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Satsuma's Band 薩摩軍楽伝習生 その5

 薩摩バンドの楽器一式の値段に関する記事の中に「1500ドル」と「洋銀六千ドル」と「洋銀六千元」という2つの数字「1500」と「六千」、2つの単位「ドル」と「元」を記述しました。この数字「1500」は楽器購入費、「六千」は楽器と銃1500ちょう薬莢やっきょう製造機械全ての輸入費です。


ドルとは・・・

 1500ドルは楽器購入費としてどうやら事実に近い金額であろうことは、「Satsuma's Band 薩摩軍楽伝習生 その3」で明らかにしました。ところがそこには単位に関する誤解が含まれていることに気づいていませんでした。1500ドルは「洋銀1500ドル」のことで、米ドルで1500ドルではないということなのです。小山作之助氏は理解された上で記述されていと思いますが、筆者の理解は遠くおよんでいませんでした。

洋銀とは

 「洋銀○○ドル」の洋銀とは、「貿易で使われた外国の銀貨」*1)のことで、日本で洋銀といえばメキシコ銀貨(メキシコドル)を指すことが主です。8レアル*2)のメキシコ銀貨は、その1枚が1ドルとして流通しました。この(図1)銀貨の場合、品位は銀90%・銅10%・直径38mm・重さ27gです。

8レアル銀貨 (図1)

銀貨一枚の金属としての現在価格

 銀貨(図1)の重さは27gで、銀24.3g、銅2.7gが含まれていることになります。

・銀24.3gは、 田中貴金属が示す2024年4月24日09:30の 1g 税込販売価格は、152.02円ですので1枚あたり3694.086円になります。
・銅2.7g は、橋本興産が示す2024年4月22日更新の銅 1t 今月の平均値は、1482000円ですので1g価格はおよそ1.48円で1枚あたり3.996円になります。

 銀貨(図1)の金属価格は、1枚あたり3698.082円になります。

洋銀○○○ドルの現在金属価格

 楽器購入費として広く認識されることとなった1500ドルは、メキシコ銀貨1500枚のことになりますので、現在金属価格ですと5,547,123円、およそ550万円ということになります。

 楽器と銃1500ちょう薬莢やっきょう製造機械全ての輸入費の手付金「洋銀六千ドル」は、メキシコ銀貨6000枚、現在金属価格で22,188,492円、手付金2200万円ということになります。ちなみに「洋銀○○元」の「元」と「ドル」の関係は筆者にはわかりません。

ヤマハの楽器を買う

 薩摩バンドがヤマハのスタンダードモデルの楽器を注文するといくらになるのかを計算します。 

ピッコロ       YPC-32    121,000円 ×1台
E♭クラリネット   YCL-681II *3) 434,500円 ×2台
B♭クラリネット   YCL-255    115,500円 ×6台
B♭バスクラリネット YCL-221II    385,000円 ×1台
 
木管楽器10台 合計 2,068,000円
 

E♭コルネット     YCR-2610SIII   159,500円 ×1台
B♭コルネット     YCR-2330lll    115,500円 ×3台
フリューゲルホルン  YFH-631GS*4) 302,500円 × 1台
E♭トランペット   YTR-6335F*5) 242,000円 × 1台
(カタログ掲載無しのためファンファーレトランペット)

高音金管楽器6台 合計 1,050,500円

E♭ベンチルホーン  YHR-314II    319,000円 ×4台
(カタログ掲載無しのためFシングルホルン)  
アルトホーン     YAH-203S    220,000円 ×1台
 
中音金管楽器5台 合計 1,496,000円
 

トロンボーン     YSL-456G    220,000円 ×2台
ユーフォニウム    YEP-201    253,000円 ×1台
B♭バス        YBB-105    429,000円 ×1台
E♭バス        YEB-201     506,000円 ×1台
 
金管中低音楽器5台 合計1,628,000円
 

小太鼓        MS-6313    69,300円 ×1台
大太鼓        MB-6326   83,600円 ×1台
 
打楽器2台     合計152,900円

ヤマハ合計金額

 2024年ヤマハ楽器カタログにより薩摩バンドの楽器購入必要金額は、6,395,400円ということになります。このおよそ640万円という金額は、薩摩藩楽器購入費「洋銀1500ドル」金属価格がおよそ550万円ということと比べて妥当なものだと言えそうです。

 ただし、ヤマハ最高級楽器で揃えることは出来ず、スタンダードモデルでの購入になります。これは、ヤマハ最高級楽器の金額を試算してみると、木管楽器10台購入金額のみで、900万円を超えることになるからです。

【参考】
ヤマハの木管楽器最高金額試算
ピッコロ       YPC-92     847,000円 ×1台
E♭クラリネット    YCL-881     550,000円 ×2台
B♭クラリネット    YCL-SEAM A  1,001,000円 ×6台
B♭バスクラリネット  YCL-622II    1,100,000円 ×1台
 
木管楽器10台のみ合計金額が、9,053,000円となります。

1870年頃の貨幣制度

 日米和親条約が1854年に締結され、開国したことで開港直後には金貨が海外へ流出し、それを抑えるための政策が物価上昇を招くなど、貨幣制度は明治初期にかけて混迷を深めました。富国強兵・近代産業育成の政策を進めた明治政府は、近代的貨幣制度の確立のために1871年に貨幣単位を従来の「両・分・朱」から「円・銭・りん」の単位を用いた十進法の貨幣制度に改め、貿易用に1円銀貨を発行し洋銀との平価通用(同じ価値を持つ)が布告されました。
 ともかく、開国以降の金や銀を通した諸外国とのやり取りには、様々な混乱が起きていました。それが1897年の金本位制の確立、そして1927年3月の金融恐慌、1929年のウォール街での株価大暴落をきっかけとする世界恐慌、そして1942年からの現在に続く管理通貨制へと移行してきました。

 *この項目は経済音痴の筆者が間違いも恐れずに大きな流れを理解するために書いてみました。誤りがあってもそれはわかっていません。ごめんなさい。


脚注

(1)日本銀行貨幣博物館のウェブ内に記された日本貨幣史ウィキペディア「洋銀」参照
(2) 19世紀初頭からスペイン系の中南米諸国で広く使われていた通貨単位、現在はブラジル連邦共和国の通貨単位
(3)E ♭クラリネットのスタンダードモデルをヤマハは作ったことがありません。
(4)フリューゲルホルンのスタンダードモデルYFH-2310 の製造を停止したようです。(図2)
(5) 記憶の話なのでE♭,F,G管どの調の楽器だったのかはわかりませんが、いわゆる長管トランペットをヤマハは製造販売していた時期があり、現物を見た(1978年頃)こともその楽器がカタログに掲載されていたこともあります。

YFH-2310 (図2)

(図1) メキシコドルと言われる「8レアル銀貨」1枚が1ドルとして通用した
(図2)希望小売価格: 105,000 円(税抜)でした。


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writer Hiraide Hisashi 


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