新規事業をつくる上で非エンジニアの私が大切にしている2つのこと
新規事業の立ち上げについて私がいつも大切にしている価値観を綴ってみます。
これまでにいくつかの新規事業立ち上げを経験してきました。
10年前にスタートして現在も代表として運営している「世界中の旅人と食卓を囲むホームビジット」がその最たる例ですが、前職でプロダクトマネージャーとして参加した社内プロジェクトや、独立してからも料理や国際交流の分野で新規事業を企画し、実践しています。
特に「世界中の旅人と食卓を囲むホームビジット」は、私自身の個人的なアイディアから始まり、少しずつ共感の輪を広げつつ多くの方に応援いただき、小さい規模ながらも10年続く事業になりました。
その間、おかげさまでNHKや民放TV番組で特集していただいたり、国内外の新聞雑誌ウェブメディアでも数多く紹介していただいたり。
そして「ウェブを活用した国際交流活動として先進的な取り組みである」と評価されて国の機関である国際交流基金から表彰いただいたことなど、新規事業の立ち上げとその後の継続という点である程度の実績を残せているといえそうです。(もちろん、最終的なビジョンの達成にはまだまだ道半ばなのですけれどね。)
また、以下の書籍ではこのホームビジット事業創出がケーススタディとして紹介されています。
もしかすると、
「とはいえ、非営利活動なのだからビジネスとは直接関係がないでしょ」
と思われるかもしれません。
確かにNAGOMI VISITはNPO法人なのですが、事業型NPOという性格が強く、収益のほとんどが事業収入。利益を配分しないという点以外、NAGOMI VISITは設立当初から一環して限りなく事業会社に近いことをしています。
私自身は学生時代から学び続けているマーケティングの考え方をベースに実践しつつ、サービス運営で起こる様々な課題にはその都度ビジネスの考え方を書籍やセミナーで学び、それをNPOの運営に取り入れて実践しています。
なので、私がこれまでやってきたことやその時々に考えていたことなどをnoteで発信することで、これから新規事業を考えている方にとって少しでもお役にたつ内容になれば嬉しいです。営利・非営利問わず、新規事業企画ではほとんどのことを共有できるかと思います。
前置きが長くなりましたが、ではいきます!
大切にしているのは、MVPとデザイン思考
先にこのnoteの結論から言ってしまうと、私は事業運営をする上で大切にしている2つのことは、MVPとデザイン思考のアプローチです。
なぜか?
それは、私自身がホームビジット事業に取り組む前に経験した苦い失敗談があるから。詳しくは後述しますが、自分なりにかなり真面目に取り組んだ新規事業で、さんざんな結果に見舞われたという経験があります。
当時はなぜ失敗したのか理由がわからなかったのですが、後になってMVPとデザイン思考の考え方を知ってからは、当時のアプローチがまるで間違っていたことが明確になり、それはうまくいくはずがないよねとわかりました。
既に12年くらい前の話なのですが、特に初めて新規事業に取り組む場合、今でも割と誰もがやりがちな落とし穴なんじゃないかなと思います。
MVP!MVP!MVP!
