平和な世になっても、それでもなぜ人は奪い合うのか。だって人間も生物だもの。
こんちは! だいごです。
皆さんは、ゲーム理論とか、囚人のジレンマってワードを聞いたことあるでしょうか?
経済や生態学を学んだ方は、おそらく一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
普段、私は生物の授業を担当していますが、
教えながら、生物の行動や生態学は、経済学と切っても切っても切り離せない関係だなぁと考えたりします。
だって、人間も生物だもの。
生物を教えていると、ここへんの分野はホント面白いなぁ。と思う今日この頃。です。
圧倒的に暴力の少なくなったこの平和な世でさえも、
なぜ、人は自分の権利を主張し合うのか。
なぜ、同じ場所の資源を奪い合うのか。
なぜ、服を着るのか…
読者の方が、そのような人間の利己的な行動が起こるしくみをゲーム理論を通じて理解し、最終的に「環境問題(共有地の悲劇)」について考えるきっかけにしてくれることを願い、文章を書きました!
どうぞ、最後までご覧ください。
大まかな内容はこちら!
① ケーキを公平に分け、かつ得をする最善の戦略とは?
② 囚人のジレンマからゲーム理論について考えてみよう
③ なぜ、環境問題(共有地の悲劇)が起こるのか?
私の生物の授業を受けている皆さんは、復習だと思ってぜひ読んでみてください!
ケーキを公平に分け、かつ得をする最善の戦略とは?
まずは、以下の事例について考えてみましょう。
20XX年12月24日
雪のチラつくクリスマスイブの夜。
AさんとBさんが、大人気店で買ってきたクリスマスケーキを今まさに食べようとしています。
いつもは譲り合う2人ですが、目の前にあるのは、大行列に3時間も並んで買ってきたクリスマスケーキ。
Aさん「2人で苦労して買ったクリスマスケーキなんだから、ちゃんと公平に分けようよ。」
Bさん「そうね。いつもは譲り合う私たちだけど、今回はお互いがきっちり納得して2つに分けましょう。」
普段は仲の良い2人ですが、なにやら今回ばかりはいつもと事情が違う様子です。
クリスマスイブの2人に発生したなんともケチな…
もとい。最重要課題。
どうやって公平にクリスマスケーキを分けるか? 問題
さて、あなたがAさんだったら、この状況をどのように乗り切りますか?
満たさなければならない条件は、2人が納得した状態、つまり公平にケーキを分け合うことです。
少しだけ考えてみましょう。
それでは、シンキングタイム、スタート!!
…
…
…
…
…
さぁ、何か思いつきましたか?
もし、近くに誰かいたらその考えを話してみてくださいね。
では、解答の一例をご紹介します!
はい。いかがでしょうか?
AさんBさんの一方がケーキを切って、切っていない方が切られたケーキを先に選ぶという今回の解決方法。
これを思いついたあなた、お見事!!!
確かにこうやって解決すればお互い納得しそうですね。特に、ケーキの大好きな子どもを納得させるにはよさそう…
では、一歩踏み込んで、もう少しだけ考えてみましょう。
それは、「ケーキを切る側が得なのか?」
それとも「切られたケーキを選ぶ側が得なのか?」
ということ。
うん、なんともケチな問いですね。
でも、ケーキが大好きな人にとっては死活問題なのです。
まぁまぁ。
そんなめんどくさそうな顔をしてないで、これも少しだけ考えてみましょう。
それでは、シンキングタイム、スタート!!
…
…
…
…
…
いかがですか? どちらが得か考えついたでしょうか?
なんとなく、選ぶ方が得なような気もするし、切る方が得な気もする。
なんともモヤモヤした気分ですよね。
実は、この「切る・選ぶどちらが得か問題」については、数学の証明などでよく出てくる「場合分け」が必要になってきます。
場合分けとは「もし〇〇だったら」って考えていくあれです。
お仕事でも、プラン1、プラン2、プラン3とか、いろいろ状況を分けて考えることってありますよね?
