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【小説】『娘帰る』まとめ(全29枚)【完結】

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『娘帰る』まとめ
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記事一覧

【ペライチ小説】_『娘帰る』_29枚目【完】

 お母さんのところに帰ろう。いますぐ帰ろう。もはや手遅れかもしれなかったが、万が一、間に…

綾野つづみ
8か月前
67

【ペライチ小説】_『娘帰る』_28枚目

 言いたいことはたくさんあった。だけど、どう不平不満を伝えたものか、さっぱりわからなくな…

綾野つづみ
8か月前
54

【ペライチ小説】_『娘帰る』_27枚目

 まったく。なぜにわたしはこうなんだろう。地下へと続く階段をくだりながら、反省で思考回路…

綾野つづみ
8か月前
49

【ペライチ小説】_『娘帰る』_26枚目

「ねえ、真紀ちゃん」  早稲田通りに差し掛かったとき、おばあちゃんが改まった様子で声をか…

綾野つづみ
8か月前
42

【ペライチ小説】_『娘帰る』_25枚目

 未来よりも過去の方が長い。そんな言葉をおばあちゃんの口から聞いて、少し、切なくなってし…

綾野つづみ
8か月前
39

【ペライチ小説】_『娘帰る』_24枚目

 今度は背筋を後ろにまっすぐ伸ばした。骨がポキポキッ鳴って爽快だった。ひょっとしたら身体…

綾野つづみ
8か月前
47

【ペライチ小説】_『娘帰る』_23枚目

 一人、ひっそり困っていると、突然、湿った匂いが漂ってきた。 「あれ。雨」  わたしの口から無色透明で軽い言葉がふわりこぼれ落ちると、おばあちゃんは鼻をくんくんさせて、慌てた様子で立ち上がった。 「あ。洗濯物。干しっぱなし」 「マジか。ヤバいね。手伝おうか」 「大丈夫。ゆっくりしてて」  腰をあげつつ、わたしはそれ以上食い下がることをしなかった。さっきの洗い物のときとは打って変わって、背もたれ深く体重を預け直した。いまはただ、思考の海にじっと沈んでいたかったのだ。

【ペライチ小説】_『娘帰る』_22枚目

「うーん。わたしだっていつまで元気でいられるかわからないしねぇ。そりゃあ、お母さんが一緒…

綾野つづみ
8か月前
25

【ペライチ小説】_『娘帰る』_21枚目

 幼い頃、母親がわたしを叱るのはわたしのためだと思っていた。辛くて悲しいときも、嬉しいこ…

綾野つづみ
8か月前
32

【ペライチ小説】_『娘帰る』_20枚目

「おい、真紀、なんか言えよ。お母さんはなんで、離婚だ、離婚だ、ギャーギャー騒いでいたんだ…

綾野つづみ
8か月前
25

【ペライチ小説】_『娘帰る』_19枚目

「ラストオーダーになります」  茶髪の女性店員が声をかけてきた。わたしが首を横にふると、…

綾野つづみ
8か月前
27

【ペライチ小説】_『娘帰る』_18枚目

 さらにわたしは父親を責めた。今度は傷つけるためにこそ、そう言った。 「なんでお前にわか…

綾野つづみ
8か月前
25

【ペライチ小説】_『娘帰る』_17枚目

「なんで。なんで、お父さんはそんななの」 「落ち着けよ。俺はなぁ、真紀。父親として申し訳…

綾野つづみ
8か月前
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【ペライチ小説】_『娘帰る』_16枚目

「まあ、仕方ないな」  父親はそうつぶやくと、空になった徳利を逆さに何度か振って、茶髪の女性店員を呼んだ。 「これ、もう一本」 「はい。よろこんで」  気づけば、店内は再びガヤガヤと活気を取り戻していた。 「それで、仕事はどうなんだ」  さやごと枝豆にかじりつきながら、父親は実に父親らしい口調で、父親らしい質問を当たり前のように聞いてきた。あまりにそれっぽ過ぎたので、つい、こちらもそれっぽく返してしまった。 「うーん。一応、楽しいは楽しいかな。どうしても自由な時