MVPとは「Minimum Viable Product」の略称で、「実用最小限の製品」と訳されたりします。顧客に価値を提供できる最小限の製品や、それを使ったアプローチの手法のことです。
2012年に発売された「リーンスタートアップ」という書籍で提唱されて、オンライン上でもそのエッセンスは数多く解説されています。もしご存知でなかったらぜひググってみてください。
新しい事業を企画するときって、最初は小さなアイディアやインサイトがもとになるはずですが、一度着想を得ると、すぐにその理想の形を実現するにはどうしたらいいか?と想いを巡らしがちです。
アイディアを深ぼって考えるのは眠れなくなるほどエキサイティングだし、そこにかかるコスト計算やビジネスモデル、そして資金調達という面も緻密に考えれば考えるほど、良い意味で興奮します。よし、やってやろう!!という気持ちでなんとしてでもアイディアを形にしたくなります。
それが例えばウェブサービスなら早速開発をしたくなるし、コンセプト作りやデザインも考えたくなるかもしれません。
でも、違います。最初にやるべきことはそれではなくて。
まずやるべきなのは、とにかくMVPを何段階か繰り返して、顧客に価値を提供できる最小限の状態でリリースし、自分が出したアイディアは他人にとってどんな価値があるのか?を見極めること。これしかありません。
こんなふうに書くと、「それって、サービスを開発するとかアイディアを形にしてはじめてできることなのでは?」と思うかもしれないけれど、そうじゃないのです。
アイディアを形にするために時間やお金をかけて、満を持して「どうでしょう?」と世に問うた結果、誰にも見向きもされずそこから頑張って営業をかけても相手のニーズを踏まえていないのでスルーされてしまう、という辛いステージが待っていることになります。しかも、そのアイディアが世にあるサービスと差別化されていてイノベーティブであればあるほど、そのリスクも高まります。
初めての新規事業企画で経験した苦い思い出
私自身、 2009年から2010年頃に前職で担当していた新規事業ではまさにこの苦い経験をしたので、辛さを身を持って知りました。
当時、その新規事業に取り組んでいたのは社長と私そしてウェブエンジニアの3人でした。私自身はプロダクトマネージャーの立ち位置で、社長のアイディアをもとに事業企画に落とし込んでビジネスモデルの開発に取り組み、一方でエンジニアと一緒にサービスの設計や開発に勤しんでいました。
当時はリーンスタートアップの考え方を3人共知らなかったので、(というよりもまだ世に出ていなかったので)、「時代の流れからいっても、我々がやろうとしているこの新規事業には確実にニーズがあるよね。リリースの少し前から営業もスタートして、営業代理店とのアライアンススキームも作って月額課金の形で広げていけば数年で収益の柱に育ちそうだよね」と、かなり気合の入った一大プロジェクトになっていました。
1年近くかけてようやくリリースしたサービスでしたが、結果は散々で。
ウェブサービスそのものはシステム面も含めてバッチリ。デザインまで作り込んでいるので使いやすいし複数言語対応もしているし管理画面だってあるし申し分ないのです。
が、いざお客さんに紹介をしても、、、、、反応が、、、、薄い。
お金を払ってもらえる代物ではないんだ、何かがずれているみたいだけれど何なのかはわからない、、、ということをその時点でようやく実感することになり、本当に辛かったです。
その数カ月後にリーンスタートアップを読んだときは、この時の自分のだめだった点が浮き彫りになり、どうすればよかったのか?という答えも明確になりました。
それが、「とにかくまずはMVP」という考え方。
10年以上前のことですが、今でも染み付いています。
直近では2020年も新規事業の企画を1つ立ち上げて現在進行中なのですが、やはりMVPからスタートしています。
具体的にMVPとして何をリリースするの?ということですが、システム開発をスタートする前段階でもできること・するべきことがたくさんあります。
オンライン上にも事例と共に多数紹介されていますのでご参考ください。
「実用最小限の製品」と一言でいっても、それをどう実現するのか?は事業内容や取り組んでいるプロジェクトのリソースによっても最適解は各々だと思います。
ご本人がエンジニアであったり、チームメンバーで開発できる人がいるのなら、サクッとMVPプロダクトを開発してリリースするケースもあるはず。(リーンスタートアップの書籍では割とその方向性で解説されています)
ですが、私は自分自身が非エンジニアなので、むしろ「検証できるまでは開発にとりかからない」と決めています。
なので、カスタマーリサーチをはじめ「本当はウェブ上で自動的に起こることを手作業でする(=おずの魔法使い)」や「顧客の窓口の最前線で何でも意見を聞く(=コンシェルジュ)」といったMVP手法を重要視しています。
「世界中の旅人と食卓を囲むホームビジット」の場合でいうと、一番最初に考えていたアイディアの時点で「ウェブ上でユーザー同士が登録しマッチングする」という形を想定していたものの、実際にそれをウェブ上で実現したのはサービスにお金を払ってくださるユーザーがだいぶ増えてから。