そして、この場合分けの基準とするのが「情報」の有無です。
Aさんの立場になって場合分けを考えてみると…
① Bさんのことをよく知っている、もしくは、知られている場合
▶︎ ケーキを切る側になったほうが有利です。
② Bさんのことをよく知らない、かつ、知られていない場合
▶︎ 切られたケーキを選ぶ側になったほうが有利です。
以上のように、相手の情報を持っているか持っていないかといった感じで、場合分けできます。
「え、ちょっと待って。Bさんのことを知っている・知っていないってどういうこと?」
となっている方もいらっしゃるかもしれませんが、以下のような状況を考えるとどうでしょう。
クリスマスケーキの上にのっているサンタさんを、Bさんがものすごく愛でていることをAさんが知っている場合。
Aさんが上の図の赤線のようにケーキに大小の区別可能な状態に切り分けたら…
さて、Bさんは大きなケーキと小さなケーキどちらを選ぶでしょうか?
そう。
Bさんは多少大きさが異なるケーキであっても、サンタさんがのっている小さなケーキを選ぶかもしれませんね。
つまり、Aさんは公平であるケーキ切り分けにおいて、得をしたのです。
※ これに対して、相手の情報を知らなくて、さらに相手からも情報を知られていない場合は、切られたケーキを選ぶ側に回った方が得です。
さて、読者の皆さんは、これをみて、
「え、これ不平等じゃん! Aさんずるいよ」
となるかもしれませんが、Bさんは愛してやまないサンタさんを手に入れられたのでこの切り分けに納得しています。
もし納得していなければ、サンタさんののっていない大きなケーキを選んでいるはずですから。
かたや、Aさんは大好きなケーキをちょっと多めに食べられて満足しています。つまり、戦略的に行動をして得をしたのです。
そう、一見、不平等に見えるかもしれないのですが、
実は、AさんBさんのどちらもこの切り分けに満足していますし、どちらも不幸にはなっていません。
「有利不利、得か損か。で人間関係を考えると戦略的でちょっと嫌。」
と思うかもしれませんが、
実は、皆さんも無意識のうちに戦略を吟味し判断しながら、行動をしています。
相手の情報や特性を理解し合い戦略的な関係性を築いているAさんとBさんだからこそ!!
クリスマスイブに起きた一触即発の「どうやって公平にクリスマスケーキを分けるか? 問題」を乗り越えてのかもしれませんね!!!
囚人のジレンマからゲーム理論について考えてみよう
ケーキの切り分け問題で考えたように、生物は環境から得られる情報を手掛かりに、そのときの状況に最適な行動を選択しています。
このような生物の行動選択を、数学的なモデルを使って考える学問をゲーム理論というらしいです。
ゲーム理論(ゲームりろん、英: game theory)とは、社会や自然界における複数主体が関わる意思決定の問題や行動の相互依存的状況を数学的なモデルを用いて研究する学問である。(wiki調べ)
それでは、「囚人のジレンマ」というゲーム理論でよく出てくる例えを使って、生物(今回は人間)の行動選択について考えてみましょう。
ある犯罪を犯した共犯者2人が別々の牢屋に閉じ込められています。
もちろん会話することも、顔を合わせることも不可能な状態です。
ここで2人の囚人は、1人の警察官からのある取引の提案をそれぞれ受けます。
警察官「君が相棒の有罪を主張し、相棒が黙秘すれば君は無罪放免だ。ただし! その代わりに相棒は牢屋に20年いることになるがね。」
囚人B「え、それは裏切りじゃないですか」
警察官「ああ、そうだ。裏切りだよ?」
囚人B「そ、そんなことできません」
警察官「そうかい、それは美しい仲間愛だな。ただし、相棒が君のことを裏切れば君が20年牢屋にいることになるが、それでもいいのかい?」
囚人B「それは…」
警察官「ちなみに、君も相棒も相手の有罪を主張すれば、2人とも牢屋に10年いることになる。よく考えてくれ。」
囚人B「…」
警察官「しかし、君も相棒も、黙秘すれば…罪を軽くせざるを得ない。その場合、刑期は1年になる。」
囚人B「え」
さぁ、とんでもない取引を警察から言い渡されてしまいました。
それでは、この一連の取引をまとめてみましょう。
① 相棒の有罪を主張し、相棒が黙秘すればあなたは無罪放免。
ただし、相棒は牢屋に20年いることになる。
② あなたも相棒も、それぞれが相手の有罪を主張すれば、2人とも牢屋に10年いることになる。
③ あなたも相棒も、黙秘すれば刑期は1年になる。
ただし、この取引の間、会話することも、顔を合わせることも不可能である。
さて、どうでしょう。
もし、あなたが囚人Bだとしたら、どのような行動を取るでしょうか?
