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外資系企業に対する営業をしてみてわかった外資系企業の特徴

もう10年も前の話になるが、以前勤務していた銀行で、在日外資系企業の営業を担当していた時期があった。当時担当指定のは文字通り、在日外資系企業に特化して資金調達や決済等の営業を行う仕事で、全国津々浦々の外資系企業に触れることができた。

外資系企業というとゴールドマン・サックス、P&G、マッキンゼー、デロイト等華々しいイメージを持たれる方が多いかも知れないが、日本全国に約2,800社存在する外資系企業の業種・形態・国籍は多種多様である。むしろ外資系投資銀行や外資コンサルティング会社のような企業は少数派である。中には従業員人数が少人数の中小企業のような会社もあれば従業員を数年人規模で抱える企業もあり、元々日本の会社であったのに外国企業に買収されて急に外資系企業になった会社もあり、シャープのように外国企業に支配権を握られている会社もあれば、外国企業と日本企業とでジョイントベンチャーを組んで事業を行なっている企業もある。国籍も米国系や欧米系、アジア系と多岐に亘る。

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/gaisikei/result/result_54/pdf/2020gaikyou-k.pdf

日本には約368万の企業があるが、外資系企業は約2,800社しか存在しない。この非常にニッチな企業に対して営業を行なったことで理解した外資系企業の特徴を脈絡なく述べてみたい。

簡単にまとめると、外資系企業には以下の特徴がある。それぞれ説明をしていきたい。
・日本企業以上に日本市場にコミットしている
・決定権限は本社にある場合が多い
・日本市場からの撤退リスクは常に存在する

1.日本企業以上に日本市場にコミットしている

そもそもだが、外国の企業が外資系企業が日本に進出する主な理由としては以下が挙げられる。
①日本で研究開発を行う
②日本で製品を製造する
③日本市場で商品を販売する
④日本で資材を仕入れて他国に送る
⑤(少し変則的ですが)日本でアジア地域の拠点を管理する、地域統括階差VC(リージョナルヘッドクオーター)として財務・購買・調達部門を設置する

上記のうち、実感としては最も多いケースは③である。世界第3位のGDPを誇る巨大市場に対して、販社として商品・サービスを投入するビジネスである。この感覚値については下図(再掲)の業種別分布において、卸売業やサービス業が大半を占めていることとも整合する。

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/gaisikei/result/result_54/pdf/2020gaikyou-k.pdf

なお、①や②のような研究開発・製造拠点は従来は少数であったが、TSMCの熊本工場の建設のような事例や、外国企業による日本企業の買収の増加等により今後は増える可能性は十分にある。今後、地政学的観点から日本の相対的な魅力があがりそうであること(後段6で詳細について述べる)、円安により比較的日本企業が安く買えること、が主な理由である。

<外国企業が日本企業に買収・出資した結果、外資系企業となった企業。()内は買収または出資した企業>
・シャープ(鴻海精密工業、台湾)
・タンガロイ(バークシャーハサウェイ、米国)
・大洋薬品(テバ、イスラエル)
・アイライン(ランスタッド、オランダ)
・オギハラ(タイサミット、タイ)
・日立化成エレクトロニクス 三春工場(ホリストンポリテック、台湾)
・アルファナテクノロジー(サムスン電機、韓国)
など

④のように資材調達に特化した商社機能を有する外資系企業は自分が知る限りかなりの少数派であった。⑤のような地域統括会社は大半がシンガポールにあり、日本に置いているケースはかなり希少である。

前述の通り、外資系企業は日本に販社として進出しているケースが大半であるが、これは何を意味するのだろうか。外資系企業は日本という市場から逃れることができず、真正面から向き合い事業を拡大しなければばならない、ということである。

日本企業であれば「日本は落ち目だから外国に進出して稼ごう」という考えもありうる。だが外資系企業はその事業の対象地域が日本に限定されており、逆説的ではあるが日本企業よりも日本市場へのコミット度合いが強いのである。

したがって、グローバルで英語を日常のように駆使する華やかな外資系企業の一般的なイメージとは裏腹に、実は日本企業以上にローカル&ドメスティックな社風である外資系企業が一定程度存在する。

2.資金調達や購買、銀行口座開設の決定権限は親会社にあるケースが大半

在日外資系企業の中には、ある程度本社から自治権を与えられて日本での資金調達や資材調達まで裁量を与えられている企業もあれば、特定の業務のみに特化し、その他の業務はすべて本国が行う企業も存在する。

大半の在日外資系企業が本国から求められているのが販社機能であることを踏まえると、その他の機能、例えば資金調達や資材調達、購買の意思決定の決定権限は在日外資系企業には与えられていないケースが多い。すべて本社または他国の地域統括会社の財務部門や購買部門の承認が必要となる。