時期で言うと1年半後くらいからです。それまではずっとシステムに依存せず、手作業でサービスを提供していました。
「手作業でサービスを提供」ってさらっと言いますが、基本的にとんでもなく地道なことの繰り返しです。
本当は自動でできることを手作業でする、ということは骨の折れる作業ですが、ユーザー数が少ないうちは、決して不可能ではありません。
例えばメールの一括送信やデータ管理を自動化するなど、独自のシステム開発に頼らずとも世の中にあるたくさんの便利なサービスを駆使することで効率化できるところは徹底的に効率化できます。
ユーザーが増えすぎて「もう手に追えない・・!」という事態になったらどうしよう?と心配するかもしれませんが、それは紛れもなく嬉しい悲鳴ですよね。そんな事態になったなら同時に売上も上がっているはず。その時点ではじめてシステム開発に進めばいいと思います。
しかも、手作業で対応する過程でノウハウもたまっていますのでそれをシステムに反映することで無駄のない開発をすることができます。
こんな風にしてMVPを提供しつつデータを集めて仮説検証を繰り返すことは非エンジニアでも十分できますし、アイディアを形にしたいのならばやるべきだと私は思っています。
そしてこの考え方って、ウェブサービスだけが対象ではないはずですよね。様々な分野の新規事業で応用できると思います。
誰にも使ってもらえないひとりよがりのサービスを創り上げてしまう悲劇を避けるためにも、ぜひご参考ください。
デザイン思考
MVPの他にもう1つ、私が大切にしていること。それがデザイン思考の考え方でありプロセスです。
どれだけ自分が素晴らしいアイディアだと思っていたとしても、そもそも他人が価値を感じなければ事業にはなりません。
ユーザーにとことん寄り添ってその声や声にならない想いをとことん探り、「自分がやろうとしているアイディアは、彼ら・彼女らにとってどんな価値があるのか?」を明確にしていく必要があります。
オンライン上でもたくさん解説がありますので、わかりやすいと思った定義を紹介してみますね。
「デザイン思考」とは、デザインしたサービスやプロダクトの先にあるユーザーを理解し、仮説を立て、初期の段階では明らかにならなかった第二の戦略や代替する解決策を特定するために問題を再定義する、一連の問題解決の考え方のことです。そして、ただ考えるだけではなく、行動しながら考え、より良い結果を追い求めるための方法でもあります。(https://ferret-plus.com/より引用)
先に紹介したリーンスタートアップは割とサービスやビジネモデル面に特化しています。それらについて仮説を立てて実装し、MVPを通じてデータを集め検証して、そこからまた次の仮説を立てていくというアプローチ。
でも、ユーザーのニーズや課題を理解しサービスに落とし込むには、やはりとにかくユーザーの気持ちに寄り添うことが欠かせません。そこでデザイン思考です。
デザイン思考のプロセスは以下の通りです。
共感(ユーザーの声を傾聴する)
定義(ジョブを見極めて定義付けする)
創造(ビジネモデル作り)
仮説(ビジネモデルを軸にした仮説からプロトタイプを作る)
検証(プロトタイプをユーザーに提供し反応をデータ化し検証する)
潜在顧客300人の声を傾聴した
「世界中の旅人と食卓を囲むホームビジット」の場合でいうと、プロジェクトスタートの2011年秋から2014年頃までの初期に、サービスに参加したいとエントリーしてくださった方(=潜在顧客)と私が直接Skypeで30分ほど対話する仕組みにしていました。人数としては合計で300名くらい。
300人の潜在顧客と直接向き合い、彼らのやりたいことや期待、課題感や心配ごとなどをヒアリングしました。
上述したMVP(おずの魔法使い)に対して潜在顧客が興味を持ってくださっているという状況なので、ヒアリングと合わせて顧客からの疑問にその場でお答えできることはお答えする、コンシェルジュ的な役割も担っています。
300名の内訳は、百人百様です。都会に住んでいる人、地方に住んでいる人、子どもがいる人、子育てが終わっている人、そして過去の経験など年代も家ぞく構成もバックグラウンドは1人1人違います。
でも、同じサービスに興味を持っている方という点では共通している。
そのような様々な属性の潜在顧客からの声を大量にインプットしたからこそ、自分たちだけではとても想像できない課題やコアとなるジョブが見えました。
また、デザイン思考は新規事業を立ち上げる時だけの話ではなく、「考え方」そのものです。プロセスを繰り返すことで、サービスやプロダクトを改善していきます。
「世界中の旅人と食卓を囲むホームビジット」でも、最初にシステムを開発した後も日々のユーザー対応や時代の変化に合わせて傾聴を繰り返し、その都度ベストと思われる形に大小様々な改善を繰り返しています。
現在はCOVID-19の影響で活動を停止しているものの、また再開するタイミングではユーザーの皆さんを取り巻く様々な要素が変化しているはず。ユーザーの皆さんとの対話を大切に、丁寧に傾聴して必要な改善に取り組んでいくつもりでいます。
というわけで、新規事業をつくる上で非エンジニアの私が大切にしている2つのこと、MVPとデザイン思考でした。
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