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30代後半の主人公の悲哀が少し理解できる田山花袋著「蒲団」

群馬県が誇る文豪・田山花袋の代表作「蒲団」を読んだ。30代も半ばに差し掛かり、すでに男性としての魅力は失われ生活に華がない、とは言え既に結婚もして子供も授かり、これから徐々に老いていくのだろうと有る意味男としての人生を諦めかけていたごくごく普通の男性が主人公である。ところが、こうした華のない生活が突如として一変する。自分のことを「先生、先生」と慕ってくれる可愛い一回り下の女性が寄ってくるのだ。自分は既に枯れた男になってしまっているのはわかっているのだが、男としての自分を諦めきれない。しかも、自分を慕ってくれている理由は男としての自分ではなく、「先生」としての自分なのだ。

そんなことは十分承知しているはずなのに、それでもその子のことが気になってしまい、そんな枯れた男が男としての自分を取り戻せないまま、それでもその子のことが気になってしまい、最後にはその子に彼氏らしき男ができたら執拗に嫉妬してしまい、否が応でも引き離さんとする、少し憐れみを感じてしまう行動をとる中年男性の哀しい物語であった。しかもその彼氏らしき若者を引き離せたところで、何も得るところがない、という哀しい事実が残るのみであった点も、作品としての完成度の高さが感じられる。

少し脱線するがこの小説を読んで、昔自分が20代前半であった頃にちょうど40代付近であった会社の先輩のことを思い出してしまった。家族持ちで単身赴任をしており、とても穏やかな方だった。ところが20代の女性の部下ができた途端、急に男としての魅力がアップしていった。ここで重要なのは、会社のよき先輩としての魅力がアップしたのではないという点だ。明らかに香水もつけ始めたり身なりもきちんと整え始めた。

しかし、男としての魅力をアップさせたその先輩の先には何が待っているのだろうか。もしくは何を期待していたのだろうか。結局どこかでこの小説の主人公のように、尊敬を受けたり慕われたりしていたのは40代子持ちの自分ではなく、あくまで会社の先輩としての自分だったということに気づくことになったのではないか。今となっては懐かしい思い出である。

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