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晴れの日も雨の日も#229 【創作SSタケおじシリーズvol.10(番外編)】おじさんが帰ってきた

タケシくんにはおじさんが一人いる。パパの兄貴だ。当然パパより年上だ。が、独身。いろいろあっていわゆる堅気の定職につけず、何とか食いつなぎながら一人暮らしをしている。
おじさんも肩身の狭い思いをしているようで、めったに帰ってこない。が、今度何かのついででもあるのか、何年かぶりに帰ってくるという連絡があった。

おじいちゃん、おばあちゃん、つまりおじさんのお父さんお母さんはウキウキソワソワしている。普段は「できの悪い不肖の息子」などと言ったりもしているのだが、おじさんの部屋も昔のまま置いたままだ。やはり気にもかけているし、帰ってくるのは嬉しいらしい。
ここ数日は二人でおじさんの部屋の掃除をしたり布団を干したり、風呂掃除やトイレ掃除を徹底的にやったりしている。ビールや日本酒もどっさり買い込んできた。歯ブラシや寝巻きも準備万端のようだ。


そしていよいよその当日がやってきた。
おばあちゃんはおじさんの好物のバラ寿司を作っている。
タケシくんは酢飯をうちわで扇ぐ係をかってでた。タケシくんだってなんとなく落ち着かない。一人で手持ち無沙汰にしてるのはイヤなのだ。
部屋中にいいにおいが満ち溢れている。
バラ寿司に入れる鮭の焼けるにおい。酢のにおい。

「なんだかいつものウチとは違う感じやねえ」とタケシくん。
「そうか?」と知らん顔をするパパ。おじさんのなんとなく帰りにくい事情や心情を思いやって、できるだけ普通に迎えてやりたいと思っているのだろう。

おじいさんがだんだんしびれを切らしてきた。
「ばあさんや、今何時じゃ」
「そう焦らなくてももうすぐ帰ってきますよ」
「何年ぶりかのう」
「楽しみですねえ」

ガラガラガラ〜。玄関の開く音だ。
「ただいま」
おじさんの声がした。
「おかえり〜」
みんなで一斉に玄関に向かい、おじさんを出迎えた。

長い間会わないうちにちょっとお腹も出て頭も薄くなったが、なんだか困ったようなはにかんだような顔をしたおじさんがいた。
「そんなとこに突っ立てないで入れ入れ」
「大好物のバラ寿司を用意してありますよ」
「おじさん、久しぶり〜。元気やった?」
「お、タケシか。でっかくなったなあ。もう抱っこなんかできへんなあ笑」

みんなで食卓について、まずはビールで乾杯だ。さあお楽しみの晩餐だ。
が、しかし、何となく場の空気がぎこちない。おじさんはもともとよく喋る方ではない。みんなもおじさんの近況についてどこまで聞いていいのか、様子見の感じだ。

「野球でも見るか」
見るに見かねてパパがテレビのスイッチを入れた。場の空気を救いたかったのだ。でもこうなるとますますテレビの声がいやに耳について、会話が弾まない。みんなテレビの方に逃げているのだ。

ついに我慢しきれなくなったおじいちゃん。テレビを消して、
「ところでおまえ、結婚は?」といきなり直球で切り込んできた。「・・・」無言のおじさん。
「いつになったらわしらを安心させてくれるんや」
「まあまあおじいさん、この子にはこの子のペースがあるんですから」とおばあさんがおじいさんを嗜めるのだが、それを聞いてか聞かずか、パシッと箸をおいたおじさん。
「そんなおもろない話したないわ。
 オレ、友達と飲みにいってくるわ」と不機嫌な顔で腰を浮かしかけた。

その時パパがすっと立ち上がった。CDデッキの前に行き、音楽をかけた。
「あ、この曲。。。」おじさんが声をあげる。

流れてきたのは、おじさんやパパが子供の頃、家族音楽会をやった時の曲。おじいちゃんやおばあちゃん含め、みんなの胸にその頃の楽しかった記憶が蘇る。
「あの頃はよかったなあ」おじいちゃんがぼそっと呟いた。

その時、ふっと明かりが消えた。
「あ、停電や。懐中電灯どこやったっけ」タケシくんが動こうとする。
カーテンの合わせ目から光が入ってきている事に気づいたおじいちゃんが
「そうや。今日は満月や。
 カーテン開けて、月見の宴としゃれこむか」
と言った。

その声に促されてタケシくんがカーテンを開けると、外は朗々たる満月の明かり。
「ほらすごいきれいなお月さまや」と皆の方を振り返ったタケシくん。
思わず目をこすった。

そこにいるのはなんとその音楽会の頃の4人だ。おじさんは縦笛を、パパはハーモニカを手にしている。おじいちゃんはギター、おばあちゃんはピアノだ。4人ともすごい和やかなステキな笑顔だ。
「あの頃も今も私達は変わらず幸せですよ。
 だって家族なんですから」
おばあちゃんの声が聞こえてきた。
夢なら覚めないで。たとえ幻でもそのままで。この時よいつまでも。


今年はしっとり柔らかい作品を書きたいと思ってきました。敬愛私淑するikue師匠のようにはいきませんが、今の私の渾身の創作SSです。ちょっと早いクリスマスプレゼントになったら嬉しいなあ。

佳日の幕開けを思わせる朝焼け。ここまで壮麗なのは希少&貴重

今日も最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました♬ 長井 克之

コーチングのご相談などご連絡等はこちらに→nagaib61s83@gmail.com
本メルアドは皆様の「心のゴミ箱」でもあります。グチ、やり場のない思いやイライラ、悩みなどもどうぞお気軽にお寄せ下さい。しっかり受け止めます。「心のオアシス」を感じて頂ければ誠に幸甚です

<予定(但し、臨時差し替え頻発😂)>
#230 あしたのためにその1 今日とは違う明日を創りたい
#231 【創作SSタケおじシリーズvol.11】整える
#232 さよなら2023年
(つづく)

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