【読書感想文】栄光の影の喪失感。そこにぐっとくる2冊。「シュードッグ」「25年後のセックス・アンド・ザ・シティ」
最近読んだ二冊の本について書きたい。
話題になったのはだいぶ前なのだけど、やっと読めたナイキのファウンダー、フィル・ナイトの「シュー・ドッグ 靴にすべてを」。
訳者の大田黒奉之さんの訳も素晴らしく、もうグイグイ、寝食わすれて読める。私は、一時期、オレゴンのポートランドに住んでいたことがあり、Nikeの本社(キャンパス)にも行ったことがあるので、オレゴンにもNikeにもひとかたならぬ憧れと思い出がある。当然今のランニングシューズもNikeヴェイパーフライだ。
また、ものすごく個人的な話だが、アディダスが長年のディストリビューターであるデサントを切って日本に独自進出してくる際に、取引先としてのアディダスにコテンパンにされた長く苦い思い出があり、それ以来、アディダスの靴は一回も履いてない。一生履かない。アンチアディダス。100%Nike派だ。
そんな私の個人的思い入れは置いておいて。
とにかく、フィル青年と共に、冒険に出かけよう、そんな一冊。戦後の爪痕の残る日本に一人やってきた、夢しかない青年。ナイキ大帝国ができていく、その興奮と闘い、トラブルとその顛末を全部追体験できる。
窮地に陥ったフィルを助ける逸話で登場する、クールな経済成長期の日本人ビジネスマンたちの姿にもホロリ。
フィルの名言
「寝てはいけない夜がある。自分の最も望むものがその時にやってくる。」
「臆病者がなにかを始めたためしはなく、弱者は途中で息絶え、残ったのは私たちだけ。私たちだけだ。」
もう一冊、こちらは出たばかり。
「25年後のセックス・アンド・ザ・シティ」。あのSATCの生みの親、キャンディス・ブシュネルがなんと還暦近くになって書いたエッセイ。びっくりするけど、私があれを夢中でWOWWOWで見てた頃って、そうか今から15年以上前なんだから、それはキャンディス姉さんも私も歳取るわけだ・・・!
こちらも一気読み必至の一冊。40代後半のいまだから、分かる分かる分かる・・・・!「あの頃があったから今があるんだけど、なんかこんな感じになるんだ、人生の後半戦って・・・・けっこうつらくない?」と言いたくなるそんな中高年女子(あえて女子と呼ぶ)が迎える”ミドルエイジ・マッドネス”、改めて見つけ出す自分と、人生を支えるシスターフッド。
60手前の彼女とその女友達は、ティンダーをためし、年下をためし、年上をためし、ワインを開け、子供を預かり、女友達を励まし、励まされ、まあ、なんというか、しぶとく楽しんでいる。
パイセンがそんなんだったら、うちらも勇気でますわー!!という一冊。
キャンディスの名言
言うまでもないが「やってみなくちゃわからない ( You never know)」の問題点は、やらなくてもだいたいわかるってこと。
それにしても、人生できらびやかな成功をつかんだ二人ではあるが、全編を通して感じるのは二人の「不安」であり「プレッシャー」である。フィルはなりたかったアスリートになれなかった挫折をばねに、スポーツへのあくなき愛を胸に、それでもこれが本当にやりたいことかのか?これが本当の自分なのだろうか?という満たされない想いの中に、ずっとさまよい続けている。仲間がいても、信頼する父親がいても、成功しても、愛する家族がいても、フィル自身が栄光の影で傷ついた青年のまま、燃え尽きそうなギリギリのところで闘う、その姿が時に痛々しい。その痛みはフィルが息子マシューをダイビングの事故で亡くしたことで頂点に達する。Nikeを作り上げた父の影で、アイデンティティを見いだせずに苦しんだ息子に自分を重ね、「息子は幸せだった。そう信じるしかない。」と書きながら、ぽっかり空いた穴のような喪失感を隠さずに語っている。
一方キャンディスはというと、彼女自身が時代のIt Girl(もちろん、キャリー・ブラッドショーのモデルは彼女自身)となりながらも、離婚や、NYシティから離れることなど、荒波の後半戦を迎える。手にしたものが大きいほど、失ったものが大きく感じるだろうが、全世界で大ブームを作り出した中心にいた彼女の喪失感はどのくらいのものなのだろう、想像もつかない。そして、彼女もまた仲の良かった友達を、つらい形で失うという経験をする。
二人とも、大きな成功、華やかな表舞台でスポットライトを浴び、賞賛を一度手にした人だからこそ、そのごっそりと削り取られるような喪失の影が深い。そして、そこに立ちすくむことなく、人生の後半を切り開いていくその人の強さに励まされる。
この2冊の良さは、若者には分かるめぇ、と思う。
この後、自分がフィルやキャンディスの年齢に近づいていくたびに、兄さん姉さん、お疲れ様です!また来ました!といって読みたい、そんな本。
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