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nagatakoira
2018年12月24日 04:33
第1章 梨花その3 骨董通りから脇に入り、岡本太郎記念館の裏手に彼の仕事場のワンルームマンションがあった。 建物自体はそれほど大きくもなく、古すぎずさりとて新築でもないが、品位があるビルで、一階には雑貨屋らしきテナントが入っていた。 彼の部屋はそのビルの三階の奥の通路の行き止まりの先にあった。 オートロックでもないし、玄関モニターらしきものもない。南青山という土地ではあ
2018年12月23日 02:45
第1章 梨花その2 南青山の11月の夕暮れは、私が心のうちに抱えている僅かな後ろめたさと、淡い期待に揺れる私の心のうちと似つかわしくないほど穏やかで暖かかった。表参道を歩く人たちの表情も、決して満たされてはいないものの、心なしか穏やかな感じをしていた。 ハロウィンの狂騒も消え、少しづつクリスマスへ向かうこの時期の南青山が私は好きだ。大学が南青山にあるということで、ほとんど庭みたいな
2018年12月22日 09:20
第1章 梨花 その1 夢というものが現実になり日常になったとしても、生活そのものが変わるというものでもない。 しかし人は現実というものの切なさに耐えられないから、夢を見るのかもしれない。 島根の田舎の高校にいた頃の私の夢は芥川賞を取ってベストセラー作家になって印税生活をすることだった。 それを当時の同級生の彼氏に話したら、「お前の言ってることは所詮夢物語なんだよ。俺