【料理エッセイ】地元にスタバができたらしい
地元にスタバができたらしい。中学時代の同級生から聞かされて、わたしはとても驚いた。と言っても、それは我が村初のスタバではない。3つ目のスタバだから驚いているのだ。まるで渋谷みたいじゃないか!
都心から電車で一時間ほど。いかにもベッドタウンな場所だったので、もともとは駅前に商店街があり、むかしながらのショッピングセンターがあり、わたしが幼少期を過ごした平成も半ばには未だ昭和の匂いが残り続けていた。
しかし、その後、リニアモーターカーが通るかもしれないと噂が流れ、遅ればせながらのバブルが到来した。
工場が更地になって、ピカピカの新興住宅にファミリー層がどんどん越してきた。大きなスーパーが次から次へと参入し、駅前の土地はまとめて買い上げられて、個人商店の連なりはあっという間に都会的な駅ビルへと姿を変えた。映画館も開業し、チェーンの飲食店もたくさんできた。人口が増えてきてことを受けて、近隣の郡などと合併し、気づけば政令指定都市へと成長。
そのため、2000年代には市内初のスターバックスが駅前にオープンし、早々にオシャレスポットとなっていた。
中二の夏、人気の雑誌でモデルをやっているクラスメイトがスタバでキャラメルフラペチーノを飲んでいた。その様子を横目に見ながら、「まあ、気取っちゃって」と思いつつ、わたしはエスプレッソをすすっていたのだから、どうしようもない。
老若男女、ピンからキリまで、酸いも甘いも。誰もがみんな、漏れなくスタバに集まっていた。
ハワード・シュルツの『スターバックス成功物語』を塾の先生から借りて、夢中になって読み耽ったのはその頃のことだ。
まだ、コーヒーの味なんてわからないガキンチョの癖して、スターバックスがコーヒー界に起こした革命の歴史を味わうように、エスプレッソばかり飲んでいた。
「砂糖とミルクを入れるなんて邪道だよ」
学校でそんな風に通ぶって語っていたのも、スタバがインスタントコーヒーに対するカウンターカルチャーとして生まれたものであると本で学んだからだった。
いわゆるコーヒーが普及したのは十八世紀半ばから十九世紀にかけてのイギリス。産業革命を支える労働者階級の飲み物としてだった。
労働時間を制限するなんて発想はないから、みんな、朝から晩まで働きまくり。疲れた果てた心と身体を動かすために、毎朝、大量の砂糖を欲した。このとき、カフェイン入りの苦い飲み物として、コーヒーは最適だった。
要するに、コーヒーはもともとエナジードリンクだったのだ。その後、自宅で簡単に摂取するため、コーヒーメーカーやインスタントコーヒーが発明され、世界的に第一次コーヒーブームが訪れる。
結果、コーヒーは砂糖やミルクを入れて飲むのが当たり前な時代が長く続いた。
そんな中、後にスターバックスを買収するハワード・シュルツはイタリア出張で街中のカフェでエスプレッソを嗜むカルチャーと出会い、大きな衝撃を受ける。そうか、コーヒーは香りを楽しむものだったのか、と。第二次コーヒーブームの始まりである。
とはいえ、コーヒー本来の風味に価値があると気がついていた人は他にもたくさんいて、事実、日本ではずっと純喫茶があり、こだわりのマスターがたくさんいた。なのに、どうして、スターバックスだけが抜きん出ることになったのか? ドラマ『アリー my Love』のヒットが影響している。
ボストンの法律事務所を舞台に、キャリスタ・フロックハート演じる主人公アリーが仕事に、恋に、奮闘を重ねるコメディシリーズで、日本でもNHKで放送されて人気となった。わたしも小学生の頃、ケーブルテレビなんかでハマりにハマり、その中でたびたび出てくるスタバのテイクアウトに憧れまくった。
2000年代、そんなわけでスタバはオシャレなお店として圧倒的な地位を獲得したわけである。
ちなみに、いま、コーヒーは第三次ブームを迎え、ブルーボトルコーヒーをきっかけにサードウェーブが人気を博している。
かつては、エスプレッソを注文して、出てきたコップを見て、
「え。小さい……」
と、驚きの声をあげていたわたしだけれど、齢三十を超え、近所の焙煎所でシングルオリジンの豆を購入し、ミルでごりごり粉にして、生意気にもハンドドリップを決めるようになってしまった。
ほんと、調子に乗ってるなぁと自覚しているが、やっぱり、丁寧に淹れるとめちゃくちゃ美味しい。
特に、スペシャリティと呼ばれる高品質の豆は酸味と甘味が印象的で、コーヒーがフルーツであることを再発見できる。
ちなみに、スタバもサードウェーブに乗っかるべく、バリスタが常駐している店舗を作り始めている。その名もスターバックスリザーブ。★/Rのマークが目印で、いまや全国に広がっている。
鎌倉駅前にもひとつあるので、先日、鶴岡八幡宮へ初詣に行ったついでに寄ってみた。値段は一杯千円前後と高いけれど、サイフォンだったり、フレンチプラスだったり、淹れ方を自由に指摘できる上、特別な席に案内してもらえるなど、極上のカフェタイムを堪能できる。
今回、わたしはコロンビア フィンカ ラ パルメラをハンドドリップでお願いしてみた。
飲み始めはライチのような味わいで、冷めていくとマンゴーみたいな甘さが漂い出したとレポートをしたら、普通、まさかコーヒーの感想だとは思わないんじゃなかろうか? そこがスペシャリティコーヒーの面白いところ。一度、この不思議な魅力に取り憑かれたら最後、やめられなくなってしまう。
一般的にはスタバなんて特別な場所じゃなくなってしまったかもしれない。なにせ、地元に3店舗目ができるぐらいだ。けっこうありふれている。
それでも、わたしにとって、スタバはいつまでも特別な場所であり続けるだろう。
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