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非情愚痴

「よい子はマネしないでください」

不意に頭に過ぎったテロップ。
そもそも「よい子」とはなんだろうか。
真似してはいけないことをしている俺は
よい子では無かったということなのか?

毎日あれをやれこれをやれと言われたから
あれもやったしこれもやった。
それでもあいつは
「おう、お疲れ」
しか言わなかった。

お疲れ??????は???
え、お疲れってその一言で片付ける?
これお前がやるはずだった仕事じゃないんか?
それをその一言で片付ける?
いやいや、いいんだよそれでも
それが俺のあるべき姿だと思うからさぁぁぁ

って気持ちを言わない俺はよい子ではないのか?
と問えば、
そんなのは当たり前だと淘汰される社会。
いや言ってないけどな
だって言うだけ無駄だろう。

なんだか喉が乾いたから背中のリュックを前にした。
こうなることを予測していた俺はしっかり水を買っている。
天然水、500ml。いや、少し増量の550ml。
先読みで行動できる俺はとてもよい子ではないか!!
あいつはこんなことしなかったぞ
目先の仕事だけ片付けて、明日の効率を考えようとしていなかった。
俺はよい子であいつは悪い子だ!!!


でも会社がとったのは、悪い子のあいつだった。
俺の手元に残ったのは紙切れ一枚。
解雇理由証明書。

え、なんでだよ俺はよい子だっただろ
何も言ってこなかったじゃないか
しっかりやってきたじゃないか
何がダメだった?
あいつは言いたいこと言って、仕事のミスも多かったはずじゃないか
なぜ俺を?なぜこのよい子を?
俺には全く分からない!!

ペットボトルの水が冷たい。
そりゃそうだ、買ったのは今さっき。
ここに来る前だから、5分も経ってない。

そういえば、よい子とは何故平仮名なのだろう。
良い子、善い子。よゐこ。
最後は違うとして、善良の2つが当てられる気がする。
テレビを見ている子どもは、良い子になるのだろうか。
ルールを重んじて社会に生きる良い、子。
善い子は社会的に素晴らしい行いをする、動詞的なよい子になる、気がする。
え、では俺は両方においてよい子じゃないか。
会社ではルールに従い、生活でも両親の為に稼ぎ、困っている人にはすぐ声をかけた。
そんな俺がなぜ、なぜこんな目に合わなければならないんだ?もうわからない。
何も考えたくない。誰かに教えて欲しいが、
誰に聞けることでもない。
俺は良い子であり善い子。
何にも迷惑はかけられない。

水が無くなった。そこで気付く。
俺は、良い「子」ではないではないか。
そもそも俺は大人で、子どもではないのだ。
何に囚われていたのだろう。
バカバカしかった。こんなしょうもない事に囚われて俺は生きていたのか、と。
よい大人になる、なんて聞いたことがない。
つまり大人になれば、良い悪いなんてない訳だ。
ただ俺は俺に、勝手に価値をつけていただけの人間だったのだ。

初めて、俺は悪いことをする。
空のペットボトルを近くに投げ捨てる。
胸がスカッとした。

そして俺は1歩踏み出す。
さぁ、これから俺はどこへいくのだろう。
ふいに横を見た一瞬、来る時に見た避難誘導灯が見えた。

それは風が、とても心地いい朝だった。

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