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マイクロノベル集 283「四月の物語」

No.1561
ぼくは自分の名前が嫌い。四月一日と書いて――「知ってる、ワタヌキだよね。着ていた服から綿を抜く季節だから」違うよ。「じゃあエイプリルフール!」単なる“しがつついたち”だよ。勝手に期待して勝手にがっかりされるから、ぼくは嫌いなの。嘘だけど。


No.1562
「今まで隠していたんだけれど、実はぼくはタヌキなんだ。覚えているかい? 山の中で罠にかかっていたぼくを助けてくれたね。お礼がしたくて、ちょっと大げさな出会いを演出したんだ。さあ、ぼくを開けてごらん」そう言われてAIを開けると、ただの空箱で――


No.1563
一月は往く。二月は逃げる。三月は去る。なら、四月はどうする? ぼくは逃げも隠れもしない。さあ、輪になって歌おう。四月は花見で酒が飲めるぞ~。「ここはバーベキュー禁止ですよ」春の目覚めだ、大目に見ろ。「熊も冬眠から目覚めるんですよ」帰ります。


No.1564
今年も咲けた。立派な桜だと褒めてもらえるけれどそろそろ限界かな。「あなたは誰? お団子食べる?」ありがとう。それは坊やが食べなさい。「お写真撮ってもいい?」――祖父が古いカメラで撮った昔の写真には知らない人がたくさんいる。ねえ、この人は誰?


※noteだけで読める、このマイクロノベル集の続きはこちら。



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