今日のジャズ(祝50周年): 5月21-22日、1974年@コペンハーゲン
May 21-22, 1974 “All Blues”
by Kenny Drew, Niels-Henning Orsted Pedersen & Albert Heath at Copenhagen for SteepleChase (Dark Beauty)
欧州に移住した米国黒人ジャズピアニスト、ケニードリュー(当時45歳)とドラマーのアルバート"Tootie"ヒース(同38歳)、欧州の技巧派白人ベーシスト、ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン(同27歳)を交えての本作二年前に設立されたデンマーク拠点のスティープルチェースレーベルによるトリオ録音。
コペンハーゲンでの春が余程待ち遠しかったかのような、春にみなぎる生命力に溢れたエネルギッシュな演奏で、リーダーのケニードリューが澄み切った音色のピアノで縦横無尽に弾きまくり、ベースもドラムも同じ水準の熱量で旋律を歩み、叩きまくるという力強さが感じられる。
録音が鮮やかに楽器の生音を捉えているのは、ECM同様に北欧ならでは、なのかもしれないが、4月3日紹介のペトルチアーニ収録の特性に似て低音域が浮いている印象で、時代的なトレンドなのか当時の欧州の音質的な嗜好性を象徴している。
普段は渋めのハードパップスタイルのドラマー、ヒースが手数の多い熱いプレイを繰り広げるのも、若きペデルセンの活力みなぎるプレイを受けてのものと思われる。特に4:08からのドラムソロでの主旋律をなぞって繰り出す太鼓のリズムのみならず音程を交えた歌心が素晴らしい。因みにそのニックネーム”Tootie”は、幼少の頃に”tutti-frutti ice cream”が大好きだったヒースに祖母が名付けたものだそう。
更に話が逸れると、ビートルズやプレスリーに影響を与えたリトルリチャードの1955年発表の初ヒット曲がその”Tutti-Frutti”という名前なので、そちらの音楽もどうぞ。リチャードの代表曲「のっぽのサリー」の一つ前のシングル曲です。
話を本演奏に戻すと、ペデルセンは黒人のブイブイというノリが優先するスタイルではなくて、クラシカルでテクニカルにグイグイ押して行く力強さが欧州の白人ジャズベーシストのDNAのなせる技で、だからこそ共演者の黒人二名との多様性の中で化学的な触発と疾走感が生まれているように感じられる。ペデルセンの演奏は正確なリズム感、ピッチと指捌きが聴きどころ。そのペデルセンに興味のある方は同じく70年代欧州収録のこちらのデュオ作品もどうぞ。
ドリューは、欧州移住後には、米国でハードバッパーとして活躍していた時とは異なる端正で軽やか、どこと無くクラシカルなスタイルで、盟友ペデルセンと長期にわたって名盤を輩出していく。これも欧州ならではの環境がもたらしたものと思われる。そのハードバッパー時代のドリュー参加の収録曲の紹介記事はこちらからどうぞ。この頃のドリューの趣も魅力があります。
ドリューはジャズハーモニカの第一人者、”Toots”シールマンスによる初期のアルバムにもサイドマンとして参加しています。こちらの記事には”Toots”のニックネームの由来が記載されています(似ているので同じ由来かと思ったら違いました)。
ドラムのアルバートは、ベースのパーシー、テナーのジミーと共にモダンジャズ創世記からその発展に貢献したフィラデルフィア出身のヒース三兄弟。
これに匹敵するのが、ドラムのエルビン、トランペットのサド、ピアノのハンクのデトロイト出身ジョーンズ三兄弟やキャノンボールとナットのタンパ出身アダレイ兄弟、そして現代ではニューオリンズ出身マルサリス四兄弟。
偉大なる音楽の才能の遺伝子が羨ましい。因みにこちらがアダレイ兄弟参加の紹介曲。
本曲はマイルスの名盤、”Kind of Blue”からのマイルスによるオリジナル作品でスタンダード化したもの。本曲は、リラックスした印象のあるオリジナルに比べると、かなり活力がありテンポが速い。
ヒース兄弟の息のあった演奏は、こちらのジャズギターの巨人、ウエスモンゴメリーの初リーダー作品でご堪能ください。そういえばウエスにもインディアナポリス出身三兄弟による共演アルバムが遺されています。
最後に、本アルバムのカバージャレットは、ドリューの娘さんのサブリナさんという事が、”Front cover photo: Sabrina, Kenny Drew’s daughter”とのクレジット記載事項で分かります。その兄弟となるDrewの息子さん、Kenny Drew Jr.も家系の音楽の才能を引き継いでジャズピアニストとして活躍しました。
その名前の「ジュニア」に関する考察は、こちらの記事をどうぞ。
音楽と共に素敵なひと時をお過ごしください。
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