したがって、たとえば外資系企業に「銀行口座をうちの銀行で作ってください」「資金調達しませんか」と提案しても「いや、それはすべて本社でやっているので自分達では決められないんです」と言われ、ここで会話が終了してしまうケースがある。基本的には親会社の方針にもとづき物事が決定される。

3.日本市場からの撤退リスクは常に存在する

1.で、「日本市場に対するコミットは日本企業以上に強い」とは述べたものの、それは日本市場にいる間の話。もし収益が上がらなければ本社判断により撤退を余儀なくされる。自分が知る限りでも、急遽撤退が決まって他のアジア拠点に業務を集約しました、といった類の事例には何度も遭遇した。

このように、撤退リスクがあるからこそ外資系企業には長期的な信用を供与する取引は日本企業対比ハードルが上がる(例えばリース取引や長期のローン等)。少し脱線するが外国人駐在員に対して住宅ローンの提供ができないのと同様の理由である。シンプルに帰国してしまうリスクがあるから数十年の与信ができないのである。

なので、在日外資系企業にローン等を長期取引を行う場合は基本的にはその撤退リスクを考慮し、親会社保証の差し入れ(子会社が債務不履行になった場合は親会社がその債務を保証します)をすべき、というのが基本的な考え方となる。

4.(おまけ①)外国語が喋れて本国とうまくコミュニケーションをとれる人が出世している

ここから先は少し社内の様子を語ってみたい。
基本的に社長を任されている人は本社とのコミュニケーションが言語の観点・会話の内容の観点からよく取れている人であり、こうした人が長期政権を築いている印象を受ける。こうした方は本社の役員が来日したときのおもてなしの仕方も上手で、東京の超高級料亭でもてなしたり、監督官庁・重要取引先との面談をアレンジし、日本市場でよくやっている姿を本社にきちんと伝えている。

従業員は少人数であるケースが大半で、小規模である分アットホームな雰囲気も感じられるかも知れないが、日本の大企業のような社内異動がわるわけでもなく業務や部署は基本的に変わらないので、そこで人間関係が合わなかったら終わりという雰囲気もある。会社によっては日本企業以上にウエットでムラ社会的なカルチャーが漂う先もある。

5.(おまけ)では、外資系企業にはどんな提案が刺さったか

在日外資企業には決定権限も限られていて、撤退リスクもある。では銀行としてどんな提案が刺さったのか。これは「日本社の財務体質改善」に寄与する提案であれば基本的には好意的に話を聞いてくれ、さらには本社に対して日本社から積極的に承認を取りに行ってくれる。具体的には「売掛金の流動化」「ファクタリング」である。自分が外資系営業を担当していた数年の間、面白いように提案が刺さり、そして成約した。

外資系企業は、日本社の財務体質改善、とくに自己資本比率の上昇を本社から課されることが多い。自己資本比率の上昇には主に
①当期純利益を上げるか
②総資産を圧縮するか
の2つの方法があるが、売掛金や手形債権の早期回収またはオフバランス化は上記②に寄与する。外資系企業の本社から見れば、遠い極東の日本という国で、得体の知れない取引先から販売代金が回収できていない、というだけで不安である中、その債権を銀行が買取り早期にオフバランス化してくれる(※)のであれば、本社にとっても日本社にとっても喜ばしいことである。一方で、邦銀にとっても、いつ撤退するかわからない外資系企業のリスクを直接負うよりも、素性を把握している日本企業の売掛金のリスクの方が取りやすい。そういうわけで、債権流動化はかなり件数制約した記憶がある。

※オフバランス化の要件は会計士の先生にご照会ください。商品によっては100%オフバランス化されないものもあります。

6.最後に:これから外資系企業の進出は増えるかも知れない

外資系企業は日本国内ではニッチな層ではあるが、今後増える可能性をこの頃感じている。外資系が増える方法には主に
①日本企業が外資系企業になる(=外資に買収される)
②外資系企業が拠点を新たに日本に新設する
の2パターンあるが、①については、後継者不在で技術の伝承が難しい企業等を狙って工場または企業を買収してしまうケースは今後も横ばいで推移するだろう。②については、これから増える可能性が高い。特に半導体等の製造業を始めとしたサプライチェーンの脱中国が進む中、中国に代わるアジア事業の中心地をどこに置くべきか、と考えた場合に日本が選択肢となる可能性は十分あり得る。

以上、外資系企業を外から見た経験をもとにその特徴を話してみたが、もしいわゆる外銀・コンサル・P&G等の「ザ・外資」以外の在日外資系企業で働いてみたい、もしくは営業に行ってみたい、という方がいれば本記事がご参考になれば幸いである。


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