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【映画感想文】夏鈴ちゃん主演の青春映画が半沢直樹なマリみてって感じで面白かった! オリジナル脚本なのがいい! - 『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』監督: 小林啓一

 櫻坂46の藤吉夏鈴ちゃん初主演映画が公開されたので劇場に行ってきた。夏鈴ちゃんのミステリアスな可愛さが好きなので、それを大画面で観れるだけでも十分魅力的だった。なんなら『Start over!』をスクリーンで流すだけでも見に行ってしまうだろう。

 ただ、今回、その映画も普通に面白そうなので期待値は高まっていた。

人気アイドルが映画に出るとなったら、最近は原作ありのものが多い印象。少女漫画を映画化し、メインキャストの男女に若手アイドルを揃え、売り出し中のバンドが主題歌を務める。それぞれのファンを掛け合わせることで興行収入の最低ラインを固め、低予算で確実に利益を出すビジネスモデルが定番となっている。

 これはこれで面白いものもあるんだけれど、関係者が食うための仕事と割り切っている場合も多く、合格点を超えればいいんだろって感じの投げやりな作品も少なくはない。

 ところが、夏鈴ちゃん主演の映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』はオリジナル脚本。キャストは『ベイビーわるきゅーれ』でお馴染みの髙石あかりさんなど実力派が揃っていて、本気の匂いを感じた。

 予告編を見ても、斬新な設定と王道なストーリーに興味が湧く。高校生の新聞部が学園の秘密を暴くために戦っていくという物語で、映画らしい映画だ。

 実際、見てみたら凄かった! めちゃくちゃ面白い!

 この学園ではなぜか文芸部が花形で、久間田琳加さん演じる部長を中心に『マリア様がみてる』のような品のいい世界が作られている。ごきげんようと挨拶したり、お姉さまと呼んだり、絵に描いたような麗しさ。対して、新聞部は非公認組織で、やられたらやり返すな『半沢直樹』ワールド。

 夏鈴ちゃんは文芸部に憧れていた新入生・所結衣として、ひょんなことから学園のどこかにいる正体不明の覆面作家・緑町このはを探すため、新聞部に潜入。

 新聞部は髙石あかり演じる部長が法律ギリギリアウトな取材を行い、先生たちや有名生徒のスキャンダルを公表。ダークヒーロー的な存在となっていた。そのやり方に疑問を持ちたつもり、所結衣もいつしか学園の秘密を知ることになり、真実を明らかにすることの意味と向き合わざるを得なくなる。

 週刊誌のスクープが世の中を動かしている現代っぽい内容だった。アイドルが主演の青春映画と言ったら、一に恋愛、二に恋愛と安易に陥る作品が多い中、真正面から社会派なテーマを扱っていた。

 とはいえ、だからって重苦しい話にならないような工夫が随所に張り巡らされ、終始、ギャグっぽい演出がなされていたのが素晴らしかった。そして、そこにこそ、アイドルを主演に使うよさが出ていた。

 夏鈴ちゃんに限らないけれど、歌手と違ってアイドルは多面性を持っている。ステージの上ではカッコよく、バラエティでは面白い。ストイックな努力が必要なのに、そう思わせない柔らかなビジュアル。そういう相反するアイデンティティを可愛いに共存させる奇跡の輝きを我々はアイドルと呼んでいる。

 かつて、日本のアイドル映画と言えば、純文学な文芸作品が多かった。定番は『伊豆の踊子』と『潮騒』だろうか。吉永小百合や山口百恵など、その時代を象徴するようなアイドルが主演を務めた。

 80年代に入ると角川やキティフィルム、ATGの面々がアイドルを主演にライト文芸作品を映画化。自由な解釈で、ほとんどオリジナルな作品が次から次へと作られ、「アイドル映画」という日本独自のジャンルが確立した。

 中でも相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』はヤバい。薬師丸ひろ子のヒット曲と「カ・イ・カ・ン」の決め台詞のキャッチーさとは裏腹に、日本映画屈指の芸術性と難解さを誇る怪作なのだ。

