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【読書感想文】ブレイディみかこさん「ワイルドサイドをほっつき歩け」。海の向こうでも頑張って働き、生きるおっさんたちがいる


イギリス南部ブライトンの、「底辺」とみずからが呼ぶエリアで、イギリス人の夫と息子の3人と暮らす、 ブレイディみかこさん。大ヒットになった「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」は、みかこさんの息子さんをはじめとする傷つきやすく悩み多い愛すべきティーンたちを取り巻くストーリーだったが、それと時期を同じくして書かれた、裏バージョンに当たるのがこの本「ワイルドサイドをほっつき歩け -ハマータウンのおっさんたち」。主人公は傷つきやすい時期を経て、さらに傷つき、立ち上がり、生きていく愛すべき「おっさんたち」のストーリー。

本を読む喜びはたくさんあるけれども、自分にとって未知の場所のことを、まるで自分のなじみの場所のように親しく感じる瞬間があることもそのひとつではないだろうか。

イギリスには20年くらい前に行ったのが最後で、その後はとんと縁もないのに、みかこさんのこの本を読んでいるだけで、私もいつのまにか、みかこさんやその友達のおっさんたちと、パッとしないパブで1パイントのビールをちびちびやりながらだれかのボヤキを聞く、その輪の端っこに座っているような気がしてくるのだ。


わたしが10年前にアメリカに移民の労働者としてやってきたから、国は違えど、みかこさんに対して、共感する、したくなるところが大きい。白人のおっさんと国際結婚してることも、出身が福岡なのも、本書の中で語られる「ジェネレーションX」世代なのもあり、共感度メーターがいろいろ振り切れる。

それにしても、同じ移民として心から感嘆するのは、みかこさんの生きる場所への「根の張りようの深さ」だ。海外に長く暮らすことと、生きている場所にどのくらい根を張れるか、というのは、ぜんぜん違う話だ。
個人の好みや資質もあるし、通った学校や結婚した相手などの運や縁も大きい。私の暮らすハワイでも、日本から移住してきた人(つまり移民一世)の中には、いつまでたっても日本から来た日本人としかつるまず、英語が全然うまくならないとか、ローカルの友達が皆無というもいる。みかこさんは、連合いさんの地元で暮らしているから否応なしに、というところもあっただろうが、それでも「日本人の妻」枠で色々な面倒くさいことをもうちょっとさらっとかわしていく生き方も出来ただろう。わたしは、それで済ましていることがたくさんあるから、ここまで近所の友達の人生のことをよく知っていて、心配したり世話をしたりされたりしている、みかこさんの生きる場所への入り込みよう、移民としての本腰感、「ココで生きていきますんで」という迫力、そしてそこに至るまでに通ってきたであろうみかこさんの苦労、とかを考えると、「みかこパイセン・・・」と呼びたくなってくる。

ただ、移民うんぬんを抜きにしても、一生けん命働くのに報われないむなしさとか、輝いてたころの残像を良くも悪くも引きずって年を取ることの切なさだとかは、世界のどこにいてもみんな同じ。だれもが分かる、心が痛むつれづれを書かせたら、みかこさんの筆は冴えまくる。


分断と批判のニュースばっかりで悲しいことの多い今。
俺たちも厳しいけど、あっちも厳しいらしいぜ・・・
海の向こうでおっさんたちも頑張ってるってよ・・・・ 

みかこさんの愛のあるまなざしで描かれたおっさんたち。
働き、生きていく、という人間の共通の営みに 慰められた。 

おっさん、頑張って!わたしも頑張る。


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