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ジャズ記念日: 8月17日、1956年@ロサンゼルス

August 17, 1956 “Get Me To The Church On Time” by Shelly Manne and Friends (Andre Previn, Leroy Vinnegar) at Contemporary Studio, Los Angeles, CA for Contemporary (My Fair Lady)

白人最高峰のドラマーの一人、シェリーマンがクラシック指揮者として後年、世界的に名を挙げることになるアンドレプレビンのピアノのと組んで、有名なミュージカル、マイフェアレディの楽曲で構成されたアルバムを世に送り出すと、企画と演奏の素晴らしさで大ヒット。

ミュージカル楽曲にジャズ風アレンジを施すアルバム企画の先鞭を付けた。シェリーマンによる冒頭のスティックから持ち替えた後のブラシでの歯切れ良くメリハリの効いた正確でタイトなリズム、弾むように絶え間ない音玉を綴ってスイングするプレビンのピアノ、この二人を取り持つビートを繰り出すベースのリロイビネガー、三位一体の疾走感が素晴らしい。欧州出身でクラシックのバックグラウンドを持つブレビンが、27歳の時点で二人の猛者を相手に引けを取らず、ピアノで激しくスイングとドライブするのには驚くばかり。

プレビンはロンドン交響楽団の指揮者も務めた

ブラシでと言うと、本作約一年後の8月15日紹介曲、エルビンジョーンズ参加のピアノトリオとの対比が興味深い。清音派でキレ重視のマンと濁音派の粘りとうねりのジョーンズは好対照で聴き比べ応えがあるからだ。共に激しくスイングする演奏ながら、白人主体で西海岸の軽快さを持つ本作と、黒人で編成された東海岸スタイルの粘りと力強さの前曲では同じトリオでも趣が大いに異なる。そして何よりもドラムのブラシ捌きの比較に耳を傾けると面白い。特にドラムソロでその個性が垣間聴ける。正確なテンポと強弱のメリハリでスイングするシェリーマンに対して、後ノリのパワーで押して揺らぎのパルスを送るエルビンジョーンズ、このレベルまで来ると良し悪しといった次元ではなくて、嗜好性と相性となる。何を演奏するか、はもちろん重要だが、誰と演奏するか、は更に重要な要素だという事が分かる。

本演奏は、如何にもコンテンポラリーらしい乾いた爽やかな西海岸サウンドと合わせて、シェリーマンがNYから移住して開拓したウエストコーストジャズの王道の快作と言える。この作品がヒットしたことによって同コンセプトのトリオ演奏がマンを軸にシリーズ化された。

本演奏の聴きどころとしては、2分15秒からのピアノのリフレーズにドラムが応戦する箇所。ここに顕著に現れているようにアドリブが随所に散りばめられているのがジャズと本演奏の醍醐味。

本作品が記念すべき点は、8月4日紹介曲でデイブブルーベックがディズニーを初めてジャズに取り上げたのと同様に、一つのミュージカルの楽曲だけで構成されたジャズアルバムを初めて制作したところ。本作品の成功を受けて、”My Fair Lady”だけでも、ナットキングコールやオスカーピーターソンといった大御所も含めた複数のジャズ作品が制作されている。

シェリーマンは、本作の商業的成功もあって、その後も順調なキャリアを歩んでいく。そんな一つに自らの名を冠したジャズクラブ、”Shelly’s Manne-Hole”をロサンゼルスで運営していた時期があり、幾つかのライブ録音版も遺っている。

外観にはアビーリンカーン、ビルエバンスと
いった大御所の名前が掲げられている
名前のManneと「マンホール」をかけた名称
キースジャレット初期の名盤
左下にシェリーマンズホールのライブ録音との記載

マンは、フランクシナトラ主演映画、『黄金の腕』(The Man with the Golden Arm)で、ドラムを叩くシナトラに演奏指導をしたり、ドラマー役としても登場している。

007の「黄金銃を持つ男」(The man with the Golden Gun)は本作をパロったとの説もある

これらの功績を評してロサンゼルスでは、亡くなる直前の1984年の9月9日を”Shelly Manne’s Day”と制定しているそう。

さて、本作同様のコンテンポラリーレーベルと名エンジニア、ロイデュナンによる、マン参加のトリオ作の名演奏はこちらもどうぞ。

最後に、マンによる60年代の華麗なドラム捌きをどうぞ。こちらは東海岸でのインパルスレーベル作品。

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