あえて、強調しますが、この取引の間、相棒である囚人Aとは、会話することも、顔を合わせることも不可能な状態です。
取引を見てみると、③が一番刑期の短い最良の選択に見えます。
しかし、よく考えましょう。
相棒があなたを裏切らない保証がどこにあるでしょうか?(キリっ)
もし裏切られれば、牢屋で20年です。
さぁ、難しい問題ですね。
あなたの人生に関わる重要な問題です。じっくり考えてみましょう。
それでは、シンキングタイム、スタート!!
…
…
…
…
…
はい。どうでしょう。決心はつきましたか?
それでは、その決心を周りの人に話してみましょう。
どんな選択でも非難されることはありません。
これが囚人のジレンマという問題です。どうでしょう。難しいですよね。
さて、囚人AとBについて状況をまとめたのが上の図になります。
それでは、この図をもとに囚人Bが取れる2つの戦略について、整理してみましょう。
戦略① 囚人Aが相手の有罪を主張する(裏切る)場合
このとき囚人Bが取る最善の策は、囚人Aを裏切る、つまり、相手の有罪を主張することです。
だって、黙秘したら、牢屋に20年もいなければならなくなってしまうからね。
戦略② 囚人Aが黙秘する場合
このとき囚人Bが取る最善の策は、これも囚人Aを裏切る、つまり、相手の有罪を主張することです。
相手が黙秘していたら、自分は晴れて無罪放免。
すぐに牢屋を出ることができるからね。
ここまで、戦略①と②を見てきましたが、囚人Bが取る戦略で最も最善の策は、相手を裏切ることです。
ちなみに、これは囚人Aにとっても同じこと。
囚人Aも、囚人Bと同じように考えると相手を裏切ることが最善の策になるのです。
すると、どうでしょう。
囚人Aと囚人Bが最善の策として、それぞれお互いのことを裏切ると刑期はどちらも10年となります。
まぁ、痛み分けとも言えますね。
でも、ちょっと待って!!
囚人AとBは、それぞれ個人として最善の策を取りましたが、それは本当に2人にとって良い未来になっているでしょうか?
勘のいい方はお気づきのことと思います。
「あれ? どっちも黙秘すれば刑期1年でよくなるんじゃね?」
そう、これが囚人のジレンマ。
早く牢屋から出たい一心で、最善の策を選んだ。
…にも関わらず、
結局のところ、牢屋に、しかも余計に! 長くいる羽目にあってしまうのです。
相手がどのように行動するかが分からない以上、裏切ることが最善の策。
どちらの囚人も悪気?はないのです。
つまり、個人での最善策(最適解)が全体(ここでは囚人2人)の最善策にはならないということ。
ここではゲーム理論の詳細な説明は割愛しますが(説明できないというのは秘密)、なんとも興味深い例えですよね。
この考え方をもとに、次を考えてみましょう。
なぜ、環境問題(共有地の悲劇)が起こるのか?
それでは、なぜ環境問題が起きるのか? について、説明していきます。
囚人のジレンマでも使った図をちょっとだけ変えて、水産資源の枯渇問題について考えてみます。
上の図をよく見て、以下を読んでみてください。
漁師Aと漁師Bがいます。
どちらももうそれは優秀な漁師で、月に100万円も漁で稼ぐほど。
どちらもSDGsに興味があって学んでおり、水産資源の枯渇問題について興味津々です。なぜなら、漁で生計を立てているからです。
持続可能な社会を目指すためには、漁をしない時期を決めて、魚の数を維持する必要があります。
しかし、漁をしない時期は当たり前ですが、収入は0円です。
※ AとBそれぞれの漁の範囲やそこから取れる魚の量には限りがあるので、一方が休んでも、収入は変わらないものとします。
さて、どうでしょう。
もし、あなたが漁師Bだったら、どのように行動しますか?
もちろん、漁を休む期間をつくった方が持続的な社会をつくっていくことにはなることは頭では分かっています。
しかし、漁師Aが大漁旗を掲げて帰ってくるのを、ただ指をくわえて見ている。その状況にあなたは耐えることできますか?(ふふふ)
何か悔しい気持ちになりませんか?
