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絡まり

長女が帰宅してきたから、また、何かのミッションがありそうな気がしていたのだ。

日曜日の朝、家内が、ニコニコしながら、私に話しかけてきた。

コジくんに、やって欲しいって。

そして、これを、渡された。

恐る恐る開けると、出た。

心の中の、リトルkojuroが冷静に呟いた。

どうしたら、こんなに、絡められるんだろうな。

ここまで自然に出来るのは、才能か、技だな。


また厄介な宿題を渡してくれるものだと思って家内を見返すと、家内は、ニコニコ笑っている。そして、アクション付きで、こう、言った。

コジくんならば、やれば、できる!

心の中の、リトルkojuroが、笑いながら呟いた。

新たな、女王様からのミッションだ。

しかも、相当インポッシブルな、ヤツだよ。これは。


当然のことながら、私は、老眼である。細かいものは、老眼鏡をかけても、あまり見えない。こんな小さいもの、そもそも、かなり、ハードルが高い。

私は、謎解きや、クイズなどが得意な方ではない。そして、それほど好きでは無い。難問解決に燃える方ではない。だが、見かけよりは、負けず嫌いだ。特に、家族に落胆されたり、諦められるのは、何よりも耐え難い。

ちょっと、集中して、やろう。そう決意し、カウントアップタイマーのボタンを押した。

七つ道具を、密かに準備する。

私のコードネームは、516(注1)。

女王陛下や、王女様、王子様のミッションを、遂行する。

本日は、王女様のアクセサリーの奪還のミッションを、女王陛下から指令された。


やり始めてから、46分経過した。

アクセサリは、一向に、解けてこない。それどころか、悪化している気すら、する。

気弱になって、タイマーを一時停止し、女王陛下のもとに、恐る恐る、足を運び、ちょっと、弱音を吐いた。

あれ、だめかも知れない。専門家に、頼んだ方が、良さそうだな.....。

すると、女王陛下がこたえた。

いいのよ。無理ならば無理で。仕方ないわね.....。

そこで、シーンがチェンジした。

目の前に、指令の、マイクロテープが置かれている。


おはよう、コジくん。

今回は、この絡まったアクセサリの元の姿を、どうにかして奪還してほしい。

分かっているとは思うが、専門家にお金をかけて直してもらったり、途中で挫折するような、スパイにあるまじき無様な真似だけは、決してしないように。

例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。


なお、このテープは自動的に消滅する。

目の前に現れたマイクロテープは、発火装置が作動し煙が出て破壊された。

プシュ〜〜.......。


心の中の、リトルkojuroが、呆れ顔で呟いた。

また、妄想の世界に、逃げ込んで、現実逃避してしまっている。

それに、完全に、007とスパイ大作戦が、混在してしまっている.......。


私は、諦めて、また、机に向かい、絡まったアクセサリの元の姿の奪還作業という過酷なミッションに戻った。

人間、開き直ると、なんとか道を開くものだ。

悪戦苦闘の末、とうとう、ミッションが終わりに近づいた。

心の中の、リトルkojuroが、歓喜の声で叫んだ。

やったぜ!!奪還だ!!!

2時間12分も、かかってしまった.....。


だが、私は、冷静になって、心の中の、リトルkojuroをたしなめた。

まだ、輸送のミッションがある。

これを安全に、王女宅に届けねば。

そして、小志朗(注2)に乗り込み、王女宅へと向かった。

そして、王女様の、アクセサリ置き場に、ゆっくりと置いた。


心の中の、リトルkojuroが、静かに言った。

ミッション、コンプリート。


今回のミッションは、ちょっと、挫折しかけた。

しかし、家内も、長女も、私が、何でもできると思っている。

私は、便利屋ではない。

すると、心の中の、リトルkojuroが、呟いた。

分かってるよ。どんなことでも解決する、プロフェッショナル・エージェントだよな。

途中、007とスパイ大作戦が、 こんがらがっていたけれど。


長女宅を出る時、もう、日は、完全に沈んでいた。

だが、ミッション・コンプリート。


これで、いいのだ。



(注1)ジェームズ・ボンドのコードネームは007だが、私のコードネームは、kojuroなので、516になる。まったく、格好良くないが。

(注2)我が家の車には、小志朗=こじろう、という名前がついている。家内は私が運転すると酔うらしく、99%、家内がハンドルを握っている。

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