【ペライチ小説】_『娘帰る』_23枚目
一人、ひっそり困っていると、突然、湿った匂いが漂ってきた。
「あれ。雨」
わたしの口から無色透明で軽い言葉がふわりこぼれ落ちると、おばあちゃんは鼻をくんくんさせて、慌てた様子で立ち上がった。
「あ。洗濯物。干しっぱなし」
「マジか。ヤバいね。手伝おうか」
「大丈夫。ゆっくりしてて」
腰をあげつつ、わたしはそれ以上食い下がることをしなかった。さっきの洗い物のときとは打って変わって、背もたれ深く体重を預け直した。いまはただ、思考の海にじっと沈んでいたかったのだ。