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冒頭小説「灰色の世界に咲く花が」

※これは気まぐれに書いた冒頭のみの小説です。続きは気まぐれに書いたり書かなかったり…


手首を縛られながら思った。
ああもう死んでもいいや。自分がしたいことなんて何にもなくて、こうやって縛られながら自分の回想に溺れていくんだ。

どこにも焦点が合わない目を、瞼の間からうっすらと開けた。グレーな世界はコンクリート壁なのか色味を失った俺の現実なのかもう分からなかった。分からなくてもよかった。どうでもよかった。

俺は今手首を縛られている。

えーと確か殴られて倒れた気がする。

どうでもいいと思いながらも頭は勝手に記憶を辿り自分の現場を分析しようとする。煩わしいことこの上ない。

時折しばる誰かの手が俺の手に触れる。
皮の手袋でもしているのだろうか。ギュっと力の入った固まりはツルツルした感触の奥に生々しい熱が感じられた。

そのリアルな温度が冷え切った身体とぼやけた世界に唯一の色味を感じさせてしまう。その生々しさから俺は思わず世界を見ようと目を見開いた。

ぼんやりとした世界を捉え始めた瞬間、
すっと力がぬけてその温度は離れていってしまった。

色を失った俺はまたグレーでぼやけた世界に戻っていき、そしてまた死んでもいいやと瞼の力を抜いて生きることを放棄した。

俺は殴られて倒れた。
そしてここに連れてこられ、手を縛られた。


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