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流れる景色を必ず毎晩見ている

毎晩、寺から自宅へ帰るまでのほんの数十秒、立ち止まって夜空を見上げる。

小学生の頃の流行歌の

「流れる景色を必ず毎晩見ている/家に帰ったらひたすら眠るだけだから/ほんのひとときでも自分がどれだけやったか/鏡に映ってる素顔を誉めろ」

という一節がこのときはいつも頭に浮かぶ。
寺の境内の暗闇にふっと、ぽつねんと立つ。

自らを追い込んでいる。よし、明日はもっとやろう。と前向きに捉えられる日もあれば、追い詰められているな、と黄信号を実感している夜更けもある。口を膨らまして大きく2度、3度「フッ、フッ」と音に出しながら力強く息を吐き、「さぁ」とか「よし」とか、自らに声を聞かせる。

別に星に詳しいワケではない。北斗七星の位置が毎日変わっているのを見たり、冬は寒さと静けさの中に突っ立って、「空気が澄んでいると星もきれいだな」とか思ったりする。

寺から自宅へ帰るまでの距離にしてほんの数十メートルの間。

私はいつも立ち止まって星空を見上げる。

時間にすればほんの数十秒に満たない束の間だ。漆黒の広大な宇宙に思いを馳せる。一個人の営みなんて、思い煩いなんてちっぽけに感じられるようなスケールを、ノックして帰ってくる。


<了>


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