 はじめて見たとき、アイドル映画で薬師丸ひろ子の可愛さが売りなはずなのに、役者の顔が分からないほどのロングショットが多用されていて笑った。その後、『翔んだカップル』や『東京上空いらっしゃいませ』など、相米慎二監督のアイドル映画を見ても同様のロングショットを使っていたので、こだわりな部分なのだろう。観客の期待を裏切ることに並々ならぬ熱意を感じる。

 90年代に入るとアイドルのあり方が大きく変化し、CMタレントの側面が強くなっていく。牧瀬里穂、宮沢りえ、観月ありさの3Mだったり、広末涼子だったり、内田有紀だったり、歌手や女優としても活躍したけど、メインはテレビCMだった。80年代の混沌としたアイドル映画は減っていく。

(ちなみに宮沢りえ主演の名作『ぼくらの七日間戦争』は1988年。これも途中で原作にない戦車が登場するなど自由な解釈で作られていた。なんでも、同時期に撮影していた『戦国自衛隊』用に作ったもので、勿体無いので再利用したらしい笑 ほんと、80年代のアイドル映画はめちゃくちゃで素晴らしい)

 2000〜2010年代にかけて、女性アイドル映画はホラーが多くなっていく。大きな理由としては低予算かつ短期間で制作できるから。主演のアイドルのファンが複数回見てくれるだけで黒字が確保できるというのはあまりに強い。

 その記念碑的作品は大島優子主演の『テケテケ』であり、ももいろクローバー主演の『シロメ』であり、どちらもフェイクドキュメンタリーの旗手・白石晃士監督が手がけた。その巧みな演出術で、リアルに怯える姿の価値が示され、女性アイドル×ホラーという方程式は完成した。

 対して、男性アイドルに関してはジャニーズがあまりに強く、演出とか関係なく劇場に足を運んでくれるファンが確実にいるので、興行収入を見積もるためのキャストとして重宝されるケースが増えていった。極端な話、ジャニーズの人気タレントをツモれた時点で勝ち確なのだ。

 その中でも名作は数々生まれた。松本潤主演の『花より男子F』は原作を使わず、好き放題やっていたところにアイドル映画らしい面白さがあった。櫻井翔主演の『ハチミツとクローバー』も原作ではみんなで行けなかった海に行くシーンを入れている点がよかった。というか、この時期の嵐は凄過ぎた。

 こうして男女を問わず、アイドル映画は復活を遂げ、ついには原作・キャスト・主題歌の組み合わせでプロモーションまでワンセットになった作品が量産されたわけだけど、2010年代をピークに猛烈な勢いで失速している。冒頭で述べた通り、やっつけ仕事が増えていて、見に行ってガッカリなケースがあまりに多くなったからだろう。熱心なファン以外に広がらなくなってしまった。

 そして、2020年代、なんとなくアイドル映画は再び暗黒期に突入しているわけだが、今回、夏鈴ちゃんの『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』を見て、希望を感じた。原作なしで、これだけのものが作れるなんて、と。ひいては邦画の希望になり得るんじゃなかろうか。

 たぶん、Netflixでも、こういう作品は無理だと思う。というのも、めちゃくちゃ平和的なのである。アメリカの配信会社が制作する自由な作品って、暴力的だったり、エロティックだったり、エモかったり、派手だったり、ある種の型にはまっているから、アイドル映画のような不思議なジャンルを手がけることはできない気がする。

 もちろん、それらも面白い。面白いけれど、想定通りの想定外という印象がある。そうじゃない、本当に想定外の傑作というものはガラパゴスな文化の中から生まれてくるんじゃなかろうかとわたしは信じている。そういう意味で、アイドル映画という日本独自のジャンルはとても貴重だ。

 もし、『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』のような作品がこれからもどんどん作られていくとしたら、大きな流れが生まれるだろう。そうなることが楽しみである。




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