、好…
LE BOULET 1902.10.15初出 モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 一月十五日の午前十時に、ジャルディ氏は亡くなった。夫の目を閉じてやると、未亡人となった妻は愛人宛て…
Enigmatika
2024年8月30日 20:47
BABEL 1910.3.28 初出モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 三月一日の朝七時頃、操舵手が横手に陸地を指し示した。霧が濃いせいでその陸地は見えず、われわれは帆を揚げて直進していくしかなかった。しかしながら、その陸地はよく知られていたのだ。われわれは数年来、おもに捕鯨船に物資を補給するためにこの〈南〉海域を航行しているのだから。「陸地」と呼んでいるが、要するに小島の連なりのうちで最初
2024年8月29日 18:57
LE REGARD1906.5.4 初出モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 薪の火は消えかかっていた。低すぎるランプの発するぼんやりした光が、大きめの食器棚とどっしりした椅子のいくつかを照らしていた。カーテンは重々しい襞をつくって艶やかな床まで垂れ下がっていた。置き時計が単調な振り子の行き来で時を刻んでおり――つまりは部屋全体が何だかわからない、陰気で人を寄せつけない雰囲気に満ち、部屋に入る
2017年7月7日 20:01
LA COMPAGNE1912.8.29初出モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 かつてはあんなに楽しげだったこの家が、朝の太陽にもかかわらず、わたしには悲しげに見えた。子供の頃、好んで遊んだ庭には、きれいに均された小道はもうなかった、歩くごとに足跡がついてしまうほどきれいだったあの小道は。芝生にももう、ビロードのような美しい色調は見られなかったし、ヘリオトロープの茂みから、ヴァニラのような香
2017年7月7日 13:30
LE BOULET1902.10.15初出モーリス・ルヴェル 中川潤 訳 一月十五日の午前十時に、ジャルディ氏は亡くなった。夫の目を閉じてやると、未亡人となった妻は愛人宛てに短い電報を打った、《自由になったわ。来てちょうだい》 彼女はさっそく、家政婦の助けを借りて死んだ夫の体を清め、衣装を着せ、レース模様のシーツを掛け直し、ベッドの横に祝別された柘植の枝を置き、カーテンを引き、