もう一度聞きます。
もしあなたが漁師Bだったら、どのように行動しますか?
さっきの囚人のジレンマと同じように考えてみると、漁師A、Bどちらの立場に立っても、漁をして魚を取るのが最善の策です。
まぁ当たり前ですよね。だって、それに生活がかかっているのですから。
ところが、水産資源は限られています。
漁師Aや漁師Bだけでなく、
この世の漁師みんなが、もしそのように行動するとしたら、この先の未来はどのようになることが予想されるでしょうか?
10年後…
(あれ? 収入が…)
そして、50年後…
(あれ? あれれ??)
どうでしょう。
漁師AとBどちらも魚をとっていくと、
どちらも魚をとらない(つまり、収入が0円)状態に近づいていくのがわかりますね。
その理由はもちろん水産資源の枯渇。つまり、魚を獲りすぎたわけです。
うーん。これは、個人がそれぞれの最善策を取ったにも関わらず、結果として全体の最善策にならない囚人のジレンマと同じ結果になっていますね。
囚人のジレンマと違うのは、今の行動の結果が出てくるのに大きなタイムラグがあること。
自分の行動が、どれくらい大きい影響を与えるかを実感する機会が必然的に失われているのです。
今は良くても、あなたの行動は、何年後かの未来に悪い影響を与えてしまうかもしれない。
そこを判断するのが難しいからこそ、目先の利益に走ってしまう。
やれ、家建てろだの。
やれ、車でドライブだの。
やれ、ゴミ燃やせだの。
この状態こそが、環境問題(共有地の悲劇)の起こる原因だと僕は思います。
僕も目先の利益が欲しくなるし。
みんなも多少なりとも同じ状況を経験したことがあるはず。
でも、ここまで読んだあなたはこのジレンマを解決する方法を少しは思いついているのではないでしょうか?
よりよく生きるためには対話が必要みたい。だって人間だもの。
そう、このジレンマの唯一とも言える解決方法は「対話」。
囚人のジレンマだって、漁師の例だって、事前に話し合うことができれば、より良い選択をできたのではないか? と思いませんか?
話し合わないと、相手が何を考えているなんて分からない。
当たり前のことだけど、忘れがちなこの事実。
クリスマスケーキの件だって…そう。
戦略なんて練らなくも、初めから話し合えばいいのです。
Bさん「私、サンタさん好きなんだよね〜」
Aさん「え、そうなの? それならサンタさんはあなたにゆずるよ。」
Bさん「わ! いいの?? ありがとう(^^)」
Aさん「その代わりといってはなんだけど…ちょっと多めにケーキ食べてもいいかな?」
Bさん「うん、もちろん、いいよ♡」
Aさん「わーい!」
この地球は、究極的にいうと、みんなの共有の土地です。
その限りある資源をどのように使うか、どのように分け合うかはやはり合意のもとに決めたいものですね。
現代社会の多くは資本主義を採用しているから、二酸化炭素の排出量に税金をかけてみたり、土地に値段をつけてみたり。
一応の話し合いをして決めているようだけども、
いつの間にか、囚人のジレンマのような状況になってはいないでしょうか?
それは私たちの身の回りの出来事も同じ。
ぜひ、この記事をきっかけに、皆さん自身の身の回りのことも囚人のジレンマの例えのように考えてくれると、とても嬉しいです!
では!
おまけ 教育現場も囚人のジレンマに陥ってはいないだろうか?
たぶん、教育現場(つまり学校)でも囚人のジレンマが起きているんだろうな。と私は考えています。
時代が変わっているにも関わらず、なぜ教育は未だに変わらないのか?
変えていかないといけない! と頭では分かっていても変えられないこの問題。
おそらく、囚人のジレンマと同じ理由だ…
指導書もなく、安心安全が担保されていないリスクを犯して教育するよりも、これまでの経験則が通じる方法で教育した方が戦略的には最善の策。
その方が地域も保護者も安心するし、何より我々教員が安心できる…
でも、教育の全体を見てみると、
「あれ〜? 学校のここってどうなの?」
「え、まだ学校ってそんなことしてるの?」
「この校則って古くない?」
とか。いっぱい出てくる。
これって囚人のジレンマじゃね?
…この記事を書いてて、ふと思ったとさ。
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