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【料理エッセイ】怪しい自販機で謎の調味料スリラチャを買ってみた!

 毎日、一万歩は歩くようにしている。

 適応障害になって以来、仕事量を減らし、心はずいぶん回復してきた。ただ、出勤をしなくなったので、油断すると朝から晩まで運動しないこともある。これはこれで不健康。

 だから、夜、スマホの歩数計を確認し、一万歩に達していなかったら、散歩に出かけることにしている。

 だいたい、二十二時過ぎが多いだろうか。できるだけ、知らない道を進むことにしている。こんなところにお寺があったんだとか、専門学校があったんだとか、様々な発見があって面白い。

 先日もうちから遠い街道沿いで、怪しげな自販機に出会した。真っ黒な外観に、蛍光レットがネオンのように輝きを放ち、場違いなパリピムードを振り撒いていた。

 最近の自販機は変わったものを売っていると聞いてはいたけど、こういうものも扱っているんだと感心しながら、まずは通り過ぎた。たぶん、辛いソースなんだろうなぁ。700円って書いてあったけど、けっこうするなぁ。いったい、誰が買うんだろ……?

 そのとき、わたしの中の「俺だな」スイッチがオンになるのを感じた。

 みうらじゅん曰く、旅先の土産屋で「こんなもの誰が買うんだろ?」と疑問を抱いたら最後、「俺だな」と思い込むことにしているという。その結果、趣味人として天下を極めるに至ったんだとか。

 この話を知ってからというもの、わたしも同様の修行に励み続けている。自分で決めた理不尽なルールに従うため、義務感で踵を返し、煌々と輝く光の方へ虫のように吸い寄せられていく。

 貯金を切り崩し、節約を心がけているかもかかわらず、得体の知れない700円の調味料を自販機で購入することに、当然、それなりの葛藤はあった。ただ、ここで買わなきゃ後悔すると悩みに悩み、千円札を投入していた。

 中学校の卒業式で校長先生が言っていた。

「やらない後悔よりやる後悔」

 ベタなフレーズだなぁとみんながバカにしていた。わたしもバカにしていた。まさか、弱い三十を超えて、こんなにもしみじみ思い出されるとは。

 ありがとう、先生。おかげで清々しい気持ちで、謎のソースを買うことができました!

 さて、ゲットした実物はこんな感じ。むかし懐かしいラブホテルのエアシューターみたいな入れ物に包まれていた。

 とりあえず、指に出して、ひと舐めしてみた。

 ふむふむ。

 ふむふむ。

 酸っぱ辛い味わいで、知っている味としたはタバスコに近いかも。ただ、ニンニクが入っているからか、粘度があるのでコクを強く感じられる。これ単体で美味しいというよりは出来上がった料理を引き立たせる使い方がよさそうだ。もちろん、お酒にも合いそうだった。

 だから、急遽、0時過ぎまでやっているスーパーで、様々なおつまみを買い込んできた。ワインを飲みつつ、片っ端からスリラチャをかけていく実験をスタートさせた。

 まずは冷凍の砂肝。

 はじめて買ったのだけど、チンした状態で抜群に美味しくて、そのことにビックリだった。味変をする必要性は感じられなかったが、このままでは単なる晩酌になってしまうので、とりあえず、スリラチャをたらーり。

 ふむふむ。

 ふむふむ。

 美味しい! 肉と相性がいいらしい。生の砂肝の下味として、これを使えばかなりよいのではないだろうか。

 してみれば、ステーキソースみたいになるかもしれない。すかさず、割引になっていたオージービーフをささっと焼いた。

 これはもう間違いなかった。めっちゃ美味しい!

 肉だね。肉。

 スリラチャは肉を美味しく食べるやつ。

 ただ、そうなると魚はどうなのだろうと気になってくる。

 さすがに食べ過ぎにもほどがあるので、検証は翌日に持ち越し。次は魚と合うかを調べることにした。

 ってわけで、またしても便利なスーパーで割引になっていたマグロの釜焼きでチャレンジしてみた。

 骨に隠れた身を箸でホジホジし、スリラチャをちょんっとつけてみる。わさびを載せる要領だ。そして、頬張る。

 ふむふむ。

 ふむふむ。

 え? 普通に美味しいんだけど。

 他にもポテトサラダに入れてみたり、カレーやパスタにかけてみたり、思いつく限りやってみたけど、だいたいなんにでも合った。

 しかし、一点、いずれもスリラチャの味になってしまうことは気をつけなければいけないだろう。とどのつまり、わたしは酸っぱ辛くて、ニンニクのパンチが効いた味がシンプルに大好きなんだと思う。

 ただ、それだと、個人的な好みを表明するに過ぎないので、試行錯誤の末、これは確実とオススメできるアレンジレシピを紹介しよう。

 その名も、大人なエビのカクテルサラダ。お察しの通り、某サイゼリヤの人気メニューにインスパイアされている。

 調理は簡単。

 冷凍のエビを塩水で茹で、塩水で洗い、丁寧に水気を拭き取る。そうすることで臭みが抜けて、ぷりっぷりな食感になる。

 このエビをスリラチャとマヨネーズ、お酢で和え、適当な生野菜の上にドカンと載せれば、はい、完成!

山盛りになっちゃった

 ピリッと辛く、白ワインがすすんでしまう。

 まだ作ってはいないけれど、同様にして、手羽先をスリラチャで味付けし、小麦粉をまぶしてあげたら、大人の辛味チキンができるはず。

 なるほど、スリラチャはおうちサイゼの強い味方なのかもしれない。

 結果的に、スリラチャは悪い買い物ではなかった。海馬の奥底から校長先生の言葉を引っ張り出してまで、恐る恐る買っていたのが嘘みたいに、いまでは二本目を買いに行こうと思っている。

 ただ、ここでひとつ問題が。というのも、あてのない深夜徘徊でたまたま見つけた自販機なので、あれがいったいどこにあったのか、いまいち判然としないのである。

 きっと、ネット検索すれば、地図が表示されるのだろう。ただ、これは一期一会を楽しむものなんだよ、と心の中でみうらじゅんが囁いているような気もする。(あるいは700円の出費が冷静に痛いのかもしれない笑)

 なので、いつかまたスリラチャと出会えるようにと密かに願い、これからもわたしはウォーキングを続けるつもりだ。




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