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サンタがいるのなら、私は彼らに会いたいと願う

「サンタさんって、どこから入ってくるの?」

クリスマスを間近に控えた12月下旬、煙突がない家に住む多くの子供がふと思うこの疑問に、世の親御さん達はどのように答えているのだろうか?

息子達が小さいうちはそれこそ夢を壊さないように「サンタさんが入ってこれるように窓の鍵を開けておくね」と優しく諭したものだけど、成長とともに「泥棒さんが入ってきちゃうよ」と別の心配をし始めた心優しい彼らに対して、

「サンタは実は透明人間だ」
「通り抜けフープを持っている」
「空からプレゼントを投げていく」

などと嘘に嘘を重ねる発言を繰り返して煙に巻いてきたのだけど、少し顎を上げてニヤニヤした顔で尋ねてくる小4三男に対して、今年はもうそんな予防線を張る必要はないなと思った私の答えは適当だった。

「換気扇や」
「えー!!サンタさん、雑じゃね?」

うん、お母さんもそう思う。

ありえないとブツブツ言いながらも、換気扇がツボにはまった三男の顔はニヤニヤからニコニコに変わっていき、それからちょっと真剣な表情になって小さく息を吸った。

「だからさぁ、サンタさんってお母さんなんでしょ?」

上の子達はサンタの存在を知っても真実を追求してくることはなかったが、三男はどうもその辺をはっきりさせたいらしく、先ほどの挑戦的な態度とは打って変わってクリクリした大きな目を真っ直ぐ私に向けてくる。

「お母さんが、あんな高いプレゼント買うと思う?」

ミニバスのクラブチームに所属している三男がサンタに頼んだプレゼントは、家の中でドリブル練習ができるネットで、室内用トランポリンに似たそれはスポーツ用品店で1万円近くもする普段なら速攻で却下する代物だが、浮足立ったクリスマスには持ってこいのプレゼントだった。

「たしかに、お母さんはあんな高いの買わないよね?」

揺れる瞳を見詰めながら、このまま認めてあげた方がいいのかもしれないと思う。むしろ今が「バレたか!」と告白する最大のチャンスで、そうすれば来年からあれこれ小細工をしなくて済む。

「買わない」

でも、私は認めることができなかった。

サンタがいるかいないか、信じるか信じないかという問題ではない。
私は三男が欲しいプレゼントを考えて、サンタに手紙を書き、クリスマスの朝に「わぁ!」と喜ぶ顔を見たい、ただそれだけなのだ。そんな身勝手な理由で今年も嘘に嘘を積み重ねていく。

「お母さんだったら、500円くらいの物しかくれないよね!」

しかし、そう言って笑う三男の表情は晴れやかだった。私も「そうやね」と言って笑った。



昨日、三男をおんぶした。

普段はあまりスキンシップをしないのだが、後ろからぎゅっと抱きついてきた三男をどういう訳か『おんぶしてみよう』と思い立った。

「えっ!いいの??」と驚きながらも「いくよ!」とジャンプをして私の背中に飛び乗った三男を受け止める。30kgの重みがずしりと腰に響き、くるりと一周回ってみたものの、すぐにギブアップしてソファに降ろす。

「お母さん、ボクをおんぶできたね!」
「重たなったなぁ」

たった数十秒で息が上がった私は、水を飲もうとキッチンに向かうと、後ろから「お母さん、まだボクをおんぶできて良かったね!」と嬉しそうな声がする。

「ずっとおんぶしてたんやで。赤ちゃんの時」
「あっ、あれでおんぶするんでしょ?赤ちゃんぶら下げるヒモ」

言い方、どうにかならん?

「おんぶしながら料理したり、洗濯干したりしててんで」
「大変だったんだねー」

そうそう大変やったと答えながら、「でも、可愛かったな」と呟く。

「もっかい、赤ちゃんに戻ってくれんかな」

そんな本音が漏れると、ソファでうつ伏せになっていた三男の首がにゅっと亀のように伸びて、「でも大変だったんでしょ?」と聞く。

「その時はね。今はそんなに大変に感じないと思う」
「じゃあ、赤ちゃんの時の方が良かった?」

その質問に私は「うーん」と考えた。

今がいいか、赤ちゃんの時がいいか、そんなのは決められない。出産の痛みを忘れてしまうように、その時々での大変さは比べられるものではないし、バタバタしていた毎日も、月日が経った今となっては『乗り越えた』という自信に変わり余裕が生まれる。

「どっちがいいとかじゃなくて、赤ちゃんだった三男に会いたいねん。お母さんもサンタさんにお願いしようかな。1日でいいから赤ちゃんに戻して下さいって」

長男だって次男だって赤ちゃんだった。でも、いくら写真がたくさん残っていても、何度動画を見返してみても、あのミルクの匂いがするふわふわした身体にもう一度触れることはできない。おんぶをしながら家事をして、抱っこをしながら買い物をしていた日々は戻ってこないのだ。

だから、
サンタがいるのなら、私は彼らに会いたいと願う。

1日なんて贅沢は言わない。1時間でも1分でも1秒でも一瞬でもいいから、彼らに触れさせて下さいと手紙を書く。

「ダメだよ、お母さん。大人にはサンタさんは来ないんだから」

センチメンタルな母に容赦なく現実を突きつけた三男は「ジュース飲もうっと」と立ち上がり、「そういやサンタさんってさぁ、いつ来るの?30日?」と聞いた。

「嘘やろ…」

年末にくるサンタなんて聞いたことがない。プレゼント、間違いなく雑巾やん。

私は「ちょっとおいで」と三男を呼んで、一緒にカレンダーを見ながら24日がクリスマスイブで、25日がクリスマスだと教えた。ついでにサンタが来るのは、忙しかったら26日かもしれないし、慌てん坊だったら23日かもねと付け加えておいた。

「えー、結局いつなの???」
「それはサンタさんにしか分からない」

こうやって嘘に嘘を重ねる12月はいつまでだろう。きっとおんぶができなくなったら終わるかなと考えながら、この瞬間もいつか戻りたい一瞬として残したいと思った。





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