出生の秘密、家族との葛藤、そして「許し」へ―志賀直哉の『暗夜行路』④
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8月第2作目には、志賀直哉の長編小説、『暗夜行路』を取り上げます。
『暗夜行路』は、志賀直哉が1921年~1937年の16年余りをかけて手がけた唯一の長編作品。
主人公・時任謙作の複雑な家族関係や恋愛での葛藤が克明に描かれ、彼の内面的な成長を辿っていく大作です。
志賀直哉は、文芸思潮『白樺派』を代表する小説家の一人で、芥川龍之介は「創作の理想」とするなど、多くの日本人作家に影響を与えました。
『暗夜行路』――出生の秘密、家族との葛藤、そして「許し」へ
志賀直哉(1883~1971)
【書き出し】
私が自分に祖父のある事を知ったのは、私の母が産後の病気で死に、
その後二月程経って、不意に祖父が私の前に現れて来た、その時であった。
私が六歳の時であった。
【名言】
※あらすじは、第1回目・2回目の記事をご参照下さい🌸
【解説】②
・すべてを許すという境地―『暗夜行路』のラスト
『暗夜行路」では、主人公の時任謙作が、自分が「母と祖父の不義の子として生まれた」という出生の秘密や、過失とはいえ、不貞を犯した妻との関係に苦しみます。
苦しみから逃れるために、一人で鳥取の大山(だいせん)の寺での生活に入ると決める謙作。
波乱万丈の人生でしたが、やがて大自然のなかに心の平安を得て、すべてを許すといった心境へと変わっていきます。
このように、『暗夜行路』は、主人公の内面的発展が描かれ、最終的には、家族との葛藤を克服し、妻とも和解するという「許し」の作品でもあります。
長年の苦しみから解放されていく謙作の様子に、とても心打たれるものがあったので、原作の一部をご紹介させていただきますね。
・「小説の神様」―志賀直哉
『暗夜行路』の作者・志賀直哉は、「小説の神様」との呼び声も高く、多くの日本人作家に影響を与えた存在です。
作家として活躍し始めた志賀直哉は、雑誌「白樺」を中心とした、白樺派(人道主義・理想主義・個人主義的な作風)に所属。
『或る女』の作者・有島武郎らと並ぶ中心人物となりました。
・内村鑑三に師事
青年時代の志賀直哉は、内村鑑三のもとに通い、キリスト教や聖書に接し、宗教的教養も積みました。
友人に勧められ、内村鑑三の講習会に参加した直哉は、その真実さのこもった話に胸のすく想いがし、「本統のおしえをきいたという感銘を受けた」そうです。
内村の魅力に惹かれた直哉は、以後7年間、内村に師事。
直哉自身はキリスト教には入信しませんでしたが、のちに、自分が影響を受けた人物の一人として内村鑑三の名前を挙げています。
・夏目漱石、芥川龍之介から絶賛される
志賀直哉といえば、夏目漱石・芥川龍之介の両氏から、熱い期待を寄せられていた人物でもあります。
1906年、東京帝国大学に入学し(のちに中退)、夏目漱石の講義に興味を持ったことが、志賀直哉と夏目漱石の出会いです。
1913年、直哉は初の短編集となる『留女』を刊行。
後にこの短編集が夏目漱石によって賞賛されたそうです。
その後、漱石から、「小説『こころ』連載の後に東京朝日新聞にて連載しないか」、と誘われます。
直哉はその話を受け、小説「時任謙作」を連載予定でしたが、筆が進まず断念。
上京して漱石宅を訪れ、その場で漱石に新聞小説連載辞退を申し出ます。
漱石に不義理を働いたとの自責の念に悩み、直哉はこの年から3年間休筆しました。
芥川龍之介は、文学評論「文芸的な、余りに文芸的な」のなかで、「通俗的興味のない」「最も詩に近い」「最も純粋な小説」を書く日本の小説家は志賀直哉であると述べています。
さらには、「志賀直哉氏はこの人生を清潔に生きてゐる作家」であり、作中には「道徳的口気(こうき)」「道徳的魂の苦痛」が垣間見えるとも言及。
直哉を高く評価していたことが分かります。
・『暗夜行路』はどこまで志賀直哉本人を投影しているのか?
『暗夜行路』は、志賀直哉が16年もの歳月をかけて書き上げた長編大作。
時任謙作の人生は、出生、家族、恋愛、結婚、出産……すべてに問題が多発し、これでもかというくらい波乱万丈です。
そして、この物語が、作者・志賀直哉の半自伝的小説とも言われているのが驚くべきところ。
一体どのあたりまでが自伝的小説なのか、というところが気になりませんでしょうか?
私は気になってしまったので(笑)、ご紹介していきますね!
・『暗夜行路』の前身小説『時任謙作』
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