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『福島第一原発事故の「真実」』を読んで原発事故に関する情報をアップデートした

このnoteでは、原発再稼働の是非については何も語らない。あくまで福島第一原発事故について知ることだけを目的としている。

原発事故について語るのは難しい。事故当時の情報は錯綜していたし、私の記憶も曖昧だし、新事実が続々明らかになってきてるし。
さらに、原発再稼働問題と絡めると事態はよりカオスになる。
たとえば「原発事故 人災」と検索してみると、みなさんの主義主張を補強するため、都合の良い部分を強調しているように感じてしまう。

そういうわけで、ネットで得られる情報には限界がある……。情報リテラシー授業みたいなことを言ってみたが、やはり本にあたるのが一番だろう。

『福島第一原発事故の「真実」』というそのままなタイトルの本がある。

これがYouTube動画のサムネイルだったら間違いなく見ないだろう怪しげなタイトルだが、どうやら良本らしい。著者はNHKメルトダウン取材班、NHK系のレーベルじゃなくて講談社から出ている。NHKをあまり持ち上げるつもりはないが、事実ベースの取材記ではやはり強力だろう。
この本はこれまでの取材の集成ということで、過去にNHKメルトダウン取材班が出した本と内容が一部重複している。それらの本を読んでいる人にとっては既出の情報が多く、退屈かもしれないことは一応書いておく。
そしてもう一つ、これが重要なことだが、これは2021年3月に発売された本である。つまり、2011年当時には分かっていなかったことと、2021年になっても分からないことが書かれてある。まだ分かっていないこともある、ということで本書のタイトルは括弧付きの「真実」となっている。
原発事故についてはよく覚えているという人もいるが、その記憶はアップデートされているだろうか? 3つの原子炉でのメルトダウンがそれぞれ別のシナリオで進行したことを知っているだろうか?

さて、本書を手に取る。738ページもある……。分厚い……。岩波ジュニア新書より重い本を持ったことのない私にはキツイ。
まあでも難しいことをわかりやすく書こうと思うとこれくらいになるだろう。「5分でわかる〇〇」みたいに要約すると多くの大切なモノが抜け落ちてしまうし。

この本は、地震発生から始まる原発事故を追うドキュメントパートと、なぜ事故が起きた・防ぐことはできなかったのかという検証パートに分かれている。

ドキュメントパートは単にその時起きたことを描くだけではなく、その後10年にわたる解析の結果判明した事実や、未だ不明な事を示している。また、作業員の対応について、その対応がどのような影響を及ぼしたのかについても10年後の視点から教えてくれる。単に当時のニュースを切り貼りしただけでは決してたどり着けない、これぞドキュメントとなっている。
専門用語については出てくる際に説明があるが、なにもかもを0から説明してくれるわけではない。原発の簡単な発電原理などは前提知識だ。738ページもあるが、これ一冊でカンペキというわけではなく、他の読書につなげていく必要がある。面倒くさいが、まあしょうがない。
また、対応にあたった人たちには敬意を払いつつも過度に英雄視していないこともポイントだ。事故に関わった方々には尊敬の念を抱くし、決死の覚悟で挑んだことは本当に素晴らしいが、対応がすべて最善手だったかというと、残念ながらそうではない。もちろんあのような極限状態だ、彼らを責めることはできない。藤井聡太先生だって悪手を指すのだ。

そしてその悪手の原因を探るのが検証パートだ。作中で何度も出てくる非常用の冷却装置「アイソレーションコンデンサー」、通称イソコンが起動していないことはなぜ見逃されたのか。対応の中心にあった吉田所長の疲労度を発言をもとに定量化し、問題発生時の組織構造にも迫る。そして、そもそも津波への備えはできていたのか?

分量はドキュメントパートが5分の2、検証パートが5分の3ほど。700ページ超えのボリュームだったが、あまり格式張った文章ではないので、読むのにあまり苦労しない。
ドキュメントパートなんて私は一気に読んでしまった。それほど迫力と衝撃に満ちていて、正直なところ読んでいて絶句した。私が吉田所長の立場なら初日でぶっ倒れる。

全体として最も印象に残っていたのは、格納容器はそれぞれ状況が異なっていたので、2号機に関しては注水の失敗がかえって良い方向に転んだ可能性が高いこと。いやぁ、どう反応したらいいのか……。

この一冊を読めば原発事故について丸わかり! というわけではない。あくまで原発事故それ自体についての話で、それ以降の復興の話や放射能の問題についてはあまり触れられていない。逆に言えばそれだけ言及する範囲を絞っても738ページなのだ。これだけのページ数を割いてようやく原発事故に対する「よくわかる解説」になったのだ。

原発について語るなら知っておきたいことが書かれている本。気になるなら是非読んでみてはいかがだろうか。

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