見出し画像

vol.6 中島みゆきの「ファイト!」の歌詞がずっと怖かったという話

残業が長続き、仕事が終わる22時ごろ、
ムシャクシャして一人でカラオケボックスに籠る習性が私にはある。

帰路につきながらネガティブに走る自分の思考を
別の何かに飛ばすために、真っ先に中島みゆきさんの「ファイト!」を入れて気を紛らす。

ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ

中島みゆき「ファイト!」
歌ネットhttps://www.uta-net.com/song/13307/

1994年にリリースされたこの曲は、
CMソングとして使われているサビの力強いメロディーが耳に残る。
リリースの当初は生まれてもいなかった私は、
テレビCMからこの曲を知ることになる。
サビのメロディを聞くと、力強く励ますその歌詞は、
仕事終わりの自分の心に思い切り刺さる。


私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
私 驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
ただ恐くて逃げました 私の敵は 私です

中島みゆき「ファイト!」
歌ネットhttps://www.uta-net.com/song/13307/

歌いだしの歌詞はそんなサビとは裏腹に、
冷たい世間の闇、混沌とした世界観がリアルに
描写されていて、歌いながらも正直ギョッとする。

表面をなぞるとそうなんだけれども、
この歌詞で重要な箇所は、
「私の敵は 私です」
と述べるところにあると、個人的に思う。
本当の敵は、「階段から子供を突き飛ばした女」ではなく、
「現場から逃げだしてしまった自分自身」だという事。

この歌の主人公は6人いて、
①中卒だからという理由で、仕事につけない状況下にいる女性
②「ガキの癖に」と見下され、暴力を振るわれる少年
③突き飛ばされた子供を助けず、逃げ出してしまった人
④とある競技に出場した人
⑤上京する夢を絶たれてしまった人
⑥男に、思うままにされるしかなかった女性


それぞれの人たちが、理不尽に苛まれて、
立ち向かうことが出来なかった自分自身に対しての怒りを内に秘めている。

それは、同じような境遇にいるリスナーに向けても、
「あなたもこの曲の一部にいるんだよ」と言ってくれているような、、

その悩める者たち、いや生きる魂(川を上っていく小魚たち)に向けて送られる「ファイト!」に様々な意味が込められていて、
登場人物6人それぞれに対して深入りしすぎず、
程よく背中を押してくれるこれ以上ない一言のように思える。


あ、ここからは話を、最初のカラオケボックスでこれを歌う私に戻してもらえると幸いです。

「ファイト!」を歌いながら、私はその時、自分に降りかかった理不尽を思う。


仕事先で夜遅くまで上司が言う愚痴を聞かされる自分。
担当する若手現場監督の仕事のできなさを、
その上司は小一時間嘆いている。

その現場監督とは、私と同じ20代で、年齢も近く、
現場でたまに一緒に力仕事を手伝って、
世間話をしながら締めのラーメンを食べる。
そんな仲。

「あいつは俺の言うことに最近反抗してきて
本当にむかつくんだよ。」
「これだからあいつはお客さんに支持されないんだ。」

本当に飽きずにあーだこーだ、喋る上司。
いつも「遅くまで残るな。」叱ってくるのに、
その会話に付き合わされて、事務所を出たのが
22時。モヤモヤ。

そんな上司の嘆きに対して、
「お先に失礼します。」の一言を言えずに
帰れない自分にもモヤモヤ。

「いや、現場も忙しくて、大変なんですよー、勘弁してやってください(^^;)」
の一言を言えない自分にモヤモヤ。

そういう理不尽と根性論は、
この営業の仕事にはつきもの。

2年半もやってたら、もう正直慣れてしまった。

全部、覚悟のもとでこの業界に飛び込んできたのだが、繊細な自分に心底向いていない世界だと思う。
3,000万~5,000万の住宅ローンを組ませる仕事だ。

やはり会社員としては、
「今月契約したら○○というメリットがありますよ?」
「ご決断するなら今しかないです。いかがですか?」
「それでは事前のローン審査だけでも進めてみましょう。」と、精一杯の笑顔で、
あなたの敵ではないんですよ…?ということを
アピールしつつ、お客さんの背中を押してあげなくてはいけない。

高すぎる自意識を持つ私は、
「こんな日陰者の自分ごときが一丁前にセールスなんかしてしちゃって、すみません💧」
が前提にあるから、バレる人にはバレる。
「あ、なんか急に予定入っちゃって、帰ります。」と、お客さんに言われて帰られちゃうのは
自分のセールスに本物の”熱”がこもっていないから。
薄っぺらい覚悟は鋭い人にすぐバレる。

そりゃあ末永い生活をする住宅が欲しいんだから、
信頼できる営業マンに任せたいよなぁとか、
ぐるぐる考えこんで、夜道を歩きながら
一人トボトボ歩く。

過去の自分に対して積み重なっていった後悔と反省。
私は性格上、飲み会とか仕事の商談の後とか、
結構な確率で、
「こうしたら良かったな」とか
「あの時の発言は良くなかったな」とか
帰り道うじうじ考え込んでしまう。

毎回反省ばっかしてるのに、それを次に生かせない自分に対していらいらするその一連のくだりも
もう何百回繰り返すのか分からない。
そんな過去の自分との戦いを
これからもずっと続けていくのだろうと思う。
(自分の性格上。)

話を戻しますが、
そんな会社の理不尽と、高い自意識と闘い続ける自分に「ファ〜イト!」と、
背中をコンと控えめに押してくれる、中島みゆきさんのそのちょうどいい塩梅が好きです。

長いこと自分の苦労話を聞いてくれ~みたいな
文章になってしまいましたが、
結局言いたいのは、世代を超えて勇気づけてくれる
中島みゆきさんはやっぱり偉大だということを
(分かり切っている事だけど)改めてお伝えしたいと思いました。———

30分ほどでカラオケボックスを出て、
イヤホンを耳につけて、
また音楽の世界に閉じこもる。

30分前、過剰すぎるネガティブを背負って、
重そうに苦しんでいた過去の自分はそこにはいなかった。

中島みゆきさんがそのネガティブを丁寧に精査してくれて、
必要のないものを全部捨ててくれたから。

そのでっかいネガティブという名の粗大ゴミは、
実は鉛みたいな重たい素材ではなくて、
小さなガラクタが詰まった大きなプラスチックの
入れ物である事を私は知っている。
それを取り除けばめちゃくちゃ軽くなるという事も
十分に分かってる。

それでも次の日にはまた、勝手に小さなガラクタを
見つけ出して、どんどん荷物を重くしてしまう
悪いお化けが私の頭の中にいる。
まあいいよ。
自分にとって必要のないガラクタに関しては、
中島みゆきさんが全部捨ててくれるから。
ちゃんと精査してくれるから。

それらを懲りずに何度も捨てに行くために
私はまたカラオケボックスに籠りにいくのだろうと思います。

(勝手に中島みゆきさんをゴミ収集員に例えるなや。)
そんな変な音楽好きの話でした。
ご清聴ありがとうございました。


この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,302件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?