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「銃・病原菌・鉄(下)」の「発明は必要の母である」の章を読んでいたら人工知能やブロックチェーンが頭に思い浮かんだ

「必要は発明の母である」という言葉がある。まず最初に顕在化しているニーズや課題(必要)が存在し、次にそのニーズに応えるために何らかの解決策が発明される、という順序について述べた言葉である。

しかしながら、「銃・病原菌・鉄」の下巻の「発明は必要の母である」では「発明がどのようになされるかについての一般的な見方では、発明と必要の関係が逆転している」と述べている。歴史上大きな発明というのは常に「発明」が先にあり、その後、社会でそれを受け入れるための複合的な要素が整った段階で、ようやく普及することが述べられている。

さらに同書は「ワトソンやエジソンのような、非凡や天才の役割が誇張され過ぎている」とも言っている。歴史上、日の目を見ずに消えていった発明は数多く存在する。その中で日の目を見た発明とは、一人の非凡な天才がパッと出てきて一気に社会に普及させるものではなく、それまで先駆者が築いた技術的・学術的な遺産を、タイミングよく社会に実装できる形で改良した事例がほとんどだという。同書によればワット、エジソン、ホイットニー、ライト兄弟といった歴史上の偉大な発明家は全てゼロから蒸気機関や電球、飛行機や機織り機を創作したわけではなく、いずれも先駆者が残してきた遺産を改良し、商業的成功を可能にさせたのである。

同書の主張を現代の発明に当てはめた場合、成功のポイントとは、「その内容が全く誰も思いつかなかったようなアイデアかどうか」ではない。既存の技術の組み合わせの下、「Why Now(なぜ今、そのアイデアが受け入れられるタイミングなのか?」という問いに答えられるかどうか、だと考える。

ここで思い浮かぶのは人工知能とブロックチェーンの二つの技術についてである。

人工知能は2010年中盤から急速に注目度合いが高まり、実社会への実装が一気に進んだように思えるが、実は人工知能自体は1950年代から存在してきている。1950年代後半の第一次AIブーム、1980年代の第二次AIブームを経て、ようやく今、Chat GPT等の爆発的な普及も含めて社会に受け入れられつつある状況である。

なぜ、今になってようやくAIが爆発的に普及したのか。それは主に以下3つの要因があると考えている。

1. CPUの高速化:10年前や20年前と比べ、CPUが大幅に高速化し、大量のデータを扱うための土台が整った。
2. ネットワーク環境の大幅な改善:帯域・遅延の改善に加え、モバイルデバイスの普及によりどこでもアクセスが可能、と言う環境が整い、大量のデータ収集がしやすくなった。
3. クラウドの普及:大規模データへのアクセスが容易になり、またストレージコストが大幅に低下した。

特に3. のクラウドの普及はAIの普及を後押しした最も大きな要因だろう。クラウド以前は、ハイパフォーマンス・コンピューティングのみでしか大規模データ処理ができなかった。そのため、このリソースにアクセスでできる人とできない人とでデータ分析・リサーチ行動の範囲に大きな差が生まれていた。一方でクラウド以後は、従量課金でのコンピューティングリソースの利用が可能となり、これまでアイデアを持っていても試せなかったリサーチャーやアナリストが、安価で仮説を試せる環境が整った。

クラウド技術との組み合わせにより、ようやく2010年代にAIは社会的な実装を経るに至ったのである。1950年の発明から実に60年ー70年経った今、ついに社会に受容される局面を迎えたのである。

一方でブロックチェーンはどうか。ブロックチェーン技術を基盤とした暗号資産は既に社会に受け入れられているが、それ以外の領域ではこれからという印象を受ける。ブロックチェーン技術が2008年の「サトシ・ナカモト」論文により誕生して以降、まだ15年程度しか経っていない。AIの1950年代からの長い道のりと比較すればまだまだ若い技術であることは間違いない。ブロックチェーンが急速に普及するタイミングはまだ読めない。何かしらの既存技術との組み合わせで来年にも爆発的な普及期を迎えるかもしれないし、50年後も今のままかも知れない。もしかしたらこのまま暗号資産と共に凋落していってしまうかも知れない。いずれにしても、「発明は必要の母である」の言葉の「必要」となる部分が明確に見つかっていない技術である。だからこそ、とてつもないポテンシャルを感じてしまう。

ちなみに自分自身はビットコイン投資という観点でしかブロックチェーン技術に関与できていないが、心の中では数多くのブロックチェーンスタートアップを応援している。長い目で行く末を見守りたい。

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