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ベートーヴェン聴き続けて匿名ラジオに行き着いた夕べ

この1年10ヶ月はずっとベートーヴェンのピアノソナタと交響曲を聴きまくっていた。特に今年はずっとベートーヴェン。動画など知らぬ。気に入ったのはポリーニとヴェルリンフィルの演奏。苦悩の先に歓喜はあるか?

突然10月に入ってからはキレモノ広告サイトに出会い匿名ラジオをずっと聴いている。


ブレ幅が激しい。

これが歓喜かー。そういえば何故ベートーヴェンを聴きまくっていたのか。三島由紀夫の獣の戯れがきっかけで、この小説は30何以上前に読んで気に入っていたけどその頃はまだ高校生で四十手前の女の気持ちはわからなかった。

物語のあらすじとしてはとある女の夫とその付き人の23歳の若者と3人でピクニックに出かける。色々あって夫は半身不随になっていて若者と婦人とで誘惑し合いプラトニックに盛り上がるのだけど誰もが三すくみという暗く華やかな物語で私は大好きなのだけど、執筆中の三島由紀夫がイメージに煮詰まっていて伊豆の宿屋でベートーヴェンのレコード(レオノーレ序曲のOp.72のb)を聴いて三日程で書き上げたという、いわばインスピレーションの源泉の一曲で、そんなに神秘な曲ならばと私もと、散歩を始めて数ヶ月経った2021年の1月の終わりから聴き始めることにした。


結局そのまま1年間そのレオノーレ序曲を帰り道に聴きながら過ごしていて辛い時期に大いに励まされたのだけど、いくらなんでも一年も毎日聴いていると私も交響曲を楽しく感じてきて、他の曲も聴いてみたいと自然に思い始めた。

年明けて2022年の1月5日はポリーニ80歳の誕生日だった。全く知らなかったけど、Twitterで落ちてくる譜面に合わせて弾くと光る鍵盤の動画を見て、なんというらかっこいい曲か!と痺れた。ピアノソナタ第十一番月光の第三楽章で狂おしい情熱に溢れ、どんなに困難でも歩くのをやめないっ!ガーン!!!


昼過ぎて雪も降っていて次の日から連休だったので三日間ぶっ通しでピアノソナタを最初から最後32番まで聴きイイネを付けまくって私は燃え上がった。いいなぁー。6月までピアノソナタ漬けでたまにショパンを聴くくらいだったけど、蒸し暑くなってきた雲が低く、昼下がりにふと田園を聴いてみたくなった。わくわく。


田園は嵐の交響曲だ。いかにも効果音になりそう。学生の頃に聴いた時は穏やかで退屈な曲だと思ったけど、それは肝心の嵐が来るまで辿り着いていなかった。もったいない。おどろおどろしく目一杯響く弦楽器の打音に引き込まれて、外を歩きながら私のヘッドフォンの中だけ荒れに荒れ悲劇に満ち溢れているのを楽しみ、ギャップを笑った。そして延々と田園ベースに聴き進めていき第九、第一、第五、第七のクリスタルのような響きが素敵だな…と思いつつやはり田園が素晴らしい。夏の嵐。私は冬から春、夏にかけての物語の中にいて秋にはすっかり足りなくなった。飽き足りん!延々と激しいオーケストラに叩かれて私のすっきりしない気持ちもかなり燃やし尽くした気もする。ピース。


本当はさめざめと泣きながら坂を登ってもいいのだけどこの後に及んで人目を気にしてしまう。みんなステージしか見てないよ。

思えば去年の1月21日にどんな曲でも構わない、宇宙でもテクノでもアイドルでも何でも来やがれと、音楽アプリの画面を押したら第九の第二楽章がバス停で鋭く鳴り響き、これは夜の砂浜の漣のように私の足下を流れ、薬指の間に無数の渦巻く小さな銀河が形成される瞬間だったのか。何度でも繰り返すどこにでもある普遍的な予感に身を浸して、これから先に何があるのか全くわからないのに既に全てを知っていたんだなと不思議に思ってなお頭を擡げる蚕のようにそこに飛び込む準備はできていた。後は糸さえ切られれば自らの重みで落ちるだけだ。ふぉーりんとぅげざあああ…


という激情の渦潮で水遊びしていたのだったけど、YouTubeで架空都市建設を見て爆笑し、以前から気に入ってた天才な方を発見し、奇妙な仮面に背筋を伸ばして繰り広げる認知の基準トークと、注意力が華厳の滝から落ちるドミノのような姿に引き込まれていった。


国語気質のADHD!


良いー。ベートーヴェンに並ぶというか凌駕する脳内解像度のレンズ。視野がまるでエベレストだと思う。鋭く険しく常人なら生存しにくい環境下で合理的に判断して的確に行動する。


私も自分の今までの物語を少しずつ書き起こしたい。今なら綾なす糸のように時間と場所を変えて、ついこの前までは許せないひどい状況だと思った事も、様々な人物をその時々の私自身を通してプリズムのように分離させてカラフルに楽しく語れる気がする。


ここは長文でも許されるポエティック空間。息をするように文字を書く文字書キスト。拷問は一瞬一秒。生きている限り自らの不可能性を思い知らされ続けてきたけど、本の一冊分くらい書いておかなければ死後出版もされねえからなー。

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