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久々に泣いた日は、誕生日だった

13歳の誕生日、二男が泣いた。

部活から帰ってくるなり「ご飯何?」と聞かれ、「ハンバーグ」と答えると、小さく「やったぁ」と言いながら洗面所に手を洗いに行った。

それなのに、私が洗濯物を部屋に持って行き、再びリビングに戻ると、二男が泣いている。

「えっ?どうしたん?」

さっきまでハンバーグで喜んでいたのに、なぜ急に泣く?私が部屋に行った数分で何があったんだと驚きのあまり立ちすくむ。

「バスケが、、、楽しくない」

ポロポロと涙を流しながら、二男がそう言った。

「えっ?何で?誰かと喧嘩したの?」

何も言わず首を横に振る。そしてまた「ううっ、、」と泣き出した。

「とにかくこっち来て座り」

二男の背中をさすりながら椅子に座らせた。目の前にテッシュを箱ごと置くと、私も隣に座る。

色々質問したい気持ちを抑えながらしばらく見守っていると、少し落ち着いた二男がぽつりぽつりと話だした。

「今日、部活でゲームしたんだけど、、」


その日の練習は、週末にある練習試合に向けてゲーム中心だった。14人いた部員と顧問の先生を足して15人。各チーム1、2年生合同で3チーム作られた。

二男は先生と同じチームになり、そこで先生から「お前が指示を出すんだぞ」と言われたらしい。

でも、二男にはそれができなかった。そして「先生に怒られて嫌だった」と言う。

「そっかぁ」

二男の涙の訴えを聞きながら、私は複雑な気持ちになっていた。

メンバーの名前を聞くと、ポジション的に二男が指示を出すのが妥当だと思う。でも、2年生と先生がいる中では萎縮して、やりにくかった気持ちも分かる。

「僕にはできない。先生のやり方も好きじゃない」

そう言って、また泣き出す。

中学生になってこんなに泣くなんて、、と思いながら、私は二男の言葉を繰り返して整理していく。

「あんたにはまだ難しかったんだね。でも、先生にそう言えなくて辛かったんだね。ただ楽しくバスケがしたかっただけなんだね」

「うん」

「分かった。じゃあ、とりあえず週末の試合はお休みしよう。先生にはお母さんから言っておくから」

「うん」

そう言うと、二男は自分の部屋に上がって行った。


さて、どうしたものか、、

欠席の連絡はメールでもできる。でも、今の状況をきちんと知るためには先生と話した方がいい。

顧問の先生は長男の時からお世話になっている。泣いたから電話しましたというのは過保護かと思いながらも、やはり綻びを小さなうちに修復させたくて電話をした。

「二男君の事ですよね」

電話に出るなり、先生の方から切り出された。どう言っていましたか?と聞かれたので、さっき聞いた二男の気持ちをかいつまんで話す。

「そうですか、、」

先生が状況を説明してくれた。二男はゲーム中、指示を出すどころかパスすら出せなくなってしまったらしい。そんな状態に強く叱責してしまい、二男がその場に座り込んで泣き出してしまった、という。

「あぁ、部活でも泣いたんですね。ご迷惑をお掛けしました」

そう言うと、先生から「僕が言い過ぎました。すみません」と謝られた。

「そんな事はないんですけど、、」

問題は二男のメンタルの弱さだ。それは前から分かっている。

自分に自信が持てず、何かを始める時には、「でも、できないかもしれない」と言うのが常だった。

人見知りで、長男と同じ習い事しか続かなかった。クラスでも部活でも特に目立つこともなく、大勢の中にいるひとりに徹していた。

とにかく負けん気というか、悔しい!ということがあまりない。

「チャレンジして欲しかったんです」

そう言う先生の気持ちは、痛いほど私の胸に突き刺さる。

チャレンジして欲しい。

失敗してもそこから学んで欲しい。

でも、、と私は考える。

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最近、二男の同級生が不登校になっていることを知った。

気になって二男に「〇〇君、学校来てないんだね?」と聞くと、「うん、でもたまに一緒にゲームしてるよ」と言う。

「そうなんだ、何で来てないの?」そう聞くと黙った。

その子は以前、バスケ部に入っていた時期があった。お母さんのことも知っているだけに、私の中では心配する気持ちがあった。

「何か、嫌なことでもあったのかな」

二男が黙った時に話を終わらせれば良かったのに、私はまたそう聞いてしまった。

「触れない方がいいと思う」

ボソッと言った言葉にハッとした。

「そうだね、、ごめん」

事情は分からない。でも、繊細なことなのだ。他人が心配という好奇心で聞いてはいけないことだった。

二男はきっとその理由を本人に聞かないだろうし、もし知っていたとしても周りには話さない。ただ一緒にゲームを楽しむ。

そうやって、その繊細さに寄り添っていた。それは二男自身が繊細であるがゆえにできる事だと思った。


強くなって欲しい。でも、その繊細さを失って欲しくないとも思う。

「ちょっと時間がかかる子なんです。少し見守っていただけると助かります」

そうお願いして電話を切った。


夕食時に降りてきた二男に「先生は、あんたにチャレンジして欲しかったんだって」と伝える。

「また来週から部活行きなね」

「うん、分かった」

泣いたことで、ある程度消化できたのだろう。素直に頷いた。

「あぁ、それとこれ。おめでとう」

お小遣いが入った封筒を渡す。今は欲しいものがないと言った二男への誕生日プレゼントだ。

「ありがとう!」

そう言って喜ぶ姿はいつもの二男だった。

私は、やっぱり電話したのは過保護だったかなと少し後悔しつつも、これからこの子が少しずつ強くなっていけますようにと